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【デジタル戦争・敗戦か逆襲か】(下) 個人情報を囲い込む中国

20220520 07
東京都武蔵野市にある『NTTコミュニケーションズ』のデータセンター。重厚な門扉をくぐって建物内に入ると、無人の受付機にスマートフォンに表示されたQRコードと身分証明証を翳し、指の静脈情報を登録する。七重のセキュリティーを抜け、漸く1台の棚の前に辿り着く。棚の大きさは高さ約2m、幅約0.5m、奥行き約1m程。この中にコンピューターや通信機器が配備され、顧客企業のITシステムや個人情報等のデータが保存されている。今年3月、無料通信アプリ『LINE』で利用者の個人情報の管理不備が発覚した。業務委託先の中国の関連会社の従業員が、日本国内の個人情報データにアクセス可能な状態になっていたのだ。現行の個人情報保護法は、利用者の同意があれば個人情報を国外に移したり、日本にある情報を海外から見られるようにしたりすることを認める。LINEは利用者向け指針で「パーソナルデータを第三国に移転することがある」と明記しており、違法ではない。ただ、個人情報の管理が国内統治に直結する中国は、国家情報法やサイバーセキュリティー法(※インターネット安全法)で、国民や企業にIT分野で政府当局に協力する義務を課す。LINEのケースも、閲覧した中国関連会社の従業員が当局に情報提供を求められる可能性は否定できない。如何に堅牢なデータセンターを築き上げたとしても、政府の情報管理体制に穴があれば、全ては元の木阿弥となる。

中国は先月にもデータセキュリティー法(※データ安全法)を施行する等、データの持ち出しへの規制を着々と強化している。来月には、情報漏洩に刑事責任や民事責任を問う個人情報保護法も施行される。専門家は、「自国データの厳格な管理は、中国自身が他国のデータ収集に注力している裏返しでもある」と分析する。世界では、個人情報の国外移転を厳しく規制するのが主流だ。転機となったのが、2018年に施行されたEUの一般データ保護規則(※GDPR)だ。GDPRは世界一厳しいと言われる。データ収集時に本人の明確な同意を必要としたり、氏名やメールアドレス、クレジットカード番号等の個人情報の域外移転を原則禁止したりと、徹底した規制を設けている。一方、アメリカでは個人情報の利用を規制する連邦法はなく、『グーグル』や『Apple』といった巨大IT企業が育った。欧州のような厳格な規制への反対論は根強い。各国でデータ管理の在り方が分かれる中で、日本政府が提唱しているのが、個人情報や知的財産等のデータを保護する国際ルールを整備した上で、医療や産業、交通等のデータの自由な流通を認める『データフリーフローウィズトラスト(DFFT)”という考え方だ。デジタル庁の平本健二データ戦略統括は「取引に透明性があり、相手が信頼できるかどうかの基準でサービスを選択できるようになる」と、その意義を強調する。データ保護の運用や保存するデータの基準等について共通ルールを作ることで、多様化する各国のデータ保護法との共存を目指す。2019年に当時の安倍晋三首相が『世界経済フォーラム』年次総会(※ダボス会議)で提唱。経済力にものを言わせ、データの利活用でも自国のルールを押し通そうとする中国への包囲網を日本が主導してつくる狙いがある。デジタル化の真骨頂は、あらゆるもののデータ化にある。今後、自動車や家電はあらゆる機器がインターネットに接続するIoT技術によって世界と繋がる。海外展開している国内メーカーにとっては、世界中に散らばった機器で収集した顧客情報も国境を越えて集約できなければ、ビッグデータの意味をなさない。通信サービス大手『インターネットイニシアティブ(IIJ)』の鎌田博貴氏は、「自国産業を保護する為にも、日本がそのルールメーキングを主導する必要がある」と指摘する。顧客情報や企業秘密等、サイバー空間で保管されるデータは幾何級数的に増加していく。益々複雑化するデータ管理で現在、出遅れている日本が世界をリードするには、新たに設立されたデジタル庁の役割が欠かせない。世界は、日本が先行するインフラの品質管理やヘルスケア、医療分野でのデジタル化に強い関心を示す。その手前のデータ保護への対応で躓けば、日本のデジタル敗戦からの反転攻勢も夢物語で終わりかねない。

                    ◇

大坪玲央・高木克聡・林修太郎が担当しました。


キャプチャ  2021年10月13日付掲載
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