【中外時評】 食の調達、“持続可能”が前提

東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会は今月、選手村等に提供する食品の調達基準を正式に決める。1500万食以上が必要とされる食事に、どのような食材を使うかの基準だ。「半世紀ぶりに日本に来る夏のオリンピックなのだから、新鮮で美味しい食品を選手や大会関係者に提供し、日本の食材の素晴らしさをアピールしたい」――。農林水産物の輸出拡大を推進する政府や生産者がそう考えるのは当然だ。ただ、オリンピックで使う食材や資材には、2012年のロンドン大会から“持続可能性”という基本理念がある。法令順守は勿論、生産過程で環境に負荷をかけず、働く人の権利を守って作ったものでなければならない。こうした基準を設けるのは、オリンピックが特別なイベントだからではない。人権や環境に配慮した調達は、グローバル企業や公共機関の潮流になりつつあるからだ。企業にとって持続可能性は社会的責任だけでなく、事業や企業そのものの存続を意味する。年金基金等で台頭する環境(E)・社会的な課題(S)・企業統治(G)という非財務情報に着目したESG投資も、長期の視点で成長企業を選ぶことが主眼だ。『コカコーラグループ』は2013年、世界で調達する主要な農産物について、就労者の権利・環境・農場管理システム等を骨格とする『持続可能な農業の基本原則』を打ち出した。日本で緑茶飲料向けに調達する茶葉も例外ではない。『日本コカコーラ』調達本部農産品原料部の遠藤誠司部長は、「茶葉等の原料を安定して確保する為には、農業の持続が課題になる」と話す。『イオン』は2014年、国内主要企業で初めて、漁業の持続可能性を審査する民間認証『MSC』(※対象は天然漁獲)や『ASC』(養殖事業)を軸にした水産物の調達原則を決めた。認証商品を集めた販売コーナーも2015年に開設し、現在は51店舗で展開する。

「食品の安全・安心は当たり前のこと。長期的に水産製品を扱っていくには、乱獲を防ぐ資源管理が欠かせない」(『イオンリテール』水産商品部の松本金蔵部長)。同社は密漁の疑いのある水産物や、一定の大きさに達していない水産物は調達しない。それでも、漁業資源の管理や労働条件のチェックには限界がある。そこで役立つのが、東京オリンピックの調達でも利用される民間認証だ。MSCはイギリス、ASCはオランダに本拠を置く団体が其々具体的な基準を作り、第三者の機関が漁業や養殖の現場を審査する。『農業生産工程管理(GAP)』の認証制度も基本は同じだ。世界で数多くの認証が登場した為、認証制度の信頼性を審査する団体も登場した。GAPはフランスの『ダノン』等、グローバル企業で構成する食品安全の国際組織『世界食品安全イニシアティブ(GFSI)』が制度の認証に当たる。漁業も、2013年にドイツで制度認証の団体が設立された。欧米企業が先導し、このような仕組みが構築されてきたことが、意識の変化を物語る。「持続可能性は、オリンピックや大企業が掲げる理想に過ぎない」――。そう考える農家は多いかもしれない。だが、農漁業の現場にとっても身近で切実な課題である筈だ。農林水産省の推計で、農業分野で働く外国人技能実習生は2014年度で約2万4000人と、2010年度に比べ3割近く増えた。遠洋漁業では日本船籍の漁船を海外に貸し出し、そこで外国人を乗せる制度もある。外国人の就労環境については、賃金不払い等の不当行為も問題になる。技能実習制度の目的は、安い労働力の確保ではない。しかし、人手不足に直面する日本の農漁業は、外国人実習生への依存度を増す。人手不足を生む原因は経営の合理化が遅れ、生産性の低さや長時間労働を是正できないことだ。企業が調達基準で問うのは、将来も農漁業を維持できるかどうかだ。目先の利益を優先して資源管理が甘くなれば、漁業の持続は危うくなる。補助金頼みの農業にも疑問符が付く。東京オリンピックは、日本の農漁業が持続性を高める最後のチャンスと考えるべきだ。 (論説委員 志田富雄)


⦿日本経済新聞 2017年3月9日付掲載⦿
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