【解を探しに】第1部・漂流ニッポン(07) 子育て、地縁も育てる

20170323 04
茨城県かすみがうら市の子安神社に、“おかしま様”と呼ばれる不思議な紙の塊が安置されている。宮司の皆川安麿さん(63・右画像)が抱きかかえてやっと持ち上げられるほどの大きさだ。同市の四か村地区に伝わる安産のお守り。無事出産を終えると、半紙を重ね、水引をかけて次の妊婦に渡す。集落の女性が結ぶ“お子安講”が風習を受け継いできた。皆川さんによると、「いつ始まったのか、今では誰も知らない」。中心は炭化して真っ黒。折り重なった半紙の一枚一枚が、地域で育まれた命の証しだ。お子安講は江戸時代以降、関東を中心に広まった。形態は様々だが、集落の女性が定期的に集まり、安産と子供の成長を神仏に祈る。同市郷土資料館の学芸員・千葉隆司さん(44)は、「昔の出産は命懸け。子供の成長は地域全体の願いだった」と語る。「うちの子を誰かが見守っていてくれる安心感がある」――。小島裕美さん(39)は千葉県旭市の農家に嫁ぎ、十数年前、地域のお子安講に“仲間入り”した。

核家族で育った小島さんにとって、子供の誕生を講でお披露目し、共に祝う習慣は驚きだった。今は「大切な伝統」と感じる。高度成長期に都市への人口集中が進み、社会の繋がりは薄まった。地縁の無い住宅街やマンションで、如何に子供を育てるか。身近に祖父母も頼れる知人も無い状況で、親は孤立しがちだ。全国の児童相談所が2014年度に対応した児童虐待は、過去最多の8万8000件で、親の孤立が背景の1つとして指摘される。「子育て中の家族を支える社会の仕組みが必要だ」。横浜市港北区にある子育て支援拠点『どろっぷ』の運営法人『びーのびー』の理事長・奥山千鶴子さん(53)が訴える。昨年12月上旬。住宅街にあるどろっぷは、子供たちの歓声と母親の談笑に包まれていた。親同士の交流・行政や保育サービスへの橋渡し・子育ての悩み相談等、支援拠点が持つ機能は、嘗て地域社会が果たした役割に重なる。「どれだけ大変か、本音で語れる場所があるだけで救いになる」(奥山さん)。保育園の送り迎えの住民同士によるサポート等、支援拠点を軸にした取り組みが地域全体を巻き込む。びーのびーのが活動を始めたのは15年前。当時の赤ちゃんたちが中学生になって、職業体験に訪れる。奥山さんは、「『結婚して子供を持ちたい』と思える地域を作る、その拠点でありたい」と考える。低迷する出生率に虐待や育児放棄…。子育てを取り巻く状況は、楽観できるものではない。おかしま様は、集落に生まれる子供が少なくなったこと等から神社に戻ってきた。だが、前出の千葉さんは指摘する。「“子供を育てる”という営みが、社会にとってどんなことだったか、今、お子安講の祈りから学ぶことは多いのではないだろうか」。

20170323 05
地域社会の繋がりが薄まる中での現代の子育て。働き手の病気や勤め先の倒産等、困難に直面して孤立無援に陥るケースは少なくない。親の孤立は子供にも影響が及ぶ。親元で暮らせなくなった子供は、様々なハンディキャップを背負ったまま社会に出て、また孤立していく――。負の連鎖を断ち切ることができるのか。親が養育できない子供を支える“社会的養護”の現状を取材した。東京都文京区にある2DKのマンション。NPO法人『日向ぼっこ』の活動拠点だ。児童養護施設等で育った子供の相談に乗る。「学校を辞めてしまった」「アパートを借りたいが保証人がいない」「家賃が払えない」。内容は生活全般の多岐に亘る。理事長の渡井隆行さん(36・左画像)は、「これまで社会的養護の当事者が気軽に集える場所が無かった。『ここにいてもいいんだ』と安心して過ごせる場所でありたい」と話す。自身も親の経済的事情等から児童養護施設で育った渡井さんは、「社会に出た後のケアを含め、どんな支援が必要なのか、当事者の声を政策に反映させる必要がある」と指摘する。厚生労働省によると、親を失ったり、虐待を受けたりして社会的養護の対象になっている子供は、2013年末時点で約4万6000人。この内の約2万8000人が児童養護施設で生活する。児童福祉法は、入所期間を「原則18歳未満、必要な場合には20歳未満まで延長できる」と定めるが、殆どの子供が高校卒業と同時に退所する。その後の進路は、大学11.4%・専門学校11.2%と、進学率は高卒者全体(大学53.8%・専門学校23.1%)を大きく下回る。70.9%は高卒で社会に出る。

成年に達しない段階で施設を出た子供たちの多くは、携帯電話や賃貸住宅の契約等、様々な場面で“親権者の同意”を求められる。しかし、「実親・施設・里親との関係が良好でない子供は苦労する」(渡井さん)。日向ぼっこは、本人の意向を尊重しながら、出身施設や親権者らとのやり取りをサポートすることもある。渡井さんによると、本当に困っていることを相談したり、誰かを頼るということが苦手な子供が少なくない。渡井さんは、「最も頼りになる筈の親から助けてもらえなかったり、虐待されたりした経験があるからではないか」と話す。2014年度に全国の児童相談所が受けた虐待に関する相談は8万8931件で、児童虐待防止法が施行される前年の1999年度の7.6倍になった。1983年に9%だった虐待を理由にした児童養護施設への入所の割合は、2013年に37.9%となり、増加が際立つ。厚生労働省が昨年11月に纏めた『社会的養護の課題と将来像の実現に向けて』は、虐待の急増を踏まえて、「社会的養護の量・質の拡充が求められる」と指摘。同省等は、里親の下での養育の割合や少人数制の施設を増やし、よりきめ細かいケアの実現を目指す。また、各施設に“自立支援コーディネーター”を置く等、実社会での生活を見据えた取り組みも導入している。「社会的養護を受ける子供の大学進学率を、全体の水準に近付ける必要がある」と語るのは、立教大学コミュニティ福祉学部の浅井春夫教授。児童養護施設の職員を12年間務めた。浅井教授は、「希望すれば大学に挑戦できる前提があれば、生活や高校での学習への意欲も高められる」とみる。「自立する時、如何に軟着陸するかが大事。親からの援助が期待できない子供が安定した社会生活を始めるには、ある程度の学力と学歴が不可欠になっている」。コミュニティ福祉学部は、実業家からの寄付を基に、児童養護施設出身者を対象にした独自の奨学金を今年度に創設した。入学金、4年間の授業料の免除に加えて、生活支援として年間80万円が支給され、返済の必要はない。浅井教授は、「社会的養護の下で暮らす子供の進学機会を保障する問題提起になればよい」としている。「虐待を受けた経験のある人は、自分も子供を虐待し易い」――。各種調査等でよく示される表現だ。日向ぼっこの渡井さんは、「当事者にとっては配慮の無い、不安になる言葉」と強い抵抗感を持つ。経験の有無に関係なく、「周囲の助けを得られず、悩みを1人で抱え込んでしまうことで虐待は起きる」。失業・離婚・病気…。どんな家庭の子供でも、生活が突然暗転し、社会的養護の当事者になる可能性は否定できない。渡井さんは、「社会的養護への理解を広げると共に、“社会全体で全ての子供を守り育てていく”という認識を作ることが必要ではないか」と話す。 (稲沢計典) =第1部おわり


⦿日本経済新聞 2016年1月6日付掲載⦿
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

ルポ虐待の連鎖は止められるか [ 共同通信社 ]
価格:626円(税込、送料無料) (2017/3/22時点)


[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

里親支援ガイドブック [ 養子と里親を考える会 ]
価格:864円(税込、送料無料) (2017/3/22時点)


[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす [ 矢満田篤二 ]
価格:950円(税込、送料無料) (2017/3/22時点)


[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

どうして私は養子になったの? [ キャロル・リヴィングストン ]
価格:1080円(税込、送料無料) (2017/3/22時点)


スポンサーサイト

テーマ : 社会ニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR