【変貌する報道・アメリカから】(02) 弱体化する調査報道

20170308 06
175年の歴史を誇る名門地方紙は、ショッピングモールの一角にあるこぢんまりとした貸しオフィスの中に移っていた。オハイオ州クリーブランドの『プレーンディーラー』。全米で30紙以上を所有する親会社(ニューヨーク)が2013年、編集部門の3分の1を解雇する大規模リストラに踏み切った。編集室は本社ビルから退去し、400人を超えたこともある記者らは90人を切った。人員削減の影響でとりわけ懸念されるのが、隠された不正等を明らかにする調査報道の弱体化だ。「市民に代わって公権力に疑問をぶつける。それが最も重要な仕事です」。そう語る同紙のレイチェル・ディセル記者(37)は7年前、地元で性的暴行事件を繰り返す男が野放しになっていることを知り、「捜査に問題があるのではないか」と取材を始めた。約半年かけ、地元警察に情報公開請求を繰り返したり、捜査関係者を訪ね歩いたりした結果、過去20年間の強姦事件で犯人が残した遺留物約6300件の内、約4000件がDNA鑑定されずに放置されていたことを突き止め、杜撰な実態を報じた。記事は反響を呼び、警察は「再捜査する」と表明。これまでに延べ約500人以上が起訴され、130人超が有罪判決を受けた。

報道は、地域の治安に大きく貢献した。しかし、親会社は新聞の宅配を週4日に減らし、インターネット配信で広告収入を上げる方針に転換。記者は、短時間で短い記事を多く書くことを求められるようになった。「私たちの報道は、全く別のものになってしまった」。ディセル記者は、残念そうに話した。アメリカの新聞は、伝統的に調査報道を重視してきた。地域の問題を監視する“番犬”という意味から“ウォッチドッグ”とも呼ばれてきたが、各新聞社で真っ先に縮小対象になったのが、こうした手間と時間がかかる取材だった。「“絶滅危惧種”になりつつある調査報道への称賛」(アメリカメディア)と評された映画が昨年、沈滞ムードの新聞業界を沸かせた。『ボストングローブ』の記者らを描き、『アカデミー賞』の作品賞等に輝いた『スポットライト』(ロングライド)。多数の神父が子供たちに性的虐待を加え、それをカトリック教会が長年に亘って隠蔽していたことを暴いた2002年の実話だ。ところが、同紙もリストラが止まらず、一時は存続さえ危ぶまれた。映画の監督が受賞後、メディアに語った言葉は危機感の裏返しだった。「市民にも、我々の民主主義には良いジャーナリズムが不可欠だとわかってほしかった」。アメリカで3番目に古いという1829年創刊の『フィラデルフィアインクワイアラー』(ペンシルベニア州)は2000年以降、売却に次ぐ売却でオーナーが5回以上代わった。8年前に破産申請した後は自社ビルを失い、現在は閉店したデパートの中にある。警察・検察取材歴30年のバーバラ・ボイヤー記者は言う。「オーナーが誰でも、私たちの役割は番犬であること。ただ、社会から消えた時、腐敗の扉が開く」。この状況を食い止めることはできないのか――。各地で、新たな試みが始まっている。


⦿読売新聞 2017年2月22日付掲載⦿
スポンサーサイト

テーマ : テレビ・マスコミ・報道の問題
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR