【東京情報】 提言する新聞

【東京発】読売新聞を読んで頭がクラクラした。2月16日付朝刊1面に躍った『安心の子育て・介護へ』との見出し。「政府の方針を報じたものか?」と思ったら、何と『読売新聞社』の提言なのだそうだ。フランス人記者が鼻を鳴らす。「俺もあれを読んで驚いた。何をトチ狂ったんだろう? 1面だけでは飽き足らず、2面・3面、更には18~21面まで使って、くだらない文章を垂れ流していた」。読売の提言は、日本中を隅から隅まで探しても反対する人間がいないような内容だ。保育園を増やしたほうがいい、介護職を増やしたほうがいい――。そんなことは誰もがわかっている。今更、読売が説教を垂れる理由がわからない。これを読んで、「なるほど、こうすれば子供にも老人にも優しい希望に満ちた国になる。流石は世界一の発行部数を誇る読売新聞の提言だ」と思う読者がいるだろうか? アメリカ人記者が笑う。「大阪出身の友人も、『何をスカタンなこと言うとんねん』と感想を漏らしていたわ。『それはそうだけど、だからどうした?』の一言で片付く話を高々と掲げて、国民に訴える。それのどこに新聞記者の矜持があるのかしら? 社内で孤立しても、国民の大多数の意見と違っても、取材を通して辿り着いた真実を公表するのがジャーナリズムの仕事でしょう?」。イギリス人記者が銀縁の分厚い眼鏡を外す。「抑々、読売にジャーナリズムを求めるほうがおかしいんだ。昔の日本の新聞も、1面トップで“聖戦へ 民一億の体当たり”等と政府のプロパガンダを垂れ流していた。その陰では、小林多喜二が特高警察に引っ張られて死んでいた。彼らの声は国民に届かなかった。新聞が無視していたからだ。読売の論説委員たちは、戦前の歴史を繰り返したいのか?」。

拉致問題も北方領土問題も日韓合意間題も、安倍政権は失政を繰り返している。部活動帰りの中学1年生が、突然、見知らぬ外国人に連れ去られたにも拘わらず、日本政府は放置したままだ。政府が動かないのは、メディアが腐っているからだ。今、話題の“安倍晋三記念小学校”問題についても、読売の動きは極めて鈍い。新聞記者は不満の塊であるべきだ。嘗ての読売には、本田靖春や黒田清といった名物記者がいた。“社会部の読売”と呼ばれた時代もあった。1961年から始まった“交通戦争”キャンペーンでは、「日清戦争における日本の戦死者が2年間で1万7000人だったのに対し、(当時の)交通事故の死亡者が年間1万2000人を超える」と指摘し、「今の日本は戦争状態だ」と訴えた。そこには、「日本の交通事情を何とかしなければならない」という熱い思いがあった。これこそが新聞の“提言”のやり方だ。だから、提言自体が悪い訳ではない。朝日新聞は、日本国憲法施行60周年に当たる2007年の憲法記念日に、『地球貢献国家をめざそう』と題した提言を1面トップに掲げた。当時の論説主幹・若宮啓文が張り切って書いたもので、タイトルを見ただけで十分と言いたくなるような、いつも通りの朝日の説教だ。とはいえ、憲法を取り扱った提言だから、未だ理解できる。しかし、今回の読売の提言は社会部ネタである。勿論、子育てや介護は国家的大問題だが、毒にも薬にもならない意見なら社説欄に書けばいい。文字数が足りないなら社説2本分を使って1本にすればいいし、それでも足りなければ1週間分の社説欄を使えばいい。どうせ、社説欄なんて誰も読んでいないのだから。アメリカ人記者が、“提言”のコピーを見て溜め息を吐く。「大体、これは誰に向けたものなの? 政党のマニフェストしゃあるまいし、読者が読んで『素晴らしい!』と思ったところで、そこで終わりでしょ? 選挙で読売に投票する訳にはいかないのだから」。アメリカの新聞は選挙の際、どの候補を応援するか旗色を鮮明にするが、日本の新聞は絶対にしない。しかし、読売のように政策に関する主張を読者に押し付けるなら、誰に投票すればいいのか明示したほうが親切だ。そうすれば、読売の正体も明らかになる。

これだけ堂々と自分たちの政治的意見を表明しておいて、「特定の政党や候補を応援するのは、不偏不党のジャーナリズム精神に反する」と言うのは筋が通らない。フランス人記者が頷く。「欧米の新聞にも、提言を行うページはある。イギリスのガーディアン、テレグラフ、フィナンシャルタイムズ、アメリカのニューヨークタイムズ、スイスのノイエチューリッヒ…。こうした新聞のオピニオン欄は、かなり影響力がある。読売の公称890万部、朝日の公称660万部といった化け物のような部数を誇る日本の全国紙と違い、欧米のクオリティーペーパーの発行部数は精々数十万部。つまり、知識人層が読者なので、人数は少なくても社会的影響力は大きいんだ」。アメリカ人記者が吐き捨てた。「逆に言えば、新聞を900万部も売る為にはレベルを下げるしかない訳ね。結局、読売の問題はナべツネの問題なのよ。今回の提言も、読売新聞社から安倍政権に示したものでしょ? だったら、ナべツネが直接、安倍総理に電話すればいいのよ。読者が求めているのは、記者が足で稼いだニュースなのに。大手メディアのドンから時の権力者への“提言”に長々と付き合わされるのはたまらないわ。読売は特に酷いけど、新聞業界全体が劣化したのね」。確かに、読者の大半は、あの提言を読んで「またナベツネがやってるな」と呆れるだけだろう。読売の提言など所詮、ナベツネの個人的感想に過ぎない。論説委員たちは、ナベツネの顔色だけを見て記事を書いているのだから。読売に掲載される“意見”は、次の2つである。1つは、ナベツネの政治的意見。2つ目は、ナベツネの『読売ジャイアンツ』に対する意見だ。同紙のスポーツ面を見ればわかる。巨人が連敗すると「監督の指示が悪かった」とか、「あのプレーが悪かった」等と矢鱈厳しい。巨人ファンは関心があるかもしれないが、一般の読者は完全に置いてけぼりだ。社会の公器たる新聞を私物化するのも、いい加減にしたらどうか。上司がダメだと組織は腐る。生温い子育て・介護論を打ち出す前に、自分たちの心配をしたらどうか。“介護”が必要なのは、耄碌したナべツネと読売の論説委員たちだろう。 (『S・P・I』特派員 ヤン・デンマン)


キャプチャ  2017年3月9日号掲載
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