【ヘンな食べ物】(29) タイの知られざる珍料理

タイには、『カイルーククイ』という世界的にも非常に珍妙な卵料理がある。珍妙の理由は2つあるが、先ずはその調理法。これは、“茹で卵を揚げた料理”なのだ。卵を茹でた後に揚げるなんて、普通は誰もしない。先ずそこからしてヘンな訳だが、これは屋台料理でもなければ家庭料理でもない。かといって、普通のレストランや食堂のメニューにもない。宴会料理の1つだという。一度、知り合いのタイ人シェフに作り方を見せてもらって納得した。結構、手がかかっているのだ。この料理の陰の主役はソース。強い酸味を持つタマリンドの熟した果実をお湯で溶かし、それにふんわり甘いココナッツシュガーを混ぜる。更に、市販のフライドレッドオニオンやナンプラーを加え、スプーンでずっとかき混ぜながら、5分ぐらいかけて煮詰める。次は主役の卵。こちらはシンプル。鍋にたっぷりの油を強火にかけ、そこに殻を剥いた茹で卵を入れるだけ。卵の表面がジワジワと熱されていく。ツルンとした綺麗な肌が無残にも火傷していくようで、何だかとても痛々しく、思わず「わー、もう止めて!」と叫びたくなってしまう。卵は軈て程よいキツネ色になり、表面はシワシワになる。ここまで来ると、もう笑うばかり。何故か? カイルーククイとは、“お婿さん(娘婿)の卵”という意味なのだ。卵の本意は、揚がったこのブツを見れば一目瞭然であろう。それにしても、料理に下ネタを用いるとは…。しかも、“おじいさん”でも“お父さん”でも“少年”でもなく、“お婿さん”とは妙に生々しい。世界でも最も珍妙な名前の料理ではあるまいか。確かに、酸味を伴ったこってりと甘いソースをかけたこのフレッシュなタマタマは、まさにお婿さんという力強さと初々しさと品の良さに満ちているのであった。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年3月16日号掲載
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