【Global Economy】(28) サウジ改革、ぶつかる戒律…女性の社会進出・娯楽事業支援

世界最大級の産油国であるサウジアラビアが、原油価格の低迷による経済の落ち込みを打開しようと懸命だ。だが、活性化に向けた構造改革は、イスラム教の教えを厳格に守るお国柄に反しかねない面もある。 (本紙カイロ支局長 本間圭一)

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サウジアラビアのサルマン国王が1000人を超える同行者と来目した今月12日。サウジアラビアの首都・リヤドでは、会社員のムハンマド・ガムディさん(55)が憂鬱な表情を浮かべていた。「最近は物価が上がって生活が厳しい。将来も不安だ」。子供が3人いるが、「子供たちが大人になった時、国が繁栄しているか心配だ」という。例えばガソリンの場合、2015年までは1リットル当たり0.75リヤル(約23円)だったが、今は0.9リヤル(約27円)だ。国際的には安いものの、2割の値上がりだ。ガス・電気・水道代も同様に上昇しており、全体として家計を圧迫している。サウジアラビアは、国の歳入の約7割を石油関連が占める。王制のサウジアラビアには選挙が無く、初代国王の直系男子のみが王位を独占する。現代社会では“非民主的”として、体制批判を受け易いが、それを封印してきたのが石油でもある。石油収入は巨額な補助金として注ぎ込まれる。国民の教育や医療費は原則無料で、電気・水道代も長い間安く抑えてきた。サウジアラビア人の約7割を占める公務員には高給が保証され、休暇も多い。所得税や消費税が存在しない為、選挙を通じた代表者がいなくても不満が出難かった。ところが2014年夏以降、原油価格が急落し、状況は変わった。国の石油関連の歳入が減り、2014年度から3年連続で国の歳出が歳入を上回る財政赤字に陥った。軍事・経済の権力を握るムハンマド副皇太子は、石油依存から脱する構造改革に乗り出した。サウジアラビアでは以前から、原油価格が下がる度に“脱石油”の必要性が叫ばれたが、実質的に進まなかった。「非石油分野への外資の進出が少なかった」(キングアブドルアジズ大学のワリド・アルスダリ教授)のが一因だ。今回、サルマン国王が先月末から約1ヵ月間に亘ってアジアを訪れているのも、その反省からだ。

国の財政立て直しに向け、国民の痛みを伴う改革も次々と打ち出している。歳出を減らす為、国が公的な事業に出す補助金を削減し、ガソリン・水道・電気代が値上がりした。公務員の給与も削減。失業率は12%まで高まった。歳入増に向けては、日本の消費税に当たる付加価値税の2018年からの導入に踏み切った。煙草や甘いジュース等も「健康に良くない」として課徴金をかける。サウジアラビアの人々は節約に努めるようになった。イスラム教徒は毎年、聖地であるメッカへの巡礼を終えた後の『犠牲祭』の時期に、旅行等で休日を楽しむのが慣例だ。しかし、昨年の犠牲察は旅行を控える等、質素な過ごし方をする人が多かった。サウジアラビア政府が進める改革には、経済成長を目指すあまり、伝統的なイスラム教徒の反発を招きかねない取り組みも少なくない。イスラム教発祥の国であるサウジアラビアは、メッカやメディナというイスラムの2大聖地を抱える。イスラム世界の中でも制約が多く、人々はコーランの戒律を厳格に守って暮らしている。例えば、サウジアラビア政府は経済活性化に向けて、女性の社会進出の促進を打ち出している。だがサウジアラビアでは、女性は車の運転や、近親者の付き添い無しでの外出を禁じられている。戒律に反することなく女性の活躍の場を作るのは極めて困難だ。政府は観光客の増加も掲げる。しかしサウジアラビアでは、公共の場所での男女同席を禁止している。外国人による観光も規制しており、旅行者が観光目的でビザを申請する場合は、「4人以上の団体旅行で、且つサウジアラビアにある旅行業者が手配したケースに限る」とされている。娯楽性の高い文化事業への支援も進める方針だが、娯楽施設の建設は厳しく制限されている。ムハンマド副皇太子は、SNS等を通じて欧米の文化に触れている若年層にアピールし、改革を進めたい考えとみられる。しかし、イスラムの中でも復古的で戒律に厳しいワッハーブ派は、サウジアラビア王室の有力な支持者だ。急進的な改革に対しては、ワッハーブ派が強く抵抗する可能性がある。物価の上昇等を通じて人々の王室への不満が高まれば、長期政権を倒した2010年以降の民衆蜂起『アラブの春』が再燃する事態もあり得る。サウジアラビアが将来に亘る経済の発展を実現するには、国の存立との整合性をどう取るかという難しい課題が立ちはだかる。

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■シェールオイルに苦戦
サウジアラビア政府は、肝心の原油価格を上向かせようと必死だ。昨年11月にはサウジアラビアが議論をリードし、『石油輸出国機構(OPEC)』が約8年ぶりの減産を決めた。その後、原油の生産量は減り、原油価格は上昇し、節目となる1バレル=50ドルを超えて推移した。しかし、今月9日のニューヨーク原油先物市場では1バレル=49.28ドルと、約3ヵ月ぶりに50ドルを下回った。OPECの減産で原油価格が上昇した為、OPECに加盟していないアメリカでシェールオイルの生産が活発になった。アメリカの原油在庫量が統計を比較できる1982年以降で最大になり、世界的な供給過剰の懸念から原油が売られた。サウジアラビアの国の歳出と歳入が釣り合い、財政赤字を避けられる原油価格の水準は、1バレル当たり80~110ドル。現状では程遠い。今回のサルマン国王のアジア歴訪でも、サウジアラビア側はマレーシアやインドネシアで現地の石油関連工場への投資を打ち出し、より安定した原油供給先の確保に努めた。『国際通貨研究所』の志波和幸氏は、「シェールオイルの産出で、アメリカが中東の産油国への軍事的な関与を強める重要性が弱まりつつあり、サウジアラビアが自ら経済を改革して自立する機運が高まっている」とみる。サウジアラビアが取り組む“脱石油”の改革が成果を見せるには時間がかかる。国王一行がアジアで披露したような華美な光景は、そう長くは続かないかもしれない。


⦿読売新聞 2017年3月17日付掲載⦿
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