なぜ客が寄り付かない、“呪いの商業用地”の真相――動線無しには駅前でも撃沈、履歴開示して家賃の弾力化を

好立地なのに客が寄り付かず、店が次々入れ替わる──。どの街にもそんな不吉な場所はある。縁起を担ぐ日本人の国民性もあって、“土地の崇り”等と噂され、廃墟化する物件も少なくない。だが、特定の物件・土地に人が集まらない背景には、必ず科学的な理由がある。全国にある“呪いの商業用物件”を訪ね、顧客が寄り付かない原因を解明した。そこには、小売業に限らず、全ての産業が知っておくべき“拠点配置の鉄則”がある。 (西雄大・水野孝彦)

その土地は関西南部、関西国際空港近くにある。関西地方の中でも片田舎だったこの地域が俄かに活気付いたのは、1994年の関空のオープンがきっかけだ。開港と共に、沿岸部には遊園地やショッピングモールを併設する『りんくうタウン』が完成し、内陸側には新興住宅街・マンション・アパート等が彼方此方に出現。各地を結ぶ複数ある幹線道路沿いは忽ち、ロードサイド店にとって絶好の出店場所となった。実際、1990年代後半以降、ファミリーレストランやスーパーマーケット等の出店が相次ぎ、今も賑わっている。だが、本誌取材班が訪れた“そのエリア”だけは別だ。車で走ると、先ず目に付くのは“貸店舗”の看板。1990年代に建設された飲食店と思しき建物が、数百mに亘って10軒ほど点在するが、営業しているのは一部だ。元レストランらしき店舗は、駐車場に草が生い茂り、半ば廃墟化。営業時間を示す看板は、何度も上書きした痕跡が見られ、経営主体が目まぐるしく変わった過去が窺える。「前の幹線道路には12時間で約1万台が通過し、一般的な好立地の条件を十分満たしている。なのに、どんな業態も長続きしない」。地元の不動産業者は、こう話す。中でも「最も不気味」(同)なのが、エリアの中心にある池を背後にした店舗。元々は大手ハンバーガーチェーンだったが、約10年前に撤退後、ピザ店・中華料理店と入れ替わり、3年ほど借り手が付かず、昨年から雑貨店が営業を始めた。その雑貨店も、平日の午後とはいえ、人の出入りは全く無い。店の敷地内には、池を向く形で稲荷が祭られており、非常に不自然な風景だ。地元では1つの噂がある。「付近一帯で商売が長続きしないのは、池の呪い」という噂だ。

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16世紀後半、1570年から始まった織田信長による『石山本願寺攻め』の舞台の一部としても知られるこの一帯は、古くから雨が少なく、溜め池が多い。この場所も埋め立て地で、高度成長期までは広大な池が広がっており、現存するのは元々の池の極一部だ。池は、戦前まで“くちべらし池”と呼ばれていたという。「戦国末期くらいから、飢饉で亡くなった死体等を池に捨てていたと聞いている。(飢饉で減った食料を分け合う)口を(殺して)減らすから、くちべらし。昭和の初め、自分が子供の頃は『絶対近付くな』と言われていた。縁起のいい土地ではない」。通り掛かりの老人は、こう話す。果たして、池の周辺で商売が上手くいかないのは、池に捨てられた者の崇りなのか? 勿論、そんな筈はない。本誌取材班が商業立地の専門家と共に分析したところ、この『くちべらし池ロードサイド』には、顧客を寄せ付けぬ強力な原因が5つもあった(左図)。中心にある、10年間で5回も店が替わったスペース(現在は雑貨店)で説明しよう。先ず問題なのは、店前の切れ目の無い中央分離帯だ。西から来る車が雑貨店に立ち寄ろうとしても、店の前で右折できず、約1km先でUターンしてくる必要がある。そこまで行く途中にも、信号や交差点等方向転換が可能な場所はあるが、「交通量も飛ばす車も多い為、ドライバーは心理的にUターンしたがらない」(前出の地元不動産業者)。更に、『日本マクドナルド』で長らく立地戦略を担ってきたコンサルティング会社『ソルブ』(さいたま市)の林原安徳代表は、「この時点で既に、西側から来る2分の1の客を事実上、取り零している」と指摘する。ならば、東からの客は取り込めているかといえば、それも違う。東から来て西へ向かう客はいいが、食事や買い物をした後に東へ戻る客は、やはり分離帯がある結果、店を出てから家と反対方向へ暫く走り、どこかでUターンしないと家に帰れない。これまた煩雑で、こうした専門家の見立てが正しければ、店の前を通る客の4分の3(西側から来る客+東側から来て東側に戻る客)を初めから放棄していると言っていい。100mほど東にある信号も、客を遠ざける一因となっている。店としては、中央分離帯のせいで、最早東からの客に頼るしかないのだが、信号から100m過ぎは車が丁度加速する地点。加えて、道は東から西へなだらかな下り坂で、スピードが出易い。「『ちょっと寄っていくか』という気分にはならない」と林原代表は話す。問題の池も、客商売にはネック。呪い・崇りの源等ではなく、蝿や蚊等の虫が湧き易い環境になっている。更に、駐車場への出入り口の幅が何れも4.2mと狭い。一般的に、車の大きさを問わず、間口が6mを切ると、ドライバーの「中へ入ろう」という意欲は失せるという。「データ的に好立地であっても、これだけマイナス要素が重なれば、余程のブランド力や知名度が無い限り、商売は難しい」。林原氏は、こう断言する。

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「あれっ…ここ、また新しい店に替わったのか」──。街を歩いていれば、誰もがそんな場所を目にしている筈。消費不況と競争激化で、飲食・小売店の新規出店が年々難しくなっているのは事実だ。ただ、それにしても、あまり頻繁に経営主体が替われば、街でも自然と噂になる。新築の際には地鎮祭を欠かさず、何かと縁起を担ぐ日本人の国民性もあって、“土地の崇り”等と噂される物件も少なくない。「一見すると好立地なのに、飲食店・オフィス・ショールームと何をやっても人が寄り付かない不吉な土地・建物は、確かに存在する。一般的に不動産業界では、道路に接する部分が2mに満たず、建築確認が取れない場所を“死に地”と呼ぶが(建築基準法43条違反)、商売が続かない土地をそう呼ぶ業者も多い」。東京都内のある不動産業者は、こう話す。言うまでもなく、この業者も「死に地の背景には、必ず科学的理由がある」という立場だ。本誌取材班は、こうした関係者の協力を基に、全国の死に地を訪ね、原因解明を試みた。京都市某所にある2009年オープンの雑居ビルも、人が集まらない“呪いの商業用物件”だ。商店街の近くに立つこのビルには、10の飲食・小売店が営業するスペースがあるものの、オープン以来、3年続いた店は無い。今では大半が美容院や貸し会議室となり、飲食店は1階と3階の3店舗だけになった。その1階も、7年間で焼き鳥・焼き肉・しゃぶしゃぶ、そして和食店と3回チェンジ。3階も出店→閉鎖→再出店を繰り返している。営業店舗があるにも拘らず、トイレは厳重に施錠されており、ドアには意味不明な使用禁止の張り紙が確認できる。冒頭の『くちべらし池ロードサイド』に纏わる噂は“池の崇り”だったが、このビルの噂は「応仁の乱跡地だから縁起が悪い」だ。1467年から約10年間続いた応仁の乱で京都全域が荒廃したが、その一帯が死体置き場だったというのである。勿論、このビルに閑古鳥が鳴くのも、死者の崇り等ではない。2014年の観光客数が前年比7.8%増の5564万人を記録する等、賑わう京都の中心部にありながら、この一角だけが流行らないのは、単純に“人の動線”が弱いからだ(下図)。原則として、人が集まる場所が2ヵ所あれば、2点を結ぶ最短ルートに動線ができる。但し、強い動線が生まれるには、2ヵ所の人口集積地の間を人が行き交うことと、車通りが少ないことという2つの条件が必要だ。問題の物件の場合、西にはビジネス街、東には観光地と2つの人口集積地に挟まれているが、ビジネス街に出勤する人は観光地には行かず、観光客はビジネス街に用事は無い。同時に、問題物件が面するA通りは、東から西へ向かう車の抜け道になっている。南北を通る幹線道路のB通りとC通りは常時、渋滞。2つの大通りの間には小道が5本あるが、うち2本は西から東への一方通行。東から西へ抜けられ、尚且つ車が走り易いのはA通りしかない。

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こうした動線の欠如は、中央分離帯や信号と並び、“呪いの商業用物件”を生み出す典型的環境で、動線が無ければ駅から徒歩1分の立地でも“呪われ”かねない。関東某所にある私鉄沿線の主要駅前にある商業ビルは、その代表的なケースだ。この物件については、左図を見てもらったほうがわかり易いだろう。私鉄の線路と幹線道路が斜めに交差している結果、駅前のロータリー裏にも拘らず、強い人の動線が無いエリアがある。「1日の平均乗降客数は数万人いるが、大半は駅を出た後、線路沿いに幹線道路へ向かう。態々ロータリーの裏へ行くのは、背後のタワーマンションの住民ぐらい」と地元の不動産業者は証言する。ロードサイド・繁華街にも拘らず、中央分離帯・信号・坂・土地の形・人の動線の有無等によって、呆気無く出現してしまう“呪いの商業用物件”。既に、そうした場所に拠点を構えてしまった企業はどうすればいいのか。飲食店の独立開業を支援する『メントレプレナージャパン』の矢田裕基社長は、「取り敢えず視認性を高め、店舗の魅力自体を高めること」と話す。

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■“呪い”の解き方①  あらゆる手で視認性を高める
茨城県牛久市にあるラーメン店の『麺屋元』(松本龍代表)は、昨年6月のオープン。「開業すると、立ち寄るお客さんが口々に『今度は潰れないでね』と言う。『おかしいな』と思って調べたら、過去10年で何度も店が替わっている場所であることがわかった」。松本代表は、こう振り返る。調べたところ、店の立地には2つの問題があった(右図)。1つは、信号から100m過ぎという場所。もう1つが坂だ。何れも“呪いの商業用物件”の典型的特徴で、手前レーンの車も向こう側レーンの車も、店の前を通過する際にはかなりのスピードが出ており、入り辛い。ロードサイド店だけに致命傷だ。そこで松本代表が取り組んだのが、視認性を大幅に高めることだった。「100m以上も前から、そこにラーメン店があることを認識してもらえば、スピードを緩めてくれる客も出てくる筈と考えた」(松本代表)からだ。視認性を高めるには、ありきたりな看板や幟では覚束無い。以前に潰れた中華料理店は、“ラーメン”と書かれた小さな看板だけ。麺屋元は、野菜たっぷりの名物『元ラーメン』を店の壁面に描き、訴求力を高めた。以来、開店直後から人気を集め、1日平均180杯販売する。初年度で約3000万円の年商を確保することに成功し、現状は順調な経営を続けている。壁面看板の製作に併せて店内のリフォームを進めたこともあって、約1500万円の費用がかかったという。「そうはいっても、潰れてしまえば元も子もない。ただでさえ立地上のハンディキャップを背負っているのだから、相当思い切ったことをやらないと、これまでの店の二の舞いになってしまう」。松本代表は、こう話す。

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■“呪い”の解き方②  動線が無ければ自分で作る
「10年間で12回も店が替わった立地で、周囲からも出店を反対されたが、工夫次第で何とかなると思った」――。そう振り返るのは、東京都千代田区神田で人気ワインバル『VINOSITY』を経営する『シャルパンテ』(同区)の藤森真社長だ。2011年に出店した同店の成功を皮切りに、現在では飲食店4店とワインショップ2店を経営するまでに業容を拡大している。藤森社長が敢えてこの場所への出店に挑んだのは、視察の段階で問題が明らかだったからだ。VINOSITYが入っている物件は、JR神田駅周辺にある繁華街とは駅を隔てて反対側にある。つまり、神田エリアの食事やお酒目当ての客の大動線からは外れており、実際、店の近隣の半径数十m圏内に居酒屋は殆ど無かった。店までの動線が無いなら、自ら作るしかない。その為には、月並みでも店の価値・独創性を高めることだ。動線が無いといっても、そこは都会。契約前に藤森社長が自ら物件前の通行量を数えたところ、平日なら1日約2000人いることが判明した。通りの性格上、大半は飲食目当てではなかったが、店の施工中から入り口の上部に看板を取り付け、ワインボトルや樽を置いて、行き交う人々にワインの店ができることを兎に角知ってもらうことにした。更に、平日の営業時間は午後3時から翌朝4時までと利便性を追求している。その上で、商品も口コミが生まれるように工夫した。スパークリングワインをグラスから零れる寸前まで注ぐ『こぼれスパークリング』というオリジナルメニューを考案。料理の面でも、ホイップバターをたっぷりと乗せたフライドポテト等、見た目にもインパクトのある料理を提供した。こうして、様々な角度から店の魅力を高める努力をした結果、駅からのみならず、後背地であるオフィス街から店まで来る客も獲得できた。

■“呪い”の解き方③  “いわく付き物件”には契約時の告知義務を
とはいえ、これまで紹介した“視認性の向上”と“店自体の魅力向上”は、万能薬ではない。どんなに店を目立たせ、独創性を際立たせたところで、その店が街の構造上、人が集まり難い場所にある事実は変わらないからだ。大きな看板を作り、他の店には無いメニューを打ち出せば、コストは上昇し、損益分岐点は上がる。何とか客を呼び寄せられたとしても、“普通の店”に比べれば確実に厳しい経営を余儀なくされる。また、頻繁に入れ替わる店舗は、周辺住民が「次も直ぐ潰れる、不味い店ではないか」と連想する結果、ただでさえ客足が伸び難い。その意味で、本来なら集客が難しく、何度も経営主体が替わっている物件の家賃は、相場より安くあるべきだ。が、実際はそうはなっていない。飲食店開業者を支援するサイト『飲食店.COM』を運営する『シンクロフード』(東京都渋谷区)によれば、同店が紹介してきた首都圏にある飲食店向け物件の平均家賃は、坪単価2万円。それに対し、好立地にありながら何度も入居者の募集を繰り返している店(駅徒歩5分以内・地下1~2階・同サイトでの募集回数上位50位以内)は、坪単価2万4000円。寧ろ、“いわく付き”のほうが高いのだ。何故こんなことになるのかと言えば、貸主と不動産業者側に、その店舗や土地の撤退履歴を契約者に告知する義務が無いからだ。「“死に地”の特徴は、素人目には好立地に映ること。募集を出せば有利な家賃で契約できる。態々不利な情報を言う貸主はいないし、不動産業者は仲介手数料収入が入るので、根本的に変わらない」。大手居酒屋チェーンの勤務経験がある『トーマツベンチャーサポート』の渡邉直氏は、死に地の家賃が下がらない仕組みをこう解説する。居住用物件は、以前に病死や自殺等があった場合には、所謂“事故物件”として借り主に伝える必要がある。だが、店舗用物件は、「借り主が本来知るべき情報を知らずに契約をした場合、一般的に貸主は説明すべき義務を問われる可能性があるものの、履歴開示に関する明文化されたルールは無い。現状は繁盛可能性について、貸主に詳細な説明義務があるというのは難しい」(弁護士法人『Next』代表の多田猛弁護士)。とはいえ、こうした状況は廃業者を増やし、地域を荒廃させかねない。店の撤退履歴を開示し、利用者が頻繁に替わっているなら、商業立地の専門家に原因を解明させ、それも公開する。そうすれば家賃は弾力化するし、安い家賃を求め、事情を知った上で、敢えて出店に踏み切る起業家も出てくるだろう。“呪いの商業用物件”を無くすことは、日本の起業成功率を高め、社会的コストの抑制にも繋がる。


キャプチャ  2016年6月27日号掲載


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