【「佳く生きる」為の処方箋】(44) 私の必勝3法則

手術室に入ったら、直ぐに手術を始められる。どんなに面倒なことや心配事を抱えていても、スパッと気持ちを切り替えて手術に専念できる――。そのような境地に至ったのは、40代の半ば、手術数が3000例ほどに達した頃だったと思います。症例数を重ね、外科医として成熟してきたという面もありますが、一番の理由は、手術を待っている患者さんが沢山いたこと。次の患者さんの手術をする為にも、時間を無駄にできなかったのです。常に時間を意識しながら手術をするようになると、自分の中に“手術時計”のようなものが生まれてきました。「1時間後にはここまで進んでいる、2時間後にはあそこまで終わっている…」と、自らが刻む時間と手術の進渉状況がほぼ一致するようになったのです。「あぁ、この道の本当のプロになった」と思いました。このような“仕事時計”は、外科医に限らず、どんな職種のプロも共通して持っているものではないでしょうか。余談ですが、大学受験の時にこの能力が開花していたら、浪人することもなく、大学に入れたのかもしれません。机に向かったら直ぐに勉強のスイッチが入り、脇目も振らずに問題を解いていく…。医学部志望の受験生に講演をする時は、過去の自分ができなかった、そんな受験必勝法について話したりもします。必勝法は無論、外科医にとっても重要です。手術は勝負事ではありませんが、患者さんの命がかかっていますから、負ける訳にはいきません。外科医には、「絶対に勝つ」という強い気持ちが不可欠なのです。では、その必勝法とは何か。私は3つの法則があると思っています。

第1は、決め技・得意技を持つこと。私の場合は、心臓を動かしたまま冠動脈バイパス術を行う『オフポンプ手術』と正確な縫合が、それに当たります。決め技は努力さえすれば自然と身につくというものではなく、自分なりの理想像や仕上がりのイメージをどこに置くかが物を言います。例えば、作家が“てにをは”にまで気を配って文章を練り上げるように、外科医も手術の完成度に拘ります。たとえ紙一重の差でも、「この辺でいいだろう」と妥協すれば、その皺寄せは結局、患者さんに行ってしまいます。決め技のクオリティーを高めたければ、この“紙一重”を許容しないことが肝心です。第2は、“どのように戦うか”というプレースタイルを持つこと。私なら“早い・上手い・安い”です。無駄を省いて手術時間をできるだけ短く、上手く進めることで、合併症が減り、入院期間も短縮され、医療費も安く上がるという訳です。大事なことは、尻すぼみにならないこと。野球なら、ピッチャーが初回でも最終回でも同じように時速150㎞の速球を投げられる、そんな戦い方です。持久力が無くて後半戦で消耗し、失速するようでは、勝負には勝てません。そして第3が、諦めないこと。トラブルが起こった時、冷静にリカバリーショットを打てるかどうかです。予期せぬ出来事に気が動転して、手が震えたり、パニックを起こしたりして、リカバリーどころか、逆に事態を悪化させてしまう外科医もいます。“諦めない”という精神論だけではダメで、譬えて言うなら幅10㎝の平均台を地上から50mの高さに持っていっても、地上と同じように渡れる胆力と肉体と技術力を身に付けること。これができて初めて、諦めない心が起死回生のリカバリーショットへと繋がります。この必勝3法則をどれだけ高いレベルでクリアできているか。私自身、今も手術をする度に自問自答を重ねています。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2017年3月23日号掲載
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