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【木曜ニュースX】(193) 息子の遺体、目を撃ち抜かれ…ブチャからロシア軍が撤退して1ヵ月、並ぶ墓に溢れる悲しみ

ロシアのウクライナ侵攻によって、首都キーウ近郊のブチャでは民間人を中心に400人以上が殺害されたとみられる。無抵抗の男性への銃撃、少女への性暴力、水や食料の不足による衰弱死――。あらゆる形の“犯罪”が、住民の証言から浮かび上がる。ロシア軍の撤退から1ヵ月。閑静なベッドタウンだった町の復興は少しずつ進むが、生き残った人々は癒えない傷を抱えている。 (取材・文/カイロ支局 真野森作・エルサレム支局 三木幸治)



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「これから先、どうやって生きていけばよいのかわからない」――。今月2日、ブチャの遺体安置所でゾヤ・ボロディミリウナさん(59)は涙を流し、顔を手で覆った。長男のアンドリーさん(※当時37)が“見つかった”のは3日前。遺体は写真で見る限り、近距離から目を銃撃されていた。ゾヤさんは安置所まで来たが、変わり果てた息子を直視できないという。首都陥落を狙うロシア軍が、キーウの約30㎞北西にある人口3万7000人のブチャに侵攻したのは2月27日。直ぐにウクライナ軍との戦闘が始まった。ゾヤさんの自宅は、市南西部のヤブルンスカ通りにある。後に、民間人の遺体が路上に幾つも放置され、“死の通り”と呼ばれることになる場所だ。侵攻初日、ウクライナ軍に攻撃されたロシア軍の戦車の一部が自宅に突き刺さり、リビングの一部が破壊された。ゾヤさんと妹のレシアさん(※当時52)、アンドリーさん、そして孫娘のイローナさん(※21)は自宅の地下倉庫に隠れ、保存食を食べて危機が過ぎ去るのを待った。だが、ウクライナ軍は退却し、3月5日にはロシア軍がブチャを完全に制圧した。兵士たちが家に侵入し、倉庫に隠れていた4人を連行する。4人は近所の住民数人と共に数百m先の共同住宅にある地下室へ収容された。戦闘経験の有無等を確認する為、携帯電話と身分証明書を没収され、全身を調べられた。その際、アンドリーさんは戦闘経験がないのに地下室から連れ出された。それが、ゾヤさんと息子の永遠の別れとなった。残された家族の地下室生活も悲惨だった。電気は通じず、シャワーやトイレもない。バケツをトイレ代わりに使い、ラジオを車のバッテリーに繋いで外の情報を得た。

夜は凍えるような寒さだった。服を地面に敷き、何枚も被って寝たという。外からは昼夜を問わず、銃撃やミサイルの音が響いてきた。食料や水を調達する為、日中は短時間の外出が認められた。だが、外出時のルールは毎日のように変わった。民間人と示す為、腕に白い包帯を巻く必要があるが、「ある日は白い包帯を左手に、次の日は両腕に付けろと指示が変わった。間違ったことをすると銃撃されると思い、できるだけ外に出ないようにした」。イローナさんはそう振り返る。地下室で暮らし始めて5日後、レシアさんはストレスからか、突然、心臓発作を起こして亡くなった。ロシア軍とウクライナ軍は3月中旬、占領地から民間人を避難させる人道回廊の設置で合意した。ゾヤさんたちが退避できたのは同19日のことだ。避難用のバスに乗ると、自宅周辺の住宅は殆どが破壊されていた。ヤブルンスカ通りには、多くの遺体が殺害当時の姿で放置されていた。「息子の遺体がこの中にあるかもしれない」。ゾヤさんは必死に目を凝らしたが、判別できなかったという。ロシア軍は先月1日、東部戦線に戦力を集中させる為、ブチャから撤退した。キーウに避難していたゾヤさんらが故郷に戻ったのは先月28日。破壊された町は静まりかえっていた。「何故、ロシア軍にウクライナ市民の人生を奪う権利があるのでしょう。誰か私たちをこの悲劇から救ってほしい。妹や息子を返してほしい」。ゾヤさんはそう記者に叫び、再び涙を流した。ブチャの墓地には真新しい墓が幾つも並び、犠牲者の多さを物語っていた。「ここにどれだけの墓があり、どれだけの悲しみがあるか想像して下さい。プーチンは自分の子供たちを埋葬してみたらいい。そうすれば、どれほどの悲しみを齎しているか理解できるかもしれない」。マリヤ・コノワロワさん(74)は、ブチャを占拠していたロシア軍兵士によって、3月4日に三男のドミトリーさん(※当時41)を射殺された。その殺害から約2ヵ月を経た今月2日、検視を終えた遺体を改めて埋葬する為、到着をぽつんと一人で待っていた。ドミトリーさんは人助けが好きな性格で、侵攻してきたロシア軍から逃げてきた女性や子供たちを、自宅地下にある家電品修理の仕事場に避難させていた。その日、たばこを吸おうと地下から階段で外へ出たところを、通りかかった兵士2人にいきなり撃たれた。銃撃の直前、後ろにいた少年が「戻ろう。銃を持った人たちが歩いているよ」と声をかけたのに対し、「これまで誰からも逃げたことなんてないよ」と答えていたという。そのやりとりを兵士に聞かれたのかは不明だが、問答無用の殺害だった。同じ墓地では、タチヤナさん(57)が86歳で死去した父親を親族らと埋葬していた。「父は第二次世界大戦を体験していました。病気も克服して、この戦争さえなければもっと長生きしていたでしょう」。ロシア軍の攻撃によって、ブチャでは電気、水道、ガスの供給が止まった。タチヤナさんとは別の家で暮らしていた父親は、寒さと脱水症状によって死亡した。直接の殺害以外にも、ロシア軍占拠下の厳しい生活で亡くなった弱者は少なくないとみられる。タチヤナさん自身は、3月中旬に開かれた人道回廊を通って、ブチャからキーウへ避難した。それ以前に車で逃げようとしてロシア軍に射殺された知人男性もいる。

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ロシアのウラジーミル・プーチン政権はブチャでの民間人大量殺害に対し、ロシア軍の関与を全面否定している。だが、タチヤナさんは「ロシア軍部隊は2月末には市内におり、3月6日に私の家にも取り調べに押し入った。ここで起きたことは全て彼らがやったことです」と強調した。友人のセルゲイさん(62)も、「住民は水を求めて家の外へ出ただけで脚を狙撃され、遺体の回収も許されなかった。彼ら(※ロシア軍兵士)は人間とは思えない」と憤った。ブチャ中心部にある病院の敷地内では、遺体安置所の他に冷蔵トレーラー3台も利用し、キーウ州各地から運ばれてくる犠牲者の遺体を一時保管している。今月2日には、身元確認に訪れたとみられる初老女性が泣き崩れる姿もあった。ロシア軍の侵攻開始後、この病院は野戦病院宛らの状況に置かれた。外科医のミコラ・クリスチャノフさん(54)によると、医師や看護師は泊まり込みで、昼夜を問わず近隣市町からも運ばれる多数の負傷者の治療に当たった。手術中にロシア軍によると思われる攻撃で、部屋の壁や窓が揺れることもあったという。民間人やウクライナ側の負傷兵だけでなく、ロシア軍兵たちも搬送されてきたが、“医師の使命”として手当てした。そして、「仕事に集中していたので周囲で何が起きていたのかわからなかった」と振り返る。3月中旬にキーウへ避難した後に大量殺害を知り、「女性や子供、高齢者を攻撃したロシア軍はならず者集団だ」と嘆いた。こうした犠牲者の中には、プーチン氏が「ウクライナのネオナチから助け出す」と主張してきたロシア系の住民も含まれる。

病院の看護師、アッラ・アレクセーエワさん(51)は3月5日頃、元警察幹部で夫のユーリーさん(※当時48)を路上で射殺された。詳しい状況は不明だが、頭部を6発撃たれていたという。夫婦共に父親がロシア人、母親がウクライナ人で、ロシア語を第一言語としてきた。だが、ロシアに暮らす親族に夫の死を伝えると、「自分たちが悪いんだろうが」と言い放たれた。彼らはプーチン政権のプロパガンダを信じている為だ。ブチャの教会では今月3日、犠牲者を追悼するコンサートが開かれ、百数十人が参列した。教会の敷地は、多くの遺体の一時埋葬場所となった経緯がある。アンドレイ・ガロビン神父(49)は取材に対し、「この町では他地域と比べると激しい戦闘はなく、犠牲者の殆どが民間人だった。占領下での虐殺行為だ」と断言した。ブチャの近郊でも、ロシア軍兵士による明らかな犯罪とみられるケースが出ている。「忘れたくても忘れられないことが沢山ある」。現地で人道支援に携わるコンスタンティン・グダウスカスさん(38)は、深い溜め息を吐いた。ブチャの隣町、ボルゼリで食料の配給をしていた3月中旬。グダウスカスさんが車に戻ると、座席の間に15歳の少女が隠れていた。「私を助けて、お願い」。少女の目の周囲には激しい暴行を受けた痕があった。少女は3月上旬に町が占拠された後、ロシア軍が拠点を置く一軒家の地下室に母親と共に連行された。20代に満たない複数の若い兵士は、酒を飲みながら少女を脅迫し、連日レイプしたという。兵士は「ウクライナ人は生まれてくるべきではない」とも言い放った。兵士を止めようとした母親は銃撃され、その傷が原因で2日後に死亡した。拘束されてから10日後、兵士は部屋を出る際、少女の両手を縛ることを忘れた。少女はその隙を見て脱出。近くの森に隠れた後、グダウスカスさんの車を見つけて乗り込んだ。車の鍵がかかっていなかったのが幸いだった。グダウスカスさんは少女をキーウの病院へ連れて行き、被害を当局に通報した。少女は現在、ある欧州の国で治療を受けている。捜査当局は、ロシア軍兵士による戦争犯罪の可能性が高いとみて、少女から事情を聴いた。ロシア軍が撤退した先月上旬、監禁されていた地下室からは少女の証言通り、母親と別の14歳の少年の遺体が見つかった。ボルゼリの高級住宅街にある家の地下室からは、衰弱した女性(78)も発見された。女性の救出に関わったグダウスカスさんによると、女性と夫はロシア兵にウクライナ語を話していることを咎められ、近くの地下室に連行されたという。ロシア兵は地下室で夫を射殺した後、夫の遺体と一緒に女性を部屋に閉じ込めた。水だけは与えたが、食料は渡さなかったという。嫌がらせの為か、煙幕弾も数日毎に地下室で放たれた。発見された女性は動くことができず、視力も失っていた。今はウクライナ西部の病院に入院しているが、視力の回復は難しいという。グダウスカスさんはロシアの占領下にあったブチャ近郊で軍と交渉し、民間人200人以上の避難に携わってきたが、150人以上に暴行等の形跡があったという。「ここは地獄だ。地獄というのはこの世にあるんだよ」。そう言って、声を詰まらせた。ブチャでは後ろ手に縛られたまま、射殺された遺体が複数見つかっており、ロシア軍兵士による拷問もあったとされる。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「ジェノサイドと呼ぶべき戦争犯罪があった」と主張。『国際刑事裁判所(ICC)』は先月、戦争犯罪の有無を調べる為の捜査を始めており、欧州諸国は捜査チームを現地に派遣している。一方、プーチン大統領は先月18日、ブチャを攻略したロシア軍の“英雄行為”を称え、名誉称号を与えた。


キャプチャ  2022年5月6日付掲載




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