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【明日への考】(31) 大学教育無償化に支援の壁…手厚い制度、周知が不足

大学等の学費支援策の拡充を、政府の教育未来創造会議(※議長は岸田文雄首相)が検討している。昨年度に始まった高等教育無償化は、住民税非課税世帯等の学生の授業料を減免し、返済不要の奨学金を給付する。低所得世帯には手厚い支援だが、年収の僅かな差で対象外となる学生への配慮等が課題だ。奨学金制度の在り方を、どう見直していけばいいのだろうか。 (編集委員 古沢由紀子)



20220328 13
「給付型奨学金がなければ、希望の進路は実現できなかった。安心して大学に通えるのはありがたい」。東京都内の私立大2年生で小学校教員を目指す男子学生(21)は、率直に語る。家計が苦しく、当初は働きながら通える私立大の夜間部を目指したが、不合格になり、浪人して通った認定NPO法人『キッズドア』の学習支援教室で、返済不要の奨学金について知った。一般入試で合格した私大では、入学金の他、年間の授業料約80万円のうち、70万円が免除された。更に、年間計約46万円の奨学金が支給され、学費の不足分や教材費等に充てている。学ぶ意欲があり、家庭の経済状況が厳しい若者の大学や専門学校等への進学を支援する高等教育無償化は、消費税率引き上げの増収分を財源とする。住民税非課税か年収の目安が380万円未満の世帯が対象で、授業料減免と生活費に使える給付型奨学金は最大で年間計約160万円に上る。“赤字の大学の救済”を避ける為、進学先は経営状態等の要件を満たす必要があるが、大学・短大の98%が認定されている。文部科学省は、非課税世帯の生徒の大学・短大・専門学校等への進学率が昨年度、制度導入前の2018年度より10ポイント前後上昇し、約5割になったと推計する。全体の進学率は84%で、差が縮まった。昨年4月、萩生田光一文科大臣(※当時)は「給付型奨学金が、真に支援が必要な子供達の進学の後押しになった」と効果を強調した。政府の奨学金事業を担う独立行政法人『日本学生支援機構(JASSO)』が利用者に行なったアンケートでも、無償化がなければ「進学を諦めた」という回答が34%、「今の学校より学費や生活費がかからない学校に進学した」との回答が26%に上る。

国の奨学金制度は長年、貸与を基本としてきた。JASSOの前身は特殊法人『日本育英会』で、戦時中の1943年に『大日本育英会』として発足。大学生らに無利子で奨学金を貸与し、高度経済成長期には家庭の経済状況が厳しい成績優秀者に一部の返済を免除する制度も設けられた。進学率の上昇を受け、政府は1984年に有利子の貸与型奨学金を新設。1999年には有利子の利用枠を大幅に拡充した。JASSOの調査によると、1998年度に大学生の24%だった奨学金利用者(※民間の制度等も含む)は昨年度、約5割に増えた。大学の学費が上昇した一方で、給与水準が低迷した為だ。「奨学金の役割が、一部の優秀な若者だけでなく、できるだけ多くの人に学習機会を提供する方向に変わった。社会の変化に対応した知識・技能を身につける為、進学率が上昇した影響も大きい」と、JASSOの吉岡知哉理事長(※元立教大学総長)が説明する。日本育英会は2004年に行政改革でJASSOに移行し、その後、延滞者への回収業務が強化された。有利子奨学金の利率は民間のローンに比べて低いが、低所得世帯の学生が将来への不安から利用を躊躇う傾向もある。格差解消に効果がみられる無償化の内容が、十分に周知されていない問題も指摘されている。返済不要の給付型奨学金は、安倍晋三政権が2017年度に創設。当初の対象者は少数だったが、昨年度に大幅拡充され、授業料減免も合わせて年間約51万人分の予算(※約5300億円)が用意された。これに対し、利用者数は枠を大幅に下回る。昨年度は新入生と在学生を合わせて約27万人で、このうち55%が私立大、19%が国公立大、20%が専門学校に通う。今年度も利用者は約32万人にとどまる。文科省では「要件を満たす希望者全員に給付できるように十分な予算を確保した」と説明するが、制度の理解不足は否めない。進学前の奨学金の申請は、高校を通じて3年生の4~5月に行なう。今年度、給付型申請者の約半数は、世帯年収が基準以上で対象外となった。基準の算定は世帯構成等で異なり複雑だが、高校では「家計の事情に立ち入り、個別に奨学金を薦めるのは難しい」(首都圏の公立高校長)との声が上がる。「進学後に一定の成績を維持する必要はあるが、高校の成績で対象外にすることはほぼない」(JASSO奨学事業戦略部長の掛川千之氏)という制度の趣旨が、支援が必要な生徒に伝わっていない可能性もある。

困窮家庭の子供の支援に携わるキッズドアの渡辺由美子理事長は、「高校で詳しい説明を受けておらず、制度を知らない生徒が少なくない。中学校から早期に周知すれば、進学への意欲や保護者の理解に繋がる」と強調する。その上で「現行制度は対象が限られ、多子世帯等支援が届かず困っている家庭は多い」と訴える。給付型奨学金の対象を外れた学生は、民間や大学独自の奨学金を探すか、貸与型を利用することになる。給付型の対象者との収入の逆転現象は避けられない。中間所得層に皺寄せが生じている面もある。国立大の場合、以前は個別の基準で1割超の学生に授業料減免を行なっており、年収400万~800万円程度の世帯も対象になっていた。独自に減免を続ける国公私立大もあるが、国の新制度では、非課税世帯等に対象が一本化されている。奨学金制度に詳しい桜美林大学の小林雅之教授は、「学費減免の基準が統一されたことはよかったが、僅かな年収の差で不公平が生じる制度設計には無理がある。所得による給付額の差をなだらかにし、支援対象をもう少し広げるべきではないか」と提案する。政府の教育未来創造会議が、給付型奨学金の対象外の世帯にも支援策を打ち出すかが注目される。貸与型については、返済負担を軽減する“出世払い方式”が検討されている。先行例のオーストラリアでは、政府が授業料を立て替えて大学に支払い、卒業生は一定の年収を超えてから所得に応じた額を給与天引きで分割して納付する。過去にも自民党で類似の案が検討されたが、財源の確保が難題だ。現行の貸与型奨学金でも、返済期限の猶予や所得に応じて月々の返済額が変動する方式(※無利子型のみ)を選べる。だが、返済総額は変わらず、延滞者への強制執行が例年約300件に上る。「奨学金の趣旨を踏まえ、困窮者を最後まで追い込まない救済措置を設けるかどうかも論点になるだろう」と小林教授は指摘する。大学が無償の国も多い欧州等と比べ、日本は家庭の教育費負担率が高く、“学費は親が払うもの”と考える傾向も根強い。学生を通じて公費が投入される以上、大学の質も問われる。学費が高額なアメリカでは公的な給付型奨学金が充実しているが、しっかり勉強しなければ大学の卒業が難しい為、社会の理解を得易いという。奨学金制度を考える際には、これからの社会でどんな人材を育て、支えていくのかという大きな視点が欠かせない。


キャプチャ  2022年3月27日付掲載
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テーマ : 教育問題について考える
ジャンル : 学校・教育

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