【Deep Insight】(01) 資本主義の王と米大統領

アメリカの投資会社『ブラックストーングループ』のCEOであるスティーブン・シュワルツマン氏が、ドナルド・トランプ大統領と世界を繋いでいる。今年1月の『世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)』では、中国の習近平国家主席と会った。シュワルツマン氏は何らかのメッセージを預かり、トランプ大統領に伝えている。トランプ大統領が対中強硬路線を緩め、習主席との電話会談が実現したのは先月のことだ。政府だけが相手ではない。昨年12月、『ソフトバンクグループ』の孫正義社長は、当選したばかりのトランプ氏とニューヨークで会い、500億ドルの投資を表明して歓迎を受けた。その直前にはシュワルツマン氏を訪ねて会談の進め方を議論し、会談後にも再訪して上手く運んだ喜びを分かち合っている。シュワルツマン氏は、アメリカ企業のトップらがトランプ大統領に政策提言する『大統領戦略政策フォーラム』の座長だ。だが、2つの事例が示すように、存在感は座長に留まらない。知人であり、指南役として、トランプ大統領は頼っている。筆者がシュワルツマン氏とトランプ大統領の緊密な関係に注目したのは、シュワルツマン氏の異名と関係している。“資本主義の王(キングオブキャピタル)”――。彼はこう呼ばれている。1985年にブラックストーンを創業、運用額が4000億ドルに迫る世界屈指の投資会社に育てた。その実態は、投資家というより持ち株会社だ。買収ファンドとして株を大量保有する企業は、昨年末で77社、従業員は合計で51万人を超す。世界から集めたマネーで潜在力のある企業を買収し、大株主として経営改革と価値の向上を促している。買収ファンドは、資本主義のエンジンである株式市場の一形態と呼ばれるまでに成長した。業界のカリスマとして資本主義を体現するシュワルツマン氏と、アメリカの大統領として規制や予算等強大な権限を握るトランプ氏が組めば、リーマンショックで信用が失墜したアメリカ型資本主義の新しい姿が浮き上がるかもしれない。アメリカでのソーシャルビジネスの急増が示すように、“社会”をキーワードとする持続的な資本主義の時代はそこまで来ている。シュワルツマン氏は、そんな資本主義の在り方を模索するアメリカそのものでもある。リーマンショック前は、派手に稼いで派手に使う“強欲資本主義”の象徴だった。2007年、ブラックストーンは買収ファンドとしては異例の株式公開に踏み切り、シュワルツマン氏は巨額の富を得た。同じ年にニューヨークで開いた60歳の誕生パーティーには、300万ドルを費やしたと言われる。だが、ウォール街が社会を傷付け、怒りを買った危機を境に、社会との共存を意識する“社会派資本主義”に傾いていく。

2013年、新たな進路を探すアメリカの退役軍人の大量採用に踏み切った。投資先企業での採用は、既に5万人に迫る。アメリカだけではない。「安定した国際社会があって初めて、企業は持続的に成長できる」と考えた。2013年には、1億ドルの私財で中国の清華大学に奨学基金を創設した。アメリカを中心に年200人の留学生を受け入れて、国内で交流を深める事業は動き始めている。「中国経済が成長すれば、伸び悩む先進国は苛立ち、貿易や軍事の緊張に繋がる。留学生はそんな時、母国で誤解を解いてほしい」。当時語った志は今、説得力を増している。民間で進化の芽が広がっているだけに、社会に背を向けるかのようなトランプ大統領の姿勢には危うさを覚える。地球温暖化対策を後退させる言動も、自国製品の購入を促して外国との緊張を高める“バイアメリカン政策”もそうだ。人種の多様性を否定しかねない問題は、シュワルツマン氏の足元で表面化した。先月、同氏が率いるフォーラムから、ライドシェア最大手『ウーバーテクノロジーズ』のトラビス・カラニックCEOが離脱した。“テロ懸念国”からの入国を制限する大統領令に反発した顧客が、同社を避け始めたからだ。シュワルツマン氏も、そんな危うさに気付いている筈だ。ブラックストーンは、その企業が環境に配慮しているかを投資の判断基準にしている。世界に散らばる投資先企業が経営資源を利用し合うのも基本的な戦略で、一国だけでモノの調達を完結する発想とは相容れない。シリコンバレーの玄関・サンフランシスコでの最大級の不動産投資家として、人種の多様性がイノベーションを支えることを知る立場にもある。シュワルツマン氏は、トランプ大統領との溝を一先ず封印している。「過去10~15年の規制強化で、アメリカは競争力を落とした。方向は簡単に変えられる」。こう強調する同氏は、規制緩和等目先の成長戦略の提言に集中するだろう。だが、それだけでは指南役としての役割は果たし切れない。「国の為にできることをするのは一市民としての義務」と言うシュワルツマン氏は、“知人”としてのトランプ大統領を助けているのではない。「変えるべき行動があれば指摘してほしい」。こんな言質も取っており、トランプ大統領を諌める局面もあるに違いない。その結果は、長期的に株価を動かす。ダウ工業株30種平均は、インフラ投資と減税による景気刺激を先取りした“トランプラリー”で、一時、2万1000ドルを超えた。だが、本当の焦点は、持続的な成長を齎す資本主義をアメリカが構築できるかどうかだ。 (本社コメンテーター 梶原誠)


⦿日本経済新聞 2017年3月8日付掲載⦿
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