【仁義なきメディア戦争】(19) これがテレビの最終形! 全番組の“インターネット開放”

20170324 15
先月中旬、全国の民放ラジオ101局は、歌手・宇多田ヒカルの特別番組放送に沸いた。仕掛けたのは、『日本民間放送連盟(民放連)』ラジオ委員会だ。「新しいステージに立ったラジオと、8年半ぶりにアルバムを発売した宇多田さんの思いが一致した」と、『TBSラジオ』社長で同委員会委員長の入江清彦氏は顔を綻ばせる。ラジオの“新しいステージ”とは、インターネット上でラジオ番組が聴けるサービス『radiko.jp』に先月11日、新機能が加わったことを指す。過去1週間の番組を好きな時に聞き直せる“タイムフリー聴取”と、SNSを通じてラジオ番組をシェアできる“シェアラジオ”サービスが開始された。好きなアーティストの名前で検索すると番組一覧が現れ、楽曲等を聴ける。楽曲毎にマイリストに登録すれば、オリジナルの再生リストの作成も可能だ。シェアラジオ機能を使えば、『LINE』・『Facebook』・『ツイッター』で“宇多田ヒカルの番組で流れた藤圭子の楽曲”をシェアできる。音楽だけではない。“アメリカ大統領選挙”といった気になるワードを入れると、過去1週間にアメリカ大統領選挙について触れた番組が出てくる。「ラジオは新しい音楽の発見の他、情報収集にも役立つ。ラジオ世代は勿論、既存のラジオを知らない若い人にこそ、新しいラジオの楽しみ方を見つけてほしい」と、radiko.jpの業務推進室長である青木貴博氏は期待を膨らませる。現在、radikoの月間利用者は約1200万人。その内の7割がスマートフォン向けアプリで聴いている。インターネット同時配信をスタートさせた頃は、主にPCでの受信を想定したものだったが、スマホの急激な普及が追い風となり、「radikoを入れたスマホが、毎日携帯してもらえるラジオ受信機になった」(入江氏)。

視聴調査会社『ニールセン』の調べでは、スマホで月2回以上利用するアプリの数は平均22個(今年7月時点)。「radikoもその中に入り込んでいかなければならない」と、青木氏は意気込む。タイムフリーやシェアラジオの開始で、更なる利用者の拡大を図る。今はradikoで放送と同じCMが流れても、広告主から広告料を追加で貰うことはない。ラジオの広告価値低下を食い止め、中期的にCM単価アップを狙っている。「スマホには、通常のラジオ端末には無い画面がある。音楽に合わせて映像や文字情報をつける等で、新しい広告手法・媒体価値を付加できる」と、関西大学社会学部メディア専攻の三浦文夫教授は見ている。一方、ラジオと同じ放送であるテレビも、インターネット時代への対応を余儀なくされている。例えば、民放テレビ各局が、自社の放送番組をradikoのような仕組みでインターネット同時配信する日は来るのだろうか。日本の放送免許は、ラジオもテレビも都道府県単位で交付される。ローカル局と東京のキー局が番組供給ネットワークで結ばれ、キー局は番組を全国で放送してもらう為に、各道府県の系列ローカル局に電波料を支払っている。ローカル局は、キー局の番組放送の対価として受け取る電波料収入によって、経営が成り立っている(左上図)。ローカル局にとって、キー局から供給される番組を多く編成して電波料を受け取るビジネスが、コストパフォーマンスの高い最良のビジネスだ。ここで若し、キー局が自社の放送番組のインターネット同時配信を始め、全国どの地域でもインターネット上で視聴できるようになったらどうなるか。東京発の情報を欲しがる視聴者が集中し、キー局にはビジネスチャンスが広がるかもしれない。一方でローカル局は、視聴者がインターネットに流れてテレビが見られなくなり、広告収入が減る懸念がある。系列局との関係を考えると、キー局もインターネット同時配信には慎重だ。しかし、ローカル局が放送する地域で、キー局のインターネット配信を見られなくする技術を使えば問題ない。ラジオがインターネット同時配信に踏み切ることができた理由の1つに、ユーザーの位置情報を拾い、彼らが今いる放送エリア内の番組しか聴取できないように制御する技術を確立できたことが挙げられる。「この技術を用いれば、テレビのキー局とローカル局の現状のビジネスモデルを維持することができる」(radiko配信技術室長の香取啓志氏)。これは放送局だけでなく、CMを提供する広告主にもメリットがある。地域限定商品やイベントの告知等は、寧ろエリア外で流れないほうがありがたいからだ。技術的には、radiko同様にテレビでも地域制御は可能だ。『TOKYO MX』は、PCやスマホで番組を見られる『エムキャス』で全国配信しているが、MXの番組を放送している局がある地域では、インターネット上で見られないように制限をかけている。

20170324 13
ただ、テレビ放送の場合、動画の配信にかかるサーバー代等のコストが、音だけのラジオの比ではない。しかも、権利処理の問題もある。ラジオに比べ、出演者も関係者も多いテレビ番組のインターネット配信の許諾には、時間も人手もかかってしまう。コストが増えた分を、インターネットの広告費でカバーできるとは限らない。しかも、テレビ広告は2000年前後のピーク時から1割程度しか減っておらず、直近も1兆8000億円とほぼ横這いをキープしている(右図)。莫大なコストをかけてまで、既存のビジネスモデルを変えるインセンティブはないだろう。ラジオの場合、広告収入は1991年の2406億円をピークに、直近は半分程度にまで落ち込んでいる。10~20代では、「生まれた頃から家にラジオ受信機が無かった」という人も珍しくない。「若い人の間でラジオの存在がどんどん遠くなる」(入江氏)と各局が危機感を募らせていたことも、インターネット同時配信への着手を後押しした。ラジオは全国に向けて放送番組のインターネット配信ができるようになり、ビジネスチャンスが増えた。自社制作番組の比率が5~7割と高く、魅力的な番組を作れば、全国の人に聴いてもらえる。radikoには、放送エリア外の番組が聴き放題になる有料サービスも設けられている。一方、テレビのローカル局の自社制作比率は高くても2割程度。1割が他局から購入する番組で、7割超が系列のキー局から供給される番組となる。番組制作費は100万~5000万円とピンキリだが、「自社制作番組を増やすと、少数精鋭で回している現場が悲鳴を上げるところが殆ど」(ローカル局幹部)。しかし、番組のインターネット同時配信を見据えると、ローカル局毎に差別化しなければ、視聴者を獲得できなくなる恐れがある。他局に負けない魅力的な番組作りが、これまで以上に求められている。

既に成功例はある。自社制作番組の比率を高めて地元視聴者の支持を集めているのが、『九州朝日放送(KBC)』。今年上半期の全日帯(6~24時)・プライム帯(19~23時)において、北部九州地区の平均世帯視聴率1位を獲得している。特に、全日帯の世帯視聴率は幅広い世代の視聴を示す数字で、テレビ局の活力を示す指標である。一般的にローカル局は、キー局から供給される番組の視聴率に左右され易い為、民放視聴率トップの『日本テレビ』系列が優勢になり易い。KBCは視聴率2位の『テレビ朝日』系列にも拘わらず、同地区トップを誇る。業界では“KBCの奇跡”と評されるほど珍しいケースだ。好調を支えるのが、自社制作の情報番組『アサデス。』(毎週月~金曜日朝6~8時)である。2001年にスタートした同番組は、5年ほど前に報道出身のプロデューサーになってから、番組作りが変わり始めた。多くの放送局には、一般番組の制作部門と、報道番組の取材や制作を行う部門とがあり、その間には明らかなヒエラルキーが存在する。KBCでは、それを取っ払った。番組は地元情報が満載だ。『福岡ソフトバンクホークス』や福岡の殺人事件・福岡のグルメ等、地域の視聴者が興味を抱く身近な情報を充実させている。報道出身のプロデューサーらしい作り込みに定評がある。「報道番組と情報番組の間にある“生活情報”というジャンルを開拓した」と、2011年からプロデューサーを務める大迫順平氏は話す。系列局との連携も強めている。テレビ朝日が集めた芸能ネタの素材を活用しながら、芸能情報も福岡色に染める。福岡を訪れた韓国の人気グループに「好いとうよ」と博多弁でファンに呼びかけてもらい、「福岡の皆さん、元気にいってらっしゃい」で締める。これで、主要な視聴者層である40~50代女性の心を掴んだ。九州地域への台風接近・地震・噴火等、有事の際やホークス優勝の時等は、同番組以外の番組も「徹底的にやる」(大迫氏)。『アサデス。九州・山口』(毎週月~木曜日9時55分~10時45分)や『ドォーモ』(毎週月~木曜日24時15分~25時10分)は、何れも自社制作番組で生放送となっている。アサデスは台風直撃の日、スタートを約1時間繰り上げて朝4時55分に放送を始めたこともある。九州山口は、KBC・『熊本朝日放送』・『大分朝日放送』・『鹿児島放送』・『山口朝日放送』・『長崎文化放送』・『テレビ宮崎』というブロック圏7局ネットで放送しており、「4月に起きた熊本地震の時等、電話1本で現地の状況を知ることができた。ブロック圏での連携と、九州各地に根を張るディレクターが強み」(番組プロデューサーの下川博之氏)。地元情報に強いテレビ局のイメージが根付き、台風や地震等、“有事の際はKBC”になっているようだ。同時間帯の『ZIP!』(日本テレビ系)・『めざましテレビ』(フジテレビ系)・『あさチャン!』(TBSテレビ系)という強豪を抑え、今上期視聴率は同時間帯1位を獲得。特に、台風が襲来した9月5日は、朝6時45分~8時台に最高視聴率が20%近くまで上昇した。

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『山陽放送(RSK)』も、ローカル局ならではの独自性を打ち出している。2012年4月に、地域密着の報道系ドキュメンタリー番組『メッセージ』を立ち上げた。毎週水曜日20時56分~21時54分というゴールデンタイムに、ローカル局が自社制作のドキュメンタリーを放送するのは、“数字(=視聴率)”が取れない為、業界の常識では考え難いことだ。それでも、原憲一社長の肝煎りで番組は産声を上げた。既に放送は150回近くに達し、岡山・香川両県の情報を深掘りしている。視聴率は取り扱うテーマ次第。暴力団の抗争事件・買い物難民・ホームレスの問題等、タイムリーな社会ネタを取り上げると2桁近くを記録することもあるが、5%前後に留まるケースも少なくない。高視聴率番組とは決して言えないが、番組の趣旨に賛同する複数の会社が、タイムスポンサーに名を連ねる。ドキュメンタリー作りに拘るのは、RSKの報道マンに脈々と受け継がれる“DNA”でもある。自社の放送枠だけでなく、系列キー局・TBSテレビのニュース番組向けにも、数え切れないほどのコンテンツを制作してきた。同番組の山下晴海ディレクターにとって、忘れられないシーンがある。自ら手掛けた第1回放送のテーマは、『なぜ日本人は桜に惹かれるのか』だった。この番組の中で、岡山のある丘に立つ樹齢約1000年の一本桜を、約2分の長さで映し続けたワンカットが、今も強烈に印象に残っているという。「番組では、地域の姿を切り取ることも意識している」(山下氏)。各地域には四季折々の景色がある。そうした刻々と変化する様々な表情を、映像として記録し、ライブラリー化して後世に遺していく。それもまた、在京キー局には無いローカル局の価値となる。現行のキー局頼みのビジネスモデルでは、ローカル局の衰退を止めることは難しい。既存ビジネスの垣根を越えて新しい価値を模索する時、ラジオが1つのモデルケースとなりそうだ。

■ジャニーズ“インターネット解禁”の現実味
まさかの解禁にファンは歓喜した。先月19日、男性アイドルグループ『ジャニーズWEST』のPR担当による公式ツイッターが開設された。フォロワー数は22万人を超える人気ぶりだ(今月8日時点)。『ジャニーズ事務所』は、著作権と肖像権に厳しいことで知られる。楽曲のインターネット配信を始め、所属タレントのインターネット上への画像転載も基本的に認めていない。初となるツイッター開設は、「遂にインターネット解禁か?」と憶測を呼ぶには十分なインパクトだった。前出の三浦教授は、「ジャニーズは基本的に、インターネットで有料のものはNG」と語る。radikoでは、放送と同じ枠組みのインターネット同時配信なら聴けるが、タイムシフトやシェアは対象外。有料会員向けサービスも聴くことができない。2次利用の壁は、ドラマのインターネット配信に積極的なテレビ局にとって悩ましい。ある民放幹部は、「主役級は例外だが、端役をキャスティングする時は権利処理を考える」と“ジャニース外し”を否定しない。一方でフジテレビ社員は、「他局は報道や管理畑出身のトップだから可能だろうが、ドラマプロデューサーだった亀山千広社長がジャニーズ外しなどできる筈がない」と言い切る。前出の民放幹部は、「本当に怖いのは全面解禁」とも語る。楽曲から映像・舞台等、幅広く手掛けるジャニーズ事務所は、巨大なコンテンツホルダーでもある。若しインターネット配信を独自に開始すると、国内最大の有料配信サービスになる実力は十分過ぎるほどある。どんな形になるのか、“Xデー”に注目が集まりそうだ。 =おわり

               ◇

2年ぶりのメディア特集です。デジタル化は着実に進み、既存メディアにとって、デジタル対応を「やるか、やらないか?」ではなく、「どうやって収益化していくか?」の段階に入ったと感じます。スマホやウェブでは“ニュースは無料”が定着し、有料購読モデルは本当に難しい。小誌もデジタル版を始めましたが、紙の雑誌と食い合わないのか、小社の無料ニュースサイトとどう折り合いをつけるのか等、腐心する日々です。今回の取材先でも、「デジタル課金は難しい」との見方が大勢でした。ただ、「取材や記事作りにはコストがかかる」「質の高い記事にお金を払う読者はいる」という心強い意見もあり、勇気付けられました。 (本誌副編集長 山川清弘)


キャプチャ  2016年11月19日号掲載
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