【「佳く生きる」為の処方箋】(43) 患者と医師は“同行二人”

テレビドラマ等で、外科医が患者さんに「絶対に助ける」とか、「手術は絶対に大丈夫だから」といった言葉をかける場面が出てきます。ドラマとしては感動的なシーンですが、実際の診療現場でこのようなやり取りをすることは先ずありません。どんなに簡単な手術でも合併症等のリスクはゼロではない為、手術に100%の安全は存在しないからです。それに、医師は治療の有効性や合併症のリスクを確率で判断する習慣を身に付けていますから、“絶対”等という断定的な言葉は抑々使わないものなのです。しかし、例外はあります。私は、時と場合によっては「絶対に大丈夫だから心配しなくていい」と、敢えて患者さんに話します。理由は、患者さんに「患者になりきってほしい」と思うからです。“患者になりきる”とは、自分が抱えている病気から逃げず、腹を括って治療に向き合い、医師と共に病気を克服していこうとすることです。このような境地に至った患者さんは、治療に対してとても前向きになり、術後のリハビリ等も「今は辛いが頑張ろう」と積極的に取り組むようになります。その結果、治療全体がスムーズに運び、早く元気になれるのです。一方で、いつまでも患者になりきれない人もいます。これから心臓の手術を受けようというのに、喫煙や暴飲暴食等の生活習慣を改められない、或いは「手術が必要」と言われても「仕事に穴を開けるのは死ぬより辛い」等と会社のことばかり気にしている…。このような患者さんは治療に正面から向き合えず、手術後も中々元気になれないことが多いものです。

また、手術に対する恐怖心が強過ぎて患者になりきれない人もいます。手術を受ける覚悟もできているし、医師のことも信頼しているのですが、如何せん怖さが無くならないのです。私が「絶対に大丈夫だから」と声をかけるのは、このような患者さんに対してです。その一言で恐怖心は和らぎ、安心して手術に臨めるようになります。患者になりきることができるのです。不安や恐怖等のネガティブな感情は治療の大敵ですから、先ずはそれをできるだけ取り除くことが第一歩。医師からの「絶対に大丈夫」は、その“特効薬”になります。勿論、嘘を吐く訳にはいきませんから、「本当に大丈夫だ」と思う患者さんだけが対象なのは言うまでもありません。確率を基に動いている医師にとって、“絶対”と言い切るのは正直、勇気がいるものですが、「その特効薬が必要だ」と判断したら迷わず処方します。「絶対に大丈夫」と言ったからには、「絶対に大丈夫な手術をすればいい」と、外科医としての自分を更に追い込む訳です。尤も、手術をするのは外科医ですが、病気を治すのはつまるところ、患者さん本人です。医師の仕事は、患者さんが治ろうとするのをサポートすること。だから、一番大事なのは、患者さん自らが病気を治していこうとする強い意志なのです。そして、それを後押しするのも医師の重要な仕事です。謂わば、患者さんの心の中に入って、一緒に病気と闘っていく訳です。先日、このような話をしたところ、四国出身のスタッフから「まるで同行二人ですね」と言われました。四国88ヵ所を巡る“お遍路”では、「道中、常に弘法大師が傍にいてくれる、一緒に歩いてくれると」考え、これを“同行二人”と呼ぶそうです。確かに、医師と患者も同行二人でいけたら最高でしょう。「先生がいるから大丈夫」。患者さんからこう言ってもらえるのは、外科医冥利に尽きるというものです。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2017年3月16日号掲載
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