【ヘンな食べ物】(28) ハッピーピザでアラーキーに!?

カンボジアの首都・プノンペンで、注文時に「ハッピー?」と訊かれ、「イエス」と答えると大麻入りのピザが出てくる――。そんな謎の噂を聞き、行ってみたという話の続き。国連職員も食事をしているお洒落で明るい店のテーブルに、表面が真っ黒になった“ハッピーピザ”が運ばれてきた。食べてみると、その粉はとても苦いが、焼いた大麻など食べたことがないから判断がつかない。そして、それ以外は香りも味も本格的なイタリアンのピザ。異様さが際立っていた。ゆっくりとピザを食べ、その後、ビールを頼んで寛いでいたら、軈て腹の底からもわっと暖かくなってきた。胃袋の中に温泉が湧いたような不思議な感覚だ。でも、大麻を食べたことがないし、酒の酔いかもしれないし、よくわからない。わからないまま勘定を済ませ(※メニューにあったピザの料金だけだった)、外に出ると妙に気分がいい。カンボジアが最も暑い4月のしかも13時過ぎ、日向の気温は50℃くらいに達していたと思うが、何故か暑さを全く感じない。目に映るものは何もかもが美しく、面白い。私はカメラで写真を撮りまくった。普通は、人物を撮る時は「いいですか?」と声をかけるのに、この時は反射的にカメラを向けてシャッターを切ってしまった。直後に微笑む。すると、誰一人不愉快な顔をせず、微笑みを返してくれる。こちらがあまりに無邪気なので、ついつられてしまうらしい。いい写真がバンバン撮れる。「俺、今、アラーキーになっている!」と思った。そう思うと気分は益々高揚し、「ハッピー、ハッピアー、ハッピエスト!」と幸せの形容詞を大声で活用していた。ホテルに帰るなりベッドに倒れ込み、そのまま10時間眠ってしまった。目覚めるとアラーキーではなく、只の人に戻っていた。未だにあの粉が何だったのか、よくわからない。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年3月9日号掲載
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