ネット通販に酷使される『ヤマト運輸』――クロネコを蝕む“豊作貧乏”、日経の値上げ第一報はヤラセ?

20170323 06
インターネット通販やフリーマーケット市場の拡大に伴う物量の膨張に、クロネコヤマトが喘いでいる。宅配便取り扱い個数の増加ペースに、ドライバーを始めとした人手の確保が追い付かず、外部の業者等への配送委託費が嵩んで、収益基盤をじわり蝕んでいるのだ。「想定以上にネガティブ」――。『ヤマト運輸』を中核事業会社とする『ヤマトホールディングス』が今年3月期の第3四半期(3Q・2016年4~12月)決算発表と、通期の業績予想の下方修正に踏み切った1月30日、投資家らの間ではこんな声が広がった。何しろ、2Q(4~9月)までは前年同期比16.4%増の209億円と増益基調で推移していた営業利益が、3Qでは同6.5%減の580億円と、一転して減益。通期でも、期初予想の650億円から70億円下振れし、580億円(前期比15.4%減)と、3Qまでと同じ水準に留まるというのだ。つまり、4Q(今年1~3月)は全く利益が出ないということに他ならない。巨大地震と巨大津波に見舞われて、東日本の物流網が寸断された6年前。その2011年3月期の4Qでさえ、ヤマトは僅か2億円とはいえ、営業黒字を計上している。それをも下回る事態に、“異常”なものを嗅ぎ取ったのだろう。市場は敏感に反応した。業績発表翌日の株価は一時、2300円を割り込み、終値で2279.5円と、前日比約6%(144.5円)も下落した。

“誤算”――。ヤマトの収益計画を狂わせた最大の要因が、想定を上回る物量の増加だ。同社では当初、今3月期の国内宅配便取り扱い個数を、前期比6.9%増と見込んでいた。経済産業省の統計によると、昨年度の消費者向け電子商取引(BtoC)市場の伸び率は7.6%。一方で、国内総貨物輸送量自体はこのところ減少傾向(※国土交通省の推計値では今年度で前年度比0.5%減)にあり、こうした事情を踏まえれば、一先ずは妥当な予測だったと言えるだろう。ところが、実際にはこれが3Q実績で8.3%増に跳ね上がったのだ。僅か1.4ポイントの差異とはいえ、ヤマトの年間取り扱い個数は昨年3月期で17億個超(※今年3月期見込みは18.7億個)にも及ぶ。想定より2400万個近くも取り扱いが増えた計算だ。これで膨れ上がったのが委託費だ。嘗ては「年末等の繁忙期だけだった」(ヤマト運輸幹部)外部への配送委託が常態化してしまったのだ。厚生労働省の調査による職業別有効求人倍率によると、ドライバーに対する有効求人倍率は2.70倍(※昨年12月実績)で、全体(1.36倍)の凡そ2倍。求人募集しても思うように人員を確保できず、物量が増えた分は委託に頼らざるを得ないという訳だろう。3Q決算でみると、委託費はホールディングス全体で1801億円余。前年同期に比べて10.1%、165億円も増加した。国内の宅配便事業(デリバリー事業)だけに限ると140億円増、実に同15.8%もの膨張ぶりだ。ヤマトが期初に見込んでいた今3月期の委託費増額分は64億円。しかも、その大半は非宅配便事業での支出で、デリバリー事業では僅か16億円増に過ぎなかった。それが8.75倍超にも跳ね上がったのでは、たまったものではあるまい。業績下方修正に追い込まれるのも当たり前か。それでも物量の増加、即ち需要の増加に応じて、教科書通りに価格も上がっているなら未だ救われる。しかし、実態は真逆だ。インターネット通販のような大口の荷物は、割引料金が適用されていることもあって、配送単価は3Q実績で前年同期比3.6%減。通期では1個当たり556円と、3.8%下落する見込み。予想売上高(1兆4600億円)の伸び率3.1%を上回る落ち込みに、単価が700円を超えていた2000年代初頭頃の“わが世の春”を知るヤマト関係者の1人は、「これぞまさに豊作貧乏」と半ば自嘲気味に溜め息を漏らす。

20170323 07
業界関係者の間では、「“誤算”の背景には、爆発的な成長を続けるインターネット通販大手“Amazon.com”の存在がある」との指摘も少なくない。ヤマトがAmazonとの取引を始めたのは2013年春頃とされている。それまで、Amazonは佐川急便と配送契約を結んでいた。しかし、佐川はBtoBが主力。消費者等個人向けに配る荷物は、大半を軽トラック1台で業務を請け負うような小規模業者に委託していた。この為、「大口割引で元々単価がべらぼうに安い上、委託費が嵩んで全く儲けが出ない」(佐川を傘下に持つSGホールディングスの幹部)として、契約を打ち切ったのだ。代わって引き受けたのがヤマトだ。佐川と違って小口配送を得意とするヤマトは、個人向けも自社ドライバーで対応できる。この為、委託費は発生せず、「少しくらい単価が低くても、量でカバーすることによって、ある程度の利益は確保できる」との読みがあったに違いない。ところが、Amazonからの配送依頼は、ヤマトの想定を遥かに超えた。そして、これに空前とも言える人手不足が重なり、利益が上がらなくなったという訳だ。実際、それは業績数値にもはっきりと表れている。Amazonとの取引が未だ残っていた2013年3月期のSGホールディングスの営業利益は310億円。それが、取引を打ち切ってから、2014年3月期に433億円、2015年3月期に455億円、2016年3月期に540億円と、右肩上がりで増加しているのに対し、ヤマトは2013年3月期に662億円だった営業利益が、Amazonと取引を始めた途端、翌2014年3月期に630億円に後退。2015年3月期には689億円にまで戻したものの、次の2016年3月期には再び685億円に漸減する等、利益成長がほぼ止まっているのだ。そして今年3月期は、一気に600億円の大台を割り込む…。

ヤマトにとって深刻なのは、一連の問題が一朝一夕には解決しそうもないことだろう。インターネット通販という利便性を一度満喫してしまった消費者が、それを手放すことはあり得ず、物量は今後も増加の一途を辿っていくに違いない。一方で、ドライバー不足には益々拍車がかかりそうな情勢だ。それどころか、総務省の労働力調査によると、2015年におけるトラック運転手は80万人で、前年比約3万人減少した。若者の新規就業が少ない上、高齢化で退職者も増えている為で、ドライバーの7割が40代以上。しかも、15%は60代以上で、公益社団法人『鉄道貨物協会』(米本亮一理事長)は「2020年度には約10万人のトラック運転手が不足すると予測する。背景には、長時間労働や低賃金といった職種としての魅力が薄いこともある。厚生労働省の『過労死等防止対策白書』2016年版によると、1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合は、“運輸・郵便業”が約2割と全業種中で最高。一方、平均賃金は2014年で約29.4万円。全産業平均を2万円下回る。だが、こうした環境をヤマトだけで変えていくのは殆ど不可能だ。無論、ヤマトとて手を拱いている訳ではない。その1つが再配達対策だ。現在、荷物の届け先が不在で、1回の配達では受け渡しができない再配達の比率は約2割にも達している。独り暮らしや共働きの世帯は、繰り返し配達しても届けられないといったケースが多く、その分、人手を食うだけでなく、コストも嵩む。業界では、「再配達をゼロにすることができれば、年間約9万人分に匹敵するドライバーが浮く」(関係者)との試算もあるほどだ。そこで取り組んでいるのが、宅配便の受け取り専用ロッカーの設置だ。フランスの郵便機器製造大手『ネオポストシッピング』と合弁で設立した『パックシティジャパン』(東京都千代田区)を通じて展開しているもので、駅構内等に取り付ける。2022年度までに全国で5000台以上を設置したい考えだ。ただ、初期投資の負担が大きく、「単独で整備するのは容易ではない」(前出のヤマト運輸幹部)のが実情だ。ヤマトでは佐川や『日本郵便(JP)』等ライバルに共同展開を持ち掛けているが、日本郵便は独自の設置を進めている。

20170323 08
再配達を減らすには、「届け先との情報交換を進めて、受け取り易い日時を指定してもらう」といった手法も考えられる。その為に駆使しているのがITだ。国民の約半数が利用しているとされる『LINE』に公式アカウントを開設。AI(人工知能)を相手に、チャット形式で問い合わせや配達日時の変更依頼ができるようになっている。とはいえ、これもITリテラシーに乏しい高齢者等にはハードルが高く、決め手にはなり得ない。「究極の人手不足対策」(ヤマト関係者)と言われているのが、自動運転の導入だ。『DeNA』との共同プロジェクトで、先ずは今月から1年間かけて実証実験に取り組む。車両の後部にロッカーを備え、顧客が希望する時間と場所に自動運転で荷物を届け、セルフサービスで荷物を取り出してもらう仕組み。導入できれば、早朝や深夜、24時間配達も可能になる。だが、技術的にも法整備の面からも、自動運転自体、実用化は未だ当分先。今回の実証実験でも、安全性確保の観点からドライバーを便乗させる計画で、目指す完全無人化への道は遥かに遠い。こうした中、ヤマトが打ち出そうとしているのが「プライシングの適正化」(芝﨑健一専務執行役員)。つまりは値上げだ。当初は今月末に予定していた次期中期経営計画の発表を、最長9月まで先送りした上で、来月末までに纏めるとしている“宅配便対策”の最大の柱になる。ヤマトでは、「急激な経営環境の変化で自助努力だけでは(コストを)吸収し切れない」「消費者の意識も含めて環境全体が変わるべき時期」としており、「スピード感を持って取り組む」(同)と一歩も退かない姿勢だ。しかし、業界筋の間では、「値上げの表明自体はできたにしても、果たしてそれがどこまで浸透するのか?」として、実現性を危ぶむ声が少なくない。JPという難敵が立ちはだかっているからだ。

ヤマトが料金適正化を掲げて24年ぶりの値上げに踏み切ったのは、2014年春のことだった。割引率の高い大口法人荷主を中心としたもので、幹線トラック業者等も足並みを揃えた。ところが、そこにJPが安値攻勢をかけたのだ。その結果、「相当数の顧客がJPに流出」(ヤマト運輸関係者)。ヤマトは、途中から価格交渉をスローダウンせざるを得ず、最終的には「何やら尻切れトンボのような形」(同)で終わっている。仮に値上げを打ち出せば、今回も顧客は「確実にJPに流れる」(インターネット通販業界関係者)という訳だ。2014年当時、JPは親会社である『日本郵政』の上場というビッグイベントを控えていた。投資家に対して成長戦略をアピールする為にも、宅配便市場でのシェア向上に躍起とならざるを得ず、「多少の出血は覚悟の上でヤマトの顧客を奪いにいった」(JP関係者)側面もあったのは否めない。先月23日には、日本経済新聞が1面トップでヤマトが宅配便の荷受量を抑制することを報じ、各紙がこれを追った。改めて現場のマンパワーが限界状態にあることが浮き彫りになったが、「今回の荷受制限は、春闘の交渉テーブルで労働組合側が求めたものだ」とされた。しかし、ある流通系労組幹部はこう内幕を明かす。「日経の記事では労組側が求めたように書かれていたが、実際にはヤマトの経営側が労組に『荷受制限を求めるように』という申し入れをしたようだ」。つまり、“ヤラセ”の労使交渉であり、荷受制限は経営側の意向に他ならないのだ。ヤマト経営陣は、「現場の声を受けて重い腰を上げた」というポーズを取った上で、今後はAmazon等の通販各社に値上げを要求していく腹づもりだ。ヤマトの2代目社長・小倉昌男氏が、規制に抗う形で宅急便事業をスタートさせたのは約40年前。営業開始初日の荷物は僅か11個だったとされている。それが消費者の支持を得て、ビジネスモデルとして定着し、今ではヤマトだけで年間17億個超、日本全体では37.5億個もの荷物を運ぶ巨大な物流インフラにまで発展した。昨年末には、佐川で大規模な遅配が派生したとはいえ、日本の宅配は誤配も少なく、サービスの質も含めて世界最高水準と言ってもいい。だが今、膨らみ続ける物量と慢性的な人手不足は、そのインフラに簡単には修復し難い脆弱性があることを浮き彫りにしつつある。果たして、これを乗り切って起死回生を図れるのか――。ヤマトが重大な岐路に立たされていることだけは確かだ。


キャプチャ  2017年3月号掲載




スポンサーサイト

テーマ : 経済・社会
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR