【Deep Insight】(03) 『GE』になれなかった『東芝』

「“儲ける”という言葉【中略】、エディソンにとっては威厳ある、壮麗なものなのだ」(歴史上の著名人の証言集『インタビューズ』)――。『ゼネラルエレクトリック(GE)』の創業者としても知られる発明王のトーマス・エジソンは、“make money”という言葉をよく使ったらしい。そのエジソンから白熱電球の製造法を学び、日本で量産を始めたのは、『東芝』創業者の1人である藤岡市助だった。GEも東芝も、白熱電球をもう作っていない。家電事業も売却した。だが、前者は世界で11番目に株式時価総額が大きい会社、後者は不適切会計や原子力事業の損失で会社解体の危機に直面する。東芝は何故、躓いたのか。メイクマネーのやり方、つまりはビジネスモデルと言われる部分で明暗をわけるものがあった筈だ。“経営重心”という著書がある電機アナリストの若林秀樹氏は、「製品のライフサイクルが5~10年、生産規模が数千~数千万個で収まる事業が、失敗の少ない日本企業のストライクゾーンだ」と言う。東芝危機の源である原発は、サイクルが20~40年だ。だいぶ長い。だが、そこには韓国・台湾・中国企業との競争は無い。「十分いける」と東芝がアメリカの原子力大手『ウエスチングハウス(WH)』を買収したのが、日本の電機産業の衰退が顕著になった2000年代半ばだった。当時、持て囃されたのが、“スマイルカーブ”という製造業の付加価値分布論だ。付加価値は上流の基幹部品や開発、下流の販売・サービス等で高く、真ん中の組み立てで低い。グラフにすると、微笑んだ人の口元に似ていた。左端はアメリカの『インテル』、右端は『Apple』等が占め、日本の電機は真ん中の組み立てに多かった。そんな厳しい環境から脱出しようと、東芝等が進めたのが“選択と集中”であり、向かった先が発電機器等の重電事業だった。同じ組み立て分野だが、アジア勢との競争が少なく、安定収益が狙える。「ライフサイクルが長くても、擦り合わせが上手い日本企業なら、次々巨額投資の判断を迫られるデジタル産業より得意な筈」と考えた。だが、そこにも罠はあった。GEはどうだったか。日本企業の全盛期、1980~1990年代には既に、組み立て等製造業から金融・放送へと領域を広げ、事業の組み替えに目途をつけていた。だが、危機もあった。2008年秋。GEはリーマンショックで70年ぶりの減配に追い込まれ、AAAの格付けも失い、政府保証の付いた社債しか発行不能になった。売上高の3割を稼ぎ出した金融事業が、一瞬で会社を暗転させたのだ。

その頃、東芝も6000億円を超すWH買収で財務危機に直面し、経営破綻寸前だった。監督官庁を交え、中東の政府系ファンドへの第三者割当増資まで検討された。両社は幸い、九死に一生を得た。明暗を分けたのはそれからだ。東芝は2011年の福島の原発事故で受注が止まった。何とかしようと打ち出したのが、建設会社の買収や関連プロジェクトの受注だ。原発を受注したいが為に、精査もせず、未経験の領域に手を広げ、深みに嵌っていく。それが今回の東芝危機の構図である。同じ頃、GEが打ち出したのは“逆スマイルカーブ”、微笑み曲線を逆転させる経営だった。金融事業は大半を売却。製造業に軸足を置き直すものの、インターネットと重電機器を繋いでサービスで稼ぐ経営を目指した。例えば、航空機エンジンでは、世界中の自社製品にセンサーを付け音や振動等、運航時のデータを集め始めた。その量は、東京-ニューヨーク間の1回のフライトで約2テラ(※テラは1兆)バイト、新聞に換算して2000年分に上る。それを解析し、航空会社に遅延やトラブルの無い運航方法を教える。昨年の製造部門の売上高営業利益率は15%と、世界でも突出した水準になったが、それを支えるのが、製品を売った後から始まるサービス事業だ。“情報の非対称性”という言葉がある。相手の知り得ない情報が得られる立場に身を置き、優位に立つ状態のことだ。GEはビッグデータ解析でそれを実現し、顧客に対し、情報の質・量で圧倒的優位に立つビジネスモデルを築いた。情報量で優位に立てば、リスクも未然に防げる。AI(人工知能)で製品や部品の癖・寿命まで解析できれば、顧客と品質保証や保守の契約を結ぶ際に、自社の負担やリスクを最小化できる。コンサルティング会社『経営共創基盤』の冨山和彦氏は、「競争力のある企業とは、損をしない契約書が書ける会社。代表例がGEだ」と話す。一方、東芝がM&A(合併・買収)や受注等で交わした“契約書”は、結果を焦るあまり、情報量が相手に偏った状態で見切り発車されたものが多かった。だから、隠れたリスクを見抜けなかった。エジソンが心がけた“威厳と壮麗さのある稼ぎ方”とは、情報の非対称性を存分に享受できるビジネスのことだった筈だ。情報からみた人類史は、活版印刷→電信→電話→インターネットと、技術革新の度に人と人の間の非対称性が強まったり、解消されたりした歴史だ。「インターネットは遂に、人と人の間の情報格差を解消した」と言われるが、AIの時代は人間と機械の間に巨大な非対称性を作り出す。ある時、情報の価値や重要性に気付いたGEは、それを使って稼ぐ仕組みを構築し、日本はそこで出遅れている。それを浮き彫りにしたのが東芝危機ではなかったか。 (本社コメンテーター 中山淳史)


⦿日本経済新聞 2017年3月15日付掲載⦿
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