【変貌する報道・アメリカから】(04) 街の監視役、住民が育む

20170316 01
「さぁ、今日も皆さんの意見を聞こうか」――。メキシコとの国境に程近いカリフォルニア州サンディエゴ。ビルの一室で、非営利報道団体『ボイスオブサンディエゴ』のスコット・ルイス編集長が語りかける。相手は30人ほどの地元住民。ボイスの報道姿勢に賛同し、寄付してくれる住民から毎月、希望者を集めて開く定例集会だ。ボイスは、地元の行政や教員等、市民生活に関わる問題を追い、無料でウェブサイトに発信する。スタッフは元地方紙記者ら約10人。同じ非営利団体でも、全米を取材する『プロパブリカ』を全国紙に例えるなら、地域密着の地方紙に近い。年約180万ドル(約2億円)の収入源の多くは慈善財団の助成金が占めるが、小口で寄付する住民が年々増え、2000人を突破した。集会では、編集方針や地元が抱える課題を語り合う。「もっと多くの人に我々の報道を支えてほしい。その為には、読者との間の壁を取っ払うことが必要だ」とルイス編集長は言う。設立は2005年で、当時、長年に亘る行政の腐敗や年金制度の破綻が相次いで発覚していた。「地元紙の監視が不十分だからだ」。そう考えた地元べンチャー投資家の呼びかけがきっかけだった。

以来、地元のメディアが見過ごしがちな問題を掘り下げてきた。2013年には、救急車の到着時間について、記者が過去20ヵ月分の記録を調べ上げ、特定の地域で深刻な遅れが多数発生していること等を報道。行政を改善へと動かした。ルイス編集長は、自分たちの報道を“公共サービス”と位置付ける。9年前から寄付を続ける男性は、こう語る。「もっと調査報道をやってほしい。この団体が無くなったら、街が駄目になる」。同様の団体で作る『非営利報道協会』によると、加盟団体は全米で約110。2009年の27から大幅に増えた。大部分は地域に特化した小規模組織で、財政的に不安定な団体も多いが、中には大学を拠点にする形態も各地で生まれている。2009年設立の『ニューイングランド調査報道センター』の事務局は、ボストン大学内にある。テレビ局記者だったジョー・バガンティーノ氏が会社を辞め、非営利団体を作ろうと準備を進めていたところ、大学が協力を申し出た。編集スタッフは、地元の『ボストングローブ』の元記者ら約5人。全員が大学の職員になり、ジャーナリズムの講義を受け持つ一方で、学生を助手として採用し、取材を手伝ってもらう。2014年から、出生前検査の杜撰な実態を追うキャンペーン報道を展開し、記者の古巣であるボストングローブの紙面を飾った。バガンティーノ氏は強調する。「地域で手薄になった調査報道の空白を埋め、次世代を担う若者も育てる。それがミッションだ」。ジャーナリズムの形は変わろうとも、その力が今ほど求められている時代はない。

■日本でも意識高めて  服部孝章氏(立教大学名誉教授)
アメリカのように経営が悪化している新聞社は少ないが、インターネットの情報に依存し、新聞を読まない層が急速に増えていることに危機感を抱いている。新聞社の経営が苦しくなっても、アメリカのような寄付文化が無い為、非営利報道団体が多数育つ環境にはない。テレビやインターネットメディアも視聴率や閲覧回数が重視されがちで、新聞が今後も冷静な視点で地域の監視役を果たしていけるかが非常に重要になる。メディアの権力チェックや分析機能が弱まれば、どんな問題が起こるか。日本でも、市民に意識を高めてもらう必要がある。 =おわり

               ◇

大阪社会部 中沢直紀が担当しました。


⦿読売新聞 2017年3月1日付掲載⦿




スポンサーサイト

テーマ : テレビ・マスコミ・報道の問題
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR