【Global Economy】(27) 中国、住宅へ投機マネー…狂乱バブル崩壊の予感

中国で不動産バブル崩壊への警戒感が高まっている。アメリカのドナルド・トランプ大統領の対中政策の行方と共に、中国経済は国内外の懸案に包囲されている。 (本紙広州支局長 幸内康)

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「買っておいてよかった」――。広東省広州市に住むアパレル会社の女性社員(34)が、表情を綻ばせた。1人暮らしだが、昨年5月、市内に約65㎡のマンションを購入した。それが、僅か10ヵ月で1割以上も値上がりした。同じ広東省の深圳市に住み、通信機器大手『華為技術』に勤める男性(35)の顔色は冴えない。子供の成長に合わせ、より広い住宅への買い替えを考えた。だが、「高過ぎる。華為は優良企業で、給料もそれなりに貰っているが、それでも負担し切れない」と溜め息を吐いた。『中国指数研究院』によると、深圳の新築住宅の1㎡当たり平均価格は、昨年10月、1年前に比べ37.5%も上昇し、5万5150元(約90万円)となった。東京23区内の多くの住宅地を凌ぐ水準だ。マンション建設用地の入札でも、不動産業者が史上最高価格で落札するケースが相次いでいる。『国家統計局』の統計によると、北京・上海・深圳・広州の4大都市や、南京・アモイといった地方の主要都市で、1年前に比べ2~6割を超える急激な不動産価格の上昇が起きている。急騰の背景には、政府が住宅購入を促す政策を取ってきたことがある。野放図な開発の結果、地方都市で売れずに積み上がった不動産在庫を減らす狙いがあった。住宅や店舗用ビル等の売れ残りを示す不動産在庫は、2015年末に7.2億㎡と、年間の販売面積の6割弱にまで膨れ上がった。この為、政府は国民が住宅を買い易くした。中国では、住宅ローンを借りる際に用意しなくてはならない頭金の割合を政府が決めている。昨年2月にその比率を、1軒目の購入の場合はローン総額の25%から20%に、2軒目は40%から30%に其々下げた。銀行も、住宅ローンで優遇金利を積極的に実施するようになった。住宅は、実際に暮らす為だけでなく、お金を運用して増やす投資の対象にもなっている。

2014年11月以降、景気下支えの為に金融が緩和され、企業や個人はお金を低金利で借り易くなった。大量の資金は先ず株式市場に向かった。株価の上昇が続いたが、景気の減速に伴い、2015年に株式相場が急落。中国は「金融市場が未発達で、投資先は株か不動産か金くらいしかない」(『広東省不動産業協会』の蔡穂声会長)。株式市場から逃避した資金は、「比較的安全な不動産に向かった」(上海財経大学の陳傑教授)。経済紙『経済観察報』は、「株・金・外貨等8種類の資産の利回りについて、昨年8月までの3年半の値動きを調べたところ、不動産だけが一貫して10%を超えた」という専門家の分析を伝えた。潤沢な資金を持つ不動産や金融関連の国有企業は、史上最高値で不動産を落札し、価格高騰の主役を演じた。過剰設備に苦しむ鉄鋼等の国営企業は、住宅建設の活況で一息吐いた。地方政府も、不動産からの収入で財政を支えた。中国では土地の所有権は国にあり、地方政府は土地の使用権を売って財源としている為だ。不動産の価格高騰は、様々な問題を生み出している。北京・上海・深圳の場合、住宅価格が住民の平均的な収入の30年分を超えているといい、一般の人には到底手の出ないレべルになっている。値上がり益に期待する企業や個人は、手持ちのお金では足りない為、借金をして不動産を買っている。住宅ローンが多くを占める銀行の新規の中長期貸し出しは、2016年に前年の約1.9倍に増え、貸し出し増加分全体の45%を占めた。中国全体の借金を示す社会融資規模残高も、2016年末時点で155兆元(約2600兆円)と、1年前より12.8%増加した。今後、不動産価格が下落に転じれば、更なる下落を恐れて売りが売りを呼ぶ可能性がある。値上がり益を見込めなくなり、企業や個人は借金を返せなくなる。銀行にとっては、貸したお金が返ってこない不良債権が膨らむ。銀行は不良債権を増やさない為、貸し渋りに走り、景気が悪化する。日本経済が1990年代のバブル崩壊後に経験したような金融システムの崩壊を招く恐れがある。トランプ大統領は対中貿易赤字を問題視し、中国に対して強硬姿勢を採る。中国にとって最大の輸出先であるアメリカへの輸出が滞れば、中国経済に深刻な打撃となるのは確実だ。既に中国経済が減速している為、投資家は資金を中国国外に逃避させており、人民元は下落が続いている。中国当局は資金の流出を食い止める為、様々な規制を打ち出している状況だ。中国経済には、内憂外患のマグマが溜まりつつある。

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■抑制策、漸く本格化
「大都市の不動産価格のコントロールは本当に必要だ」――。深圳市のトップである市共産党委員会の許勤書記は1月20日、広州市で読売新聞等に対し、不動産価格対策の重要性を強調した。深圳市は、昨年3月と10月に出した価格抑制策に続き、今年1月にはとうとう“不動産価格の凍結”とも言える対策を打ち出した。新築住宅の値段は、市当局の審査を経なければ設定できず、周囲の同様の物件より目立って高くしてはいけないことになった。売れないからといって、大幅に値下げすることも許されない。他の都市も昨秋から次々と、頭金の規制強化等の価格制策を発表した。昨年12月には習近平国家主席が「住宅は住む為のものであって、投機の対象とするものではない」と、国民に向かって釘を刺した。不動産価格の上昇は、今年に入って漸く落ち着きつつある。前出の蔡氏は、「不動産は、大多数の中国人にとって富の象徴だ。価格が暴落したら、影響は経済だけに留まらない。政府は価格を下げさせないだろう」と語る。今年の『全国人民代表大会』初日の今月5月、李克強首相は「都市毎の状況に応じた不動産市場のコントロールを強化する」と、今年の不動産政策の方針を示した。価格高騰が激しい大都市と地方都市とでは、異なる対応を取らざるを得ない為だ。今後も、都市毎の対症療法的な対応が続きそうだ。


⦿読売新聞 2017年3月10日付掲載⦿
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