JR、思考停止の民営化30年――立地に甘え、安全に懸念も

20170307 12
「『投資に見合うリターンが上がった』との説明だが、結果が出ているとは思えない」――。昨年末、『東日本旅客鉄道(JR東日本)』の投資家向け説明会で、参加者が首脳陣に厳しい意見を浴びせた。投資家が指摘したのは、鉄道事業が頭打ちの中、会社の成長に不可欠な生活サービス事業についてだ。同事業の内訳は、“ショッピングオフィス事業”と“駅スペース活用事業”の大きく2つに分かれる。前者は、子会社の『ルミネ』や『アトレ』が運営する駅ビル商業施設等からなる。後者の駅スペース活用は、コンビニエンスストアの『ニューデイズ』や、駅の構内を活用してテナントを集めた『エキュート』が含まれる。JR東日本は10年以上前から駅という優良不動産の活用を掲げ、多くの商業施設を造り、事業を拡大してきた。だが、2014年3月期~2016年3月期の最近3年間は両事業とも、業績の伸びが鈍化している。JR東日本の流通事業の象徴的な存在であるルミネ。2000年前後から、当時、伸び盛りのセレクトショップを積極的に誘致。ファッションの集積地として、百貨店を脅かす存在になった。現在は首都圏で15施設を展開するが、ここにきて勢いに陰りがみえる。昨年3月、JR新宿駅に鳴り物入りでオープンした大型商業施設『ニュウマン』(左画像)。30~40代の女性に明確にターゲットを絞り、飲食等物販以外の消費ニーズへの対応も狙った。ルミネによる新世代の駅ビルという位置付けだ。だが、初年度に200億円という売り上げ計画は達成できない見通し。先月下旬の週末に訪れると、上層階の物販テナントの客足は疎らだった。近くに店舗を持つ百貨店の幹部は、「何を売りにしているのかがわかり難く、フロア毎の満足感が少ない印象」と話す。自店に目立った影響はないという。

元JR東日本副社長で、現在はルミネの社長を務める新井良亮氏は、JR東日本の生活サービス事業を、こう評価する。「顧客ニーズの広がりに応じて業態を広げてきたが、必ずしも質の向上には繋がらなかった。その結果、売り場の作り込みが不十分な例が増えた」。グループの既存の施設も、苦戦が目につく。アトレは今年3月期、既存店ベースの売上高が前の期と比べて2%弱減る見通しだ。テナントの中で構成比が高い衣料が不振だった。石司次男社長は、「顧客のニーズに対応した、新たな価値を提供できなかった」と話す。都会の駅には自然と乗降客が集まる。やって来る乗降客を、買い物へと誘導する店舗さえ作れば、ある程度の収益を出し続けることは可能だ。JRにとって流通は重要な多角化の柱だが、その実態は“独占事業”である鉄道を毎日、同じように走らせ、安定した運賃を得てきた国鉄時代のビジネスモデルから大きく進化したものとは言い難い。JR東日本の元経営幹部は、「生活サービスは、常に変化を続け、新しい価値を生み出す必要がある事業。注意しておかないと、変わらないことを第一とする鉄道事業の発想が直ぐに入り込んで、停滞を招いてしまう」と指摘する。生活サービス事業を担当する表輝幸執行役員は、「立地への甘えが多分にあった」と反省する。同社は、グループの施設で買い物をしている客数は乗降客の4分の1程度と推定する。裏を返すと、駅を利用する顧客の実に4分の3を取り逃がしている計算になる。『三菱UFJモルガンスタンレー証券』シニアアナリストの安藤誠悟氏は、「立地の良さを考えると、現在の倍以上の収益を上げてもおかしくない」と手厳しい。JR各社は、地域と連携して人の流れを作り、駅から離れた場所にいる顧客を自ら取りに行く意識は薄かった。この点では私鉄各社が先行している。例えば2015年、商業施設やオフィスから成る複合施設『二子玉川ライズ』を完成させた『東京急行電鉄』。1980年代から地元の再開発組合に参加し、自治体や地権者と二人三脚で開発。東急の二子玉川駅周辺住民に留まらず、広い地域の人に交流の場を提供し、賑わいを作り出した。売上高に占める運輸事業の割合を見ると、JR東日本・『東海旅客鉄道(JR東海)』・『西日本旅客鉄道(JR西日本)』の3社が64~77%と高い。JRでは最も多角化を進めてきた『九州旅客鉄道(JR九州)』でも4割はある。それに対して東急は17.5%、『阪急阪神ホールディングス』は32.1%と低い。私鉄が歴史的に鉄道以外の事業を育ててきた結果であり、民営化後の30年、“前例踏襲”で鉄道に依存した経営を続けてきたJRとの差は大きい。予想PER(株価収益率)も、『近鉄グループホールディングス』の28倍に対してJR東日本は15倍と、株式市場での成長力への期待は私鉄のほうが高い。

20170307 13
「自分たちの土地をどう活用しようと勝手だ。何故一々、貴方たちに言う必要があるのか」――。首都圏のJR主要駅近くにある商店街組合の幹部は、JR東日本の担当者の開き直ったような言葉に、怒りがこみ上げてきた。この駅では、JR東日本が複数の出口に次々と商業施設を建てた。客を奪われ、商店街は衰退。JRは追い打ちをかけるように、改札内に“駅ナカ施設”を作ることを決めた。計画を知らなかった商店街幹部は慌てて事情を聞きに行ったところ、先の発言が飛び出した。「立地の良さから、『テナントとして入りたい』という声の多さに胡坐をかいているのではないか。周辺地域への思いやりが微塵も感じられない」と商店街幹部は憤る。“独占企業”だった国鉄時代そのままの官僚的で傲慢な振る舞いが残るうちは、地域を巻き込んだビジネスの創出などできないだろう。本業の鉄道事業も、潜在的なビジネスチャンスを見据えて新たな施策に挑戦する力は弱い。変化を嫌う“慣性の経営”が染み付いており、マーケティングの発想は乏しいのだ。JRグループで異例のマーケティングの成功例が、JR九州が発案した豪華寝台列車『ななつ星in九州』。2013年にスタートし、全国的な話題を集めた。今年5月、JR東日本の『トランスイート四季島』、6月にはJR西日本の『トワイライトエクスプレス瑞風』が相次いでお目見えする。“物真似”の印象は拭えない。「経営規模の大きさや収益力から、東日本・東海・西日本の3社は、九州・北海道・四国の3社を格下に見ている節がある。だが、今回は九州の成功をみて、慌てて豪華寝台列車を始めるのだろう」。あるJR関係者は、こう分析する。

国と自治体が全面協力し整備した新幹線も、懸念が広がる。2015年に開業した『北陸新幹線』は、当初のブームが去った2年目の利用者数の落ち込みは会社の想定を超える。昨年3月開業の『北海道新幹線』も、今年1月の乗車率は単月で初めて20%を切る等、閑散期の需要が伸び悩む。「“国策”とも言える新幹線を兎に角延ばせば、将来は会社を支える事業の柱になる」──。若し、JR各社がそのように考えていたとしたら、“思考停止経営”と言われても仕方がないだろう。JR各社が過去30年、国鉄モデルから根本的には脱皮しなくても、民間企業として経営してこられたのは、都市部のドル箱路線があったからだ。自ら需要を創造する苦労をしなくても、満員の通勤電車等を毎日走らせれば収益を出し続けることができ、現在は好業績だ。だが、将来を見据えると、今のドル箱路線も急速な人口減少に見舞われそうだ。『運輸総合研究所』によると、2045年の東京圏の鉄道輸送人員は最悪シナリオで年間延べ128億人。2009年比で8%減る。大阪府では2015年、68年ぶりに人口が減少に転じた。別のシンクタンクの調査によると、関西圏では2010~2030年の20年間に人口が9%減、中京圏でも8%減る見込み。人口減は、鉄道利用者数の落ち込みに直結する。元々、需要を生み出す力に乏しいJR各社が、ドル箱路線の稼ぎまでも揺らげばどうなるか。今のJR北海道の惨状を他人事とは言い切れない筈だ。同社は昨年11月、全路線の半分が単独で維持困難と発表。経営状況を踏まえ、路線の在廃を検討する協議を地元自治体との間で進める。不採算路線が集中する北海道北部・東部を取り纏める旭川市の西川将人市長は、「経営状態の厳しさを何故もっと早く公表しなかったのか」と戸惑いを隠せない。人口減少と、官僚的な国鉄の体質が合わさると、予想外の危機を招く。首都圏にも、その綻びが出始めた。先月下旬以降、千葉県内で駅員の業務時間を短縮する駅が増える。総武本線の新検見川や京葉線の千葉みなと等4駅で、早朝に駅員が不在となる。早朝の駅員不在は、神奈川県内では横須賀線の久里浜・衣笠等、既に幾つかの駅で見られる。同県では相模線の入谷・宮山のように、終日無人の駅も複数ある。何れも、乗降客数の減少等を踏まえたJR東日本の合理化策だ。今年1月、埼玉県のJR蕨駅で、視覚障害者の男性がホームから転落。列車と接触し、死亡する事故が起きた。蕨駅は有人だが、無人駅の場合、発生リスクが更に高まりかねない。過度な合理化は、乗客の安全を脅かす。JR東日本が安全管理を徹底できているかどうかは懸念材料だ。複数の労働組合の1つが運転士等一部組合員に実施したアンケートによると、「会社が安全第一を絶対的な価値観として貫いているか?」という質問に、回答者の計8割が「そう思わない」「どちらかと言えばそう思わない」を選んだ。要員不足や技術継承ができていないこと等が理由に挙がった。

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昨年6月、『関東運輸局』がJR東日本に対し、安全対策等を求める警告書を出した。千葉県で、常磐線の列車が線路保守に使う機材運搬用の台車に衝突した事故を受けてのことだ。2014年に神奈川県で回送列車が工事用の車両に衝突・脱線する事故が起きたのに続き、同様の事故が再発したことを同局は問題視。異例の警告となった。労組幹部は「事故発生時の基本動作ができないほど乗務員の質が低下している。いつ大事故が起きてもおかしくない」と、経営陣に対策を求めている。JR東日本で副社長・会長を務めた故・山之内秀一郎氏は、2008年発売の著書『JRはなぜ変われたか』(毎日新聞社)の中で、「JR東日本の最初の20年間は、国鉄が持っていた良いDNAが強く前面に出た。だが経営が安定するとともに、官僚的で傲慢な体質という悪いDNAが再び芽を出しつつあるという危機感を抱いている」と指摘していた。書籍の発売から約10年が過ぎ、その予測が残念ながら現実化しているようだ。だが、ある社員は「社内では『この本は読まないように』と言い伝えられている」と証言する。思考停止経営から、どうすれば脱却できるのか。ドル箱路線を持たないJR九州が、稼げる会社作りへ試行錯誤を続け、一定の成果を上げてきた取り組みから学べる点は多い。各社の収益力は、人口動態とある程度の相関性はあるものの、JR東海等のように経営努力で収益力を高めている例もある。今後30年は、首都圏を含めた日本全体で人口が減少し、経営力の差が更に明らかになりそうだ。JRは、30年前に国鉄として一度、経営破綻した歴史がある。JRが新たな成長モデルを作り出せば、人口減で閉塞感が漂う日本の大きな活力になる。 (取材・文/本誌 須永太一朗・大西孝弘・河野紀子)


キャプチャ  2017年3月6日号掲載




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