【東京情報】 暗殺のロマン

【東京発】北朝鮮最高指導者・金正恩の兄である金正男が、マレーシアで暗殺された。警察は「VXガスが使われた」と断定。朝鮮人民軍や国家保衛省の要員が関与した疑いがあるが、真相は未だ闇の中だ。以前、『昭和帝国の暗殺政治』(刀水書房)という本を読んだことがある。『ニューヨークタイムズ』日本特派員のヒュー・バイアスが書いたもので、日本が敗戦必至の戦争に突き進んだ背景を分析している。明治維新以前の日本では、政治は暗殺により動いていた。日本には、「上から命じられたことでも理不尽なら刃向かう」という侍の文化がある。バイアスはそれを“負の側面”と捉え、「皇国思想の暴走に繋がった」と指摘した。アルバイトの小暮君が、資料を配りながら言う。「政治家の暗殺で有名なのは、1921年に首相の原敬が東京駅で刺された事件ですね。鉄道省職員の中岡長一に短刀でいきなりやられた。現役の首相が殺されたのに、中岡は大赦により、10年そこそこの服役で釈放されています。裏で政治的な取引があったのでしょう」。1932年には『五・一五事件』が発生する。武装した海軍の青年将校らが、首相の犬養毅を殺害した。当時、世界恐慌の影響で日本は企業の倒産が相次ぎ、社会不安が広がっていた。犬養の暗殺は、民衆の不満が暴発した結果だった。フランス人記者が頷く。「“血盟団事件”というのもあったな。日蓮宗の僧侶・井上日召の考えに同調した青年たちによる政治結社“血盟団”が、国を大きく変える為に暗殺を繰り返した。1932年2月には、前大蔵大臣の井上準之助が選挙の応援演説をしている時に銃撃される。翌3月、三井財閥の総帥の團逐磨も、日本橋の三井銀行本店の入口で撃ち殺された。三井財閥がドル買い投機で利益を上げていたのが、反感を買ったようだ」。

戦後だと、1960年10月に社会党の浅沼稲次郎が暗殺されている。日比谷公会堂で浅沼が演説していると、17歳の右翼少年・山口二矢が壇上に駆け上がり、胸をナイフで刺した。1960年は日米安保条約が改定された年でもあり、政治的にも混乱していた。小暮君が別の資料を持ってきた。「新しいところでは、2002年10月に民主党の石井紘基が暗殺されています。世田谷区の自宅駐車場で、右翼の伊藤白水に柳刃包丁で胸を刺されました。『国会議員や官僚の腐敗を追及していた石井が消された』という説もありますね」。時代を遡れば、1867年の『近江屋事件』がある。坂本龍馬・中岡慎太郎・山田藤吉の3人が、京都河原町近江屋井口新助邸で暗殺された。犯行に及んだのは、江戸幕府京都見廻組という説が有力だ。1860年の『桜田門外の変』では、大老の井伊直弼が水戸浪士らに殺された。司馬遼太郎は、徳川家の威信を回復させる為の大獄として、これを例外的に評価している。会合に遅刻してきたアメリカ人記者が言う。「アメリカではエイブラハム・リンカーン、ジェームズ・ガーフィールド、ウィリアム・マッキンリー、そしてジョン・F・ケネディの4人の大統領が暗殺されているわ。1963年にケネディがダラスでパレード中に銃撃されたけど、その前年にはキューバ危機があったでしょう。ソビエト連邦のニキータ・フルシチョフは、キューバと極秘に軍事協定を結び、核ミサイル・兵員・戦車等をキューバに送り込んでいた。偵察飛行でそれを発見したアメリカは、キューバを海上封鎖し、一触即発の危険な状態に陥った訳ね。最終的にソ連側が折れて危機は去ったけど、『ケネディ暗殺はフルシチョフの陰謀だ』という噂が飛び交った。勿論デマなんだけど、当時はそれを真実と思い込む空気が世の中に広がっていたということね」。ケネディの弟で、司法長官を務めたロバートも、兄の死から5年後の1968年、アラブ系のテロリストに銃撃され、死亡している。フランス人記者が唸る。「韓国では、朴槿恵前大統領の父親・朴正熙が暗殺されている。1979年10月、大韓民国中央情報部(KCIA)の部長・金載主が、ソウルの秘密宴会場で射殺した。金載主は朴正熙の古い友人だったが、処遇等で根みを持ったようだ」。

フィリピンでは、ニノイ・アキノがマニラ国際空港で暗殺されている。フェルディナンド・マルコス大統領の独裁体制を批判していたアキノは、国外追放によりアメリカにいたが、1983年に帰国を決意。経由地の台北市のホテルでTBSのインタビューに応じ、「明日は殺されるかも知れない。事件は空港で一瞬のうちに終わる」と話していた。最後の言葉は、飛行機を降りる直前の「必ず何かが起こるから、ビデオカメラを回し続けておいてくれ」だった。飛行機が到着し、アキノがタラップを降りた直後に銃声が響く。その時の映像は世界中に流れた。犯人はゲリラ兵士とされたが、信じる者はいなかった。東京大学文学部の小暮君が、豆知識を披露する。「徳川家康の死因は胃癌だったそうです。75歳まで生きたので、当時としては大往生です。山田風太郎はそれについて、『徳川家康ほど気の毒な人はいない』と書きました。『家康のような大物が普通の死に方をするのは物足りない』と」。陰謀論めいた暗殺説が出てくる理由も同じだろう。ソ連のヨシフ・スターリンは脳卒中で死んだが、未だに暗殺説を唱える人がいる。秘密警察の長官だったラヴレンチー・ベリヤが犯人だの、娘のスヴェトラーナが犯人だの…。スターリンの近くにいた人物は皆、疑われた。アメリカ人記者が同意する。「アドルフ・ヒトラーにも暗殺説があるわ。ヒトラーは恋人のエヴァ・ブラウンと共に自殺したけど、それを信じたくない連中がいる訳ね」。林彪は毛沢東暗殺に失敗し、飛行機で逃亡中に墜落死したが、これを毛沢東の謀略と見る説もある。フランス人記者が吐き捨てた。「何だかんだ言って、誰もが暗殺に夢とロマンを感じているんだ。こうした意味において、今一番期待されているのはドナルド・トランプ大統領ではないか」。最後の発言は不穏当なので、削除した上で本社に打電した。 (『S・P・I』特派員 ヤン・デンマン)


キャプチャ  2017年3月23日号掲載
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