【「佳く生きる」為の処方箋】(42) 病気とともに佳く生きる

「元気で長生きをしたい」――。これは誰もが願うことですが、残念ながら、年を重ねるにつれ、“元気”と“長生き”との両立が難しくなってきます。日本人の平均寿命は、男性が80.79歳、女性が87.05歳ですが、健康的に自立した生活ができる“健康寿命”は、これよりもっと短く、その差は男性で約9年、女性で約12年と報告されています。つまり、晩年になるとそのくらいの期間は介護を受けたり、寝たきりになったりすることも多くなる訳で、この差を如何に縮めるかが大きな課題になっているのです。健康寿命を脅かす一番の原因は、言うまでもなく病気になることです。しかし、病気を抱えた人が皆、健康寿命を縮めているかというと、必ずしもそうとは言えません。前回ご紹介した78歳のタクシー運転手の方は、心筋梗塞の手術から20年以上が経った今も元気に働いています。持病を抱えていても、健康寿命を延ばすことは可能なのです。実際、私が手術をした患者さんの中には、そういう方が沢山います。勿論、それには条件があります。元々、持病があるのですから、健康な人以上に重要なのが自己管理。定期的に診察を受け、処方された薬を飲み、病気を悪化させないように十分気を付ける必要があります。若し具合が悪くなって自分では対応できないと思ったら、迷わず医師の下へ。医療機関に行くことを嫌がらない、或いは“医者好き”であることも、上手な自己管理の必要条件なのです。また、日頃の体調管理も肝要です。体調の指標として患者さんによく話すのは、睡眠・食欲・排泄の3点です。疲れた時はぐっすりと眠り、朝起きたら「あぁ、よく寝た」と思えるか、お腹が空いて食事を「美味しい」と感じられるか、出るべきものが定期的に出ているか…。

毎日の生活の中で、これらがちゃんと回っていれば、たとえ持病はあっても、体は“健康的”に機能していると考えられます。逆に、世の中には、病気は無いのにこれらが崩れている“健康なのに不健康”な人も多いものです。もう1つ、健康寿命を延ばす大事な条件は、気持ちの上で病気に負けないことです。健康寿命を謳歌している患者さんに共通するのは、病気を引きずっていないこと。手術で悪いところを治したので、病気からは解放された、もう病人ではない、だから悪くならないように自己管理をする――。そういう前向きな発想に切り替えている人が多いのです。中には、「万一、悪くなったら、また手術をしてもらえばいい」と思っているタフな方もいます。どうしてそういう気持ちになれるのか。元々の性格もあるでしょうが、大きいのは手術を受けることで病気を克服したという“成功体験”だと思います。「医学の進歩は自分を助けてくれる」と、身を以てわかっているのです。肺癌と狭心症で2度の手術を受けたある患者さんは、「俺からは死神が逃げていく」と話していました。「命に関わる大きな病気に2度も罹りながら、無事に乗り越えられた」という成功体験が言わしめるのでしょう。そのような患者さんは、大病を克服した“成功者”として、身近な人から病気の相談を受けることも多く、町の病気相談員のようになっています。それがまた張り合いにもなります。本来、健康寿命とは病気や障害を持たずに日常生活を過ごすことができる期間を指しますが、病気や障害があっても、それらと上手く付き合いながら暮らせるなら、年齢相応の健康寿命の路線に再び房ることができます。まさに一病息災。病気の制御から、健康の獲得への転換なのです。これこそが、病気と共に佳く生きることだとも言えるでしょう。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2017年3月9日号掲載
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