【科学捜査フロントライン】(16) 銃犯罪の予防と解決に欠かせない銃捜査…線条痕と法医学鑑定

「警察官が銃を撃った」というだけでニュースになる日本において、銃犯罪は非常に稀なものである。逆にそれだけに、一旦起これば世間の大きな注目を集めることになる。そこで登場するのが、銃の“指紋”とも言える線条痕の鑑定だ。そこから浮かぶ事件の状況や犯人像とは――。 (取材・文/フリーライター 鈴木光司)

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警察よる徹底した取り締まりや、国民全体のコンセンサスもあり、日本における銃犯罪は極めて少ない。警察庁によれば、2015年中の銃器発砲事件は僅かに8件、死傷者は4人である(うち死者1人)。前年の発砲事件32件(死傷者10人、うち死者6人)と比べてマイナス24件と、遡った5年間でも最も少ない年であり、しかも事件全てが暴力団絡みのものであった。日本最大規模の指定暴力団『山口組』の分裂で発砲事件が多発している2016年は、また違った数字になるかもしれないが、それでも異様とも言える“銃社会”アメリカは勿論、世界的に見ても“銃犯罪”とは縁遠い国と言えるだろう。抑々、事件自体が少ないということもあるが、銃による犯罪とその捜査は、我々の目に見えてき難いのも事実だ。そんな中、現実に発砲事件が起こった時、犯人を特定する有力な証拠となるのが、現場(※或いは被害者の体内)に残された銃弾だ。銃を発射した際、銃身内に施された螺旋状の溝(ライフリング)によって、銃弾の側面に刻み込まれてできる傷は“線条痕(ライフルマーク)”と呼ばれ、拳銃の特定に大きな役割を果たす。というのも、拳銃のライフリングはメーカー毎に特徴があり、また個別の銃も、工具痕の微細な個体差で痕が付く為、謂わば指紋と同様の働きをするからである。対象の拳銃が押収されれば、それと照らし合わせることで証拠となるし、たとえ拳銃が無くとも、どこのメーカーのものかは判明する。全国紙社会部記者が言う。「線条痕が有力な証拠であることは間違いありません。若し、犯人が発砲の後でライフリングに細工をして証拠隠滅を図ろうとしても、それは容易なことではない。専門工場レベルの作業が必要となるでしょう。若しブツ(拳銃)が押さえられ、現場に残った銃弾の線条痕と合致すれば、犯行に使われた拳銃であるという動かぬ証拠になります」。

線条痕の鑑定は、現場の鑑識係から上がってきた銃弾を、警視庁や各道府県警の科学捜査研究所の専門の技官が行う。銃弾、特に軟頭弾は、人間の体等の対象物に当たった衝撃で激しく潰れるが(※潰れた先端が広がることにより、臓器等への破壊力を増す)、それでも前述したように、側部に痕は残り、銃器の特定は可能となる。鑑定の技術自体は、単純に言えば“工具”の傷痕を合致させるものであり、弾頭の破損具合にもよるが、比較的確立されたものであると言えよう。「線条痕自体は、警察庁の技術なら鑑定はそんなに難しいものではありません。しかし、問題は線条痕の存在自体が犯罪者(※主として暴力団)に認識されているということです。特に、暴対法・暴排条例以降、銃犯罪に対する罰則が厳しくなったこともあり、実行犯が名乗り出るケースが少なくなっています。また、拳銃も謂わば使い捨てで、一度犯行に使った銃を再び使うということはありません。今現在、暴力団の銃犯罪検挙に線条痕が有効かというと、正直言って微妙なところではありますね」(同)。尤も、暴力団が拳銃を“使い捨て”にしている状態だといっても、線条痕の鑑定が銃犯罪の抑止力になっていることは間違いないだろう。また捜査においても、銃の種類の特定には大きな役割を果たしている。公訴時効を迎えた事件ではあるが、1995年3月30日、一連の『オウム真理教』事件の流れで起こった國松孝次警察庁長官狙撃事件に使われた銃も、鑑定の結果、アメリカの『コルト』製であると判明している。余談ではあるが、國松長官の体内から検出された弾頭は、先が広がってマッシュルーム状になって潰れており、長官を一時危篤状態まで追い詰めた。銃弾の破壊力の凄まじさをまざまざと見せつけるものであった。実のところ、銃犯罪解決の問題は寧ろ、鑑定技術より、銃器メーカーの閉鎖性・秘密性による捜査機関への非協力的姿勢とも言えるのだが、これは経済、或いは政治の問題でもあり、警察の捜査とは違ったフェイズの話と言えよう。線条痕から銃器を特定することと同時に、捜査現場、特に殺人事件等では、犯人像(※単独犯なのか複数犯なのか)、そして犯行の状況を炙り出すことも重要になってくる。その時に威力を発揮するのが法医学である。元東京都監察医務院長で、法医学者の上野正彦氏が語る。「遺体の射入口(※銃弾が入った位置)と射出口(※銃弾が出ていった位置)を数学的・幾何学的に計算すれば、どこの場所から撃ったのか、どれくらいの距離から撃ったのかがわかります」。背中に射入口があり、胸部や腹部に射出口がある、又は体内に銃弾が留まっていれば、それは背後から撃ったということが容易に推測される。しかし、それを法医学的な計算から、何mくらい離れた場所なのか、また上からなのか下からなのか、或いは斜めからなのかを究明することが、現場捜査、特に初動捜査において重要なのは言うまでもない。逆に言えば、この法医学的な鑑定が軽んじられることがあれば、捜査は止め処もなく難航する。「(1963年に起こった)ジョン・F・ケネディ大統領暗殺がわかり易い例ですね。あの事件はリー・ハーヴェイ・オズワルドの単独犯と結論付けられていますが、射入口を数学的・幾何学的に分析していくと、極めて不合理になってきます」(同)。

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ケネディ大統領暗殺事件は、当時からオズワルド単独犯説には疑義が投げかけられており、後に映画『JFK』(ワーナーブラザース)等でも検証がなされている。国家的陰謀との論議もある大統領暗殺は究極のレアケースであるが、かように銃犯罪における法医学的鑑定が、事件の真相解明の重要な手掛かりであるということは言えよう。更に、法医学は犯行時間・死因においても、相当程度の立証が可能だ。「銃弾が入った遺体が死後硬直から2時間経ったのか、3時間経ったのかを推定することができます。また、射入口・射出口・銃弾が留まっている場所で、何が致命傷なのかもわかる。1発目なのか、或いは2発目なのか…という具合にですね」(前出の上野氏)。線条痕の鑑定が銃器特定の切り札だとすれば、法医学は銃犯罪の現場における“犯行形態”を知る上での最大の武器と言えるだろう。このように、日本の犯罪では極々少数派とも言える銃犯罪に関しては、その社会的影響・治安に与える脅威から、極めてセンシティブな捜査態勢が取られていることがわかる。それでも、銃犯罪が少ないが故に、未解決事件がクローズアップされるのも事実である。前述した國松長官狙撃事件は公訴時効を迎えた。1995年7月30日に東京都八王子市のスーパーマーケット『ナンペイ』で起きた女性3人射殺事件も、捜査特別報奨金制度の対象となっているにも拘わらず、未だ解決には至っていない。線条痕等の科学捜査により、犯行に使用されたのはフィリピン製の3口径回転式拳銃(スカイヤーズビンガム=コルトのコピー挙銃)とされているが、ブツ(銃)と人(犯人)が未だ特定できない困難な案件となっている。記憶に新しいところでは、2013年12月19日、『王将フードサービス』の社長が何者かに射殺された事件であろう。こちらも、銃の種類は勿論、この事件を担当した全国紙社会部記者によれば、「現場から、九州の然る暴力団幹部のものとみられる吸い殻が出てきた」にも拘わらず、捜査は未だ難航している。警察による銃犯罪に対する科学捜査の態勢は整っている。あとは、総合的な見地からみた捜査全般の話になってくるのだろうが、抑々銃犯罪が少ないという日本社会の特殊性も鑑みると、銃捜査への対応がアメリカ並みに進んでいなかったとしても、致し方ないのかもしれない。


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