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【日系人の記憶・強制収容80年】(上) 「バケーションに行くのよ」

1941年12月の日米開戦後、アメリカに暮らす日系人約12万人の強制収容が始まってから、明日で80年となる。当時を知る人が少なくなる中、歴史の風化を防ごうと、収容経験者らが記憶を語り継いでいる。

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2歳の弟の手を引き、桟橋を渡った。母が着せてくれた格子柄のコートが気に入らず、やや不機嫌だった。後ろに人形を手にした5歳の妹と、生後9ヵ月の下の妹を抱いた母が続いた。当時7歳だった日系3世のリリー・キタモト・コダマさん(87)は、あの日の光景がはっきりと記憶に残る。1942年3月30日朝、大統領令9066号に基づく強制退去命令を受け、ワシントン州ベインブリッジ島の日系人227人が島を出た。旅行鞄を手に連なって歩く日系人の周囲を、銃剣付きライフルを持ったアメリカ兵が囲んだ。前夜、荷造りをする母は努めて明るく振る舞った。「これからバケーションに行くのよ」。その言葉に胸が躍り、寝付けなかった。列車とバスを2泊3日かけて乗り継ぎ、着いた場所には粗末なバラックが並んでいた。カリフォルニア州東部の荒野に作られた『マンザナール強制収容所』だった。夏場は太陽が照りつけ、冬場は厳しい寒さで強風が吹き荒れた。敷地は鉄条網で囲まれ、監視塔からアメリカ兵が目を光らせた。2~3ヵ月を過ぎた頃、リリーさんはバラックから離れた小川で遊んでいた。ふと気がつくと、監視塔のアメリカ兵が自分に銃を向けていた。母はバケーションと言っていたのに、「何かがおかしい…」と怖くなった。走ってバラックまで戻り、母に尋ねた。「これってどういうバケーションなの?」。母の答えは覚えていない。不満を呑み込み、耐えていたことは感じ取れた。妹のフランシス・キタモト・イケガミさん(85)は、「母は私たちを不安にさせないように、いつも笑顔だった。成人後に事実を学び、母の苦悩を思って涙がこぼれた」と振り返る。“日本人を祖先に持つ全ての人々へ”――。ロサンゼルスに住んでいた日系2世のジューン・バークさん(89)は同年5月、姉と映画を見た帰りに衝撃的なビラを目にした。日系人に居住地からの強制退去を求める命令だった。姉は憤った。「高校の授業で、アメリカ国民は裁判なしに刑務所には送られないと教わった。私はアメリカ国民。収容されるいわれはない」。

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両親は日系1世だが、アメリカで生まれ育った自分たちはアメリカ国籍だった。家に帰ると、両親はこう論した。「私たちがいなくなったら、残ったお前たちの面倒は誰が見るんだ」。一家はアーカーンソー州の『ローワー強制収容所』に送られた。ジューンさんは、「両親は『戦争だから仕方がない』と言って、収容生活にも怒りを見せなかった。私たちにも好きなように遊ばせてくれた」と振り返る。既に独立し、別の収容所にいた兄は、自らアメリカ国民であることを証明する道を選んだ。主に日系2世で構成されたアメリカ陸軍『442連隊戦闘団』に志願し、苛烈な欧州戦線に派遣された。欧州に向かう船上で、兄が両親に宛てた手紙には、こう記されていた。「私たちは“ジャップ”と呼ばれ、嫌われている。アメリカ軍に志願してアメリカの為に戦い、早く戦争を終わらせたい」。強制収容は終戦に伴って終わったが、1世や、収容時に親の世代だった2世の多くは、解放後も収容生活について口を閉ざした。「『我慢』『仕方ない』と自らに言い聞かせた親世代の対処法は、子供たちの収容所でのストレスを和らげる効果があった。一方で、アメリカ国民としての権利意識を曖昧にさせてしまった面は否めない」。強制収容の歴史に詳しい臨床心理士のリサ・ナカムラ博士(49)は、そう指摘する。1970年代に日系人の権利回復を求める運動が活発化し、1988年にロナルド・レーガン大統領が強制収容に対する補償と謝罪を表明した。収容所に入った日系人約12万人のうち、3分の2はアメリカ国籍を持つ2世以上の世代だったが、運動の中心となったのは戦後生まれの3世たちだった。ジョー・バイデン大統領は先月、強制収容の根拠となった大統領令から80年に合わせた声明で、「人種差別、恐怖、外国人排斥が招く悲惨な結末を思い起こさせる」と述べ、「Nidoto Nai yoni(※二度とないように)」と訴えた。アメリカで広がる人種の対立や、外国人を標的にした犯罪の増加を念頭に置いた発言だ。6歳でマンザナールに送られたヒサ・マツダイラさん(86)は、「アメリカで人種差別は未だなくならない。残された私達が話すことで、少しでも人々が変わるきっかけになってほしい」と語った。


キャプチャ  2022年3月29日付掲載
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テーマ : 歴史
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