【海外の最新教育事情】(06) 多様性か同質性か…学校選びの新基準

20160628 04
学力や家庭環境が異なる多様な仲間に揉まれて逞しく育てるのがいいのか、似た家庭の子が集まる同質な環境で勉学に集中させるべきか――。学校選びはアメリカでも頭の痛い問題だ。勿論、どちらにもいい面はある。異質なものを理解することが教育の目的の1つであり、「多様な環境はそれ自体が学びの場だ」という理想は、古代ギリシャの時代から西洋文明の根底に受け継がれてきた。グローバル化が進み、多くの価値観が共存する現代では尚更、その重要性は増している。子供時代に自分と違う背景を持つ友達と触れ合い、異質なものを尊重する態度が育てば、将来のキャリアにも役立つかもしれない。一方で、家庭環境であれ人種や宗教であれ、自分と似たようなバックグラウンドを持つ人の集団に安心感を抱くのも自然なことだ。教育熱心な家庭にとっては、生徒の学力が一定以上に保たれ易いことも、均質な環境を支持する要因の1つ。その代表格が私立のエリート校だ。全米の高校生の最上位層から選抜される難関の奨学制度である『ナショナルメリット』では、受給者の半数を私立の生徒が占める。私立校の学生数は全体の1割に過ぎないにも拘らず、だ。とはいえ、両者のメリットはデメリットと表裏一体でもある。公立の学校に典型的に見られる“多様な子供が集まる環境での切磋琢磨”は、往々にして、家庭環境に問題がある子や言葉の壁のせいで、授業を理解できない子と机を並べることを意味する。教育を重視する家庭にしてみれば、我が子の学力や行動に及ぼす影響が心配だ。一方、幼いうちから同質の仲間に囲まれて過ごす環境では、立場の異なる人への共感や寛容の気持ちが育たず、偏狭なエリート意識に凝り固まってしまうという不安もある。こうした懸念は本当に当たっているのだろうか。経験からも明らかなように、子供は良くも悪くも友達の影響を受け易い。優秀な友人に刺激されて勉強を頑張る場合もあれば、非行に引きずり込まれるようなマイナスの作用もある。カリフォルニア大学デービス校のスコット・カレル准教授らは、家庭で虐待を受けている子供の数が学年内で増えるに連れて、学年全体の算数と読解の点数が顕著に下がり、問題行動も増えることを示した。特に男の子同士で影響が強く表れる傾向があり、20人学級で問題を抱える男子が1人増えると、他の男子が規律違反を犯す可能性は17%高まるという。学力的に均質な集団で学ぶことがプラスに働くというデータもある。マサチューセッツ工科大学のエスター・ダフロ教授らが、ケニアで習熟度別クラスを導入した小学校とそうでない小学校を比較した大規模研究では、習熟度別クラスにすることであらゆる学力層の成績が向上した。性別という意味の同質性も学力に貢献する可能性が高い。イギリスやオーストラリアで行われた男女別学と共学の全国規模の比較調査では、別学のほうが学力が高い傾向が顕著だった。

生徒の希望に関係なく、別学と共学の高校にランダムに振り分けられるソウルの学校制度に着目して両者を比較した研究でも、男女共に別学のほうがテストの点数が高く、4年制大学への進学率も高かった。「別学は異性の目を意識して気が散ることが無い為、学力が伸び易いと考えられる」と、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校のウィリアム・ジェインズ教授は言う。但し、これだけで同質な環境に軍配を上げるのは早急かもしれない。スタンフォード大学のエリク・ハヌシェク教授によれば、あまり早い時期に子供を能力別に“輪切り”にするのは好ましくない。ハヌシェクは、10歳までに子供を学力に応じた学校に振り分ける国(ドイツやオーストリア等)とそうでない国(アメリカ、イギリス、日本等)の小・中学校での教育成果を国際比較した。すると、低年齢でコース分けされる国では学力の格差が拡大し、平均的な学力も下がる可能性があるとわかった。親が教育熱心でない等の影響で「一旦下位コースに振り分けられれば、能力が高い生徒でも努力しなくなってしまう」とハヌシェクは語る。低年齢における多様な環境の優位性を裏付ける別のデータもある。イリノイ大学のクリストファー・ルビンスキー教授と妻で同大学教授のサラは、全米規模のテストを使って公立と私立の小学校の算数の成績を比較した。私立は富裕層の子供が多く、成績が底上げされる傾向にある為、家庭の社会経済的条件が似た子供同士で比較したところ、公立のほうが教育効果が高いことが明らかになった(中学校以降でも同じ傾向があるかはわからない)。それでも、アメリカの親は経済的に許せば同質の環境を好む傾向にある。背景には、英語ができない移民の子のケアに教師がかかりきりになる当、行き過ぎた多様性への不安がある。「多様性にも色々なレベルがある。“健全な多様性”かどうかを見極める必要がある」とジェインズは言う。「他者への寛容を学ぶ経験より、エリート層との人脈作りが子供に重要だ」と考える傾向も、私学志向を助長する。だが、、私立校の授業料が膨れ上がる中、富裕層のみ集まる環境で歪んだエリート意識が醸成され得る(シリコンバレーのパロアルトにある私立小学校24校――小中高一貫校等も含む――の年間授業料は平均2万182ドルだ)。アメリカのエリート教育の弊害を論じた著書『エクセレント・シープ』で知られる評論家のウィリアム・ディレジウィッツは、「エリート校の学生は『選び抜かれた精鋭だ』と絶えず言われて育つことで、誤った自尊心を膨らませ、キャリアの上のリスクを冒せなくなる」と語る。「人間の価値は成績等では測れないのに」。こうした懸念を受け、奨学金を充実させて貧困層や移民の生徒を積極的に受け入れる私立校も出てきている。一方、公立校の中にも、特定の人種や富裕層の子供ばかりが集まる“同質”な学校は少なくない。多様性と同質性を巡る議論に、簡単に結論は出せそうにない。我が子にどんな環境が合うのか。アメリカの親たちの試行錯誤は続く。 (取材・文/アメリカ在住ジャーナリスト 肥田美佐子)


キャプチャ  2016年3月22日号掲載
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