【Deep Insight】(02) “国粋の枢軸”、危うい共鳴

世界が混迷の時代に入ろうとしている。“アメリカ第一主義”を突き進むドナルド・トランプ政権が、平和と成長を支えてきた国際的な協調体制を壊そうとしているからだ。それにヨーロッパの右翼政党が共鳴する。別々に行動しているようにみえるトランプ政権とヨーロッパの極右勢力が寄り添い、“国粋の枢軸”という危ない糸で結ばれつつある。「入国制限どころではない、もっと大きな衝撃が世界に走るだろう」。トランプ政権に通じた複数の外交ブレーンは、こう明かす。トランプ政権は今、国連やその傘下機関への拠出金削減を検討しているという。根っこにあるのは、国連への激しい嫌悪感だ。政権中枢からは、こんな声が聞かれる。「国連では、小国もアメリカと同じ1票を得て、自己主張を強めている。こんな機関を温存しても、何らアメリカの利益にならない」。アメリカの負担率は全体の約22%で、最大だ。これが減れば、国連は予算の融通に困るだけでなく、権威も揺らぐ。トランプ政権からみれば一石二鳥という訳だ。トランプ大統領は、イスラム諸国等からの入国制限を強行している。それでも、アメリカ第一主義が内政に留まっているうちは未だいい。今後は、対外政策でも同じ路線に突き進もうとしている。その目標は、多国間協調の為の外交や通商の枠組みを弱め、アメリカの国益を優先し易い秩序に作り変えることだ。そんな野心を本気で実現しようとしているのが、スティーブン・バノン首席戦略官上級顧問である。トランプ大統領の最側近であり、影響力は圧倒的だ。ホワイトハウスでは、閣僚と雖も、日程を管理する秘書を通さなければトランプ大統領には会えない。ところがバノン氏は、顔パスで大統領執務室に出入りできるという。これまでは黒子に徹し、表舞台に殆ど出なかったが、愈々攻勢に転じた。先月23日、ワシントン近郊で開かれた保守系政治団体のイベント。登壇したバノン氏は、「戦い無しでは国を取り戻せない」と、既存秩序への戦闘を宣言した。彼には白人至上主義や極右といった悪評がついて回る。ただ、その手腕は並大抵ではない。「世界の歴史や政治にとても精通した戦略家だ。只の極右政治屋とは違う」。バノン氏に接する知人は、こう明かす。では、彼が実現しようとしている世界とは何か。知人の話等によると、次のようなものだ。

「戦後の世界は、西洋文明の盟主であるアメリカと西欧諸国が仕切ってきた。ところが、グローバル化で国際資本に市場が食い荒らされ、米欧の社会が荒廃した。イスラム文化圏等からの移民の流入でテロの脅威が膨らみ、伝統的な価値観も薄まっている。この流れを止め、アメリカや西欧主導の世界を再建しなければならない」。つまり、「グローバル化の流れを堰き止め、薄まったアメリカと西欧諸国のアイデンティティーを取り戻そう」という訳だ。その為には、国連や国際機関の弱体化も辞さない。革命にも近い発想だ。トランプ大統領も概ね、バノン氏のこうした思想を共有している。だからこそ、メキシコとの“壁”に拘り、『北米自由貿易協定(NAFTA)』や『環太平洋経済連携協定(TPP)』にも敵意を燃やす。理由は何も、アメリカ国内の失業や貿易赤字だけではないのだ。トランプ政権は今、世界にも同じ“革命”を輸出しようとしている。当面の目標は、『ヨーロッパ連合(EU)』の統合を壊すことだ。「西欧国家群の土台が統合で食い潰されている」という危機感がある。「イギリスのEU離脱はとても良かった。後は(フランスの極右政党『国民戦線』の)マリーヌ・ル・ペン党首が今春の大統領選に勝ち、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が9月の総選挙に負ければ素晴らしい」。イギリスのEU離脱を主導したボリス・ジョンソン外務大臣が今年1月に訪米した際、バノン氏は密かにこう励ましたという。翻って、EUを敵視するヨーロッパの極右政党からみれば、トランプ政権は願ってもない助っ人だ。トランプ政権に近付き、静かに連携を探ろうとしている。前出の保守系政治団体のイベントには、ヨーロッパから極右や右派政党も顔を揃えた。報道によれば、フランスの国民戦線、イタリアの『北部同盟』、オーストリアの自由党の幹部らが、トランプ政権側と熱心に接触を重ねたという。反移民・反イスラム・自国優先といった思想でトランプ政権と共鳴し、ヨーロッパの極右勢力が更に勢いづく筋書きが現実味を帯びている。国民戦線のルペン党首は、4~5月のフランス大統領選に向け、世論調査で首位を走る。彼女はアメリカのTPP離脱を称賛する。今月15日の下院選を控えるオランダでは、“オランダのトランプ”と呼ばれる自由党のヘルト・ウィルダース党首が、第1党の座を窺う。オーストリアやイタリアの右派政党の主張も、トランプ政権に重なる。反EUのルペン氏が当選すれば、「EU統合は本当に死ぬ」(ヨーロッパ外交筋)。ヨーロッパを分断したいロシアも、「ルペン氏陣営に資金援助している」との情報が流れる。米英仏中露は、国連で拒否権を握る安保理常任理事国でもある。この大国クラブが“国粋の枢軸”に占められたら、グローバル化の秩序は後ずさりしてしまう。戦前には、米英仏が主導する秩序に反発した日本・ドイツ・イタリアが枢軸を組み、戦争に走った。皮肉なことに、今度は日本とドイツが現行体制の砦にならなければならない。 (本社コメンテーター 秋田浩之)


⦿日本経済新聞 2017年3月10日付掲載⦿
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