【労基署ショックが日本を襲う】(15) 残業代“減”で残業時間“増”の最悪“合わせ技”リスク急浮上

“長時間労働の是正”を綿の御旗に、世の中の流れは残業時間短縮に向かっている。しかし、それを建前にしながら、本音では残業代の削減を狙う企業が現れるリスクも浮上している。

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今から数年前、製薬業界トップ4の1社である『第一三共』の地方支店に労働基準監督署(労基署)の監督が入り、その際にある指摘があった。その趣旨は、「部下を持たない課長は管理職の要件を満たさず、平社員と同じなので、時間外労働時間を管理して残業代を出すように」というものだったという。しかし、この話は、『日本マクドナルド』の店長が未払い残業代の支払いを求めて訴訟を起こして話題となり、2008年当時の流行語にもなった“名ばかり管理職”とは似て非なるものだった。何故なら、先ず第一三共の“名ばかり課長”は、年収1000万円超の高給取りだ。そして実は、労基署の指摘通りに彼らを平社員に格下げして残業代を払うようにすると、多くのケースで年収が実質的に減少してしまうという事情があったからだ。第一三共の内部では、労基署の指摘を受け、この支店の部下無し課長の給料について、残業代20時間分に相当する、年収ベースにして約100万円分を差し引いた上で、平社員扱いすることを一時検討した。若しそうなれば、彼らが年収を維持する為には、毎月20時間の残業をしなくてはいけなくなる。ところが、その職場の部下無し課長の多くは、毎月20時間も残業が必要な労働環境ではなかった。皮肉なことに、労基署の指摘通りにすると、“名ばかり課長”は年収が減少するか、実態より長時間働かなくてはいけないことになってしまう状況だったのだ。

労基署から指摘を受けた当時、第一三共は「部下無し課長も経営と一体となった会社側の人間である」という説明で押し通し、部下無し課長たちは年収ダウンの危機を回避できた模様だ。第一三共の事例は少し特殊だった為、事無きを得た。しかし、今後は多くの労働者が年収ダウンのリスクを抱えることになるかもしれない。これまで本特集で見てきたように、労基署は長時間労働問題の是正に監督の軸足を移しつつあり、『電通』の新入社員の過労死が社会問題となって、その流れは加速している。企業が今までよりも残業をさせない方向へと向かっていこうとしているのだ。それは長時間労働の是正という点で、日本社会にとって歓迎すべきことであるのは論を俟たない。但し、その流れは企業にとって、残業代削減のいい口実になる側面もある。例えば最近、NHKでは深夜取材をするのに事前の申請が必要になったという。局側としては「過重労働の発生を防ぐ働き方改革の為」という触れ込みのようだが、「本音は残業代の削減が狙いではないか?」と勘繰る見方も局内にはあるという。そうした話を踏まえると、働く人々の本音としては、残業時間が減る場合の残業代の行方も気になるポイントだろう。実際に左上図を見るとわかるように、本誌が実施した社会人1500人アンケート(※詳細は前々回参照)でも、「あなたは残業代を安定的な収入として見込んでいますか?」という問いに対して、回答者860人の内の23%に当たる202人が「はい」と答えている。また、その人たちに「1ヵ月に何時間分くらいの残業代を安定的な収入として見込んでいますか?」と聞くと、半数以上が「30時間以下」という答えだったが、中には「50時間超」と回答する人も10人いた。このように、一定程度の残業代を安定的な収入として見込んでいる人々にとっては、何らかの穴埋めを含めた制度に変更しない限り、残業時間の減少が年収ダウンに繋がりかねないのだ。更に、労働者はそれを上回るリスクにも身構えておくべきかもしれない。残業代が減少するだけでなく、そこに残業時間増加が加わるという最悪の“合わせ技”への懸念も見え隠れしているからだ。

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前々回でも指摘したように、長時間労働は、日本社会の常識と化している働き方や職場環境を抜本的に変えなければ是正できない根深い問題だ。しかし、その難問に対して企業が何の対策も打たず、安易に残業禁止令・厳格令だけを出すような事態が起こると危うい。従業員たちは形式上、それを守る為に、サービス残業をせざるを得なくなる可能性が考えられるからだ。抑々、今でも日本企業ではサービス残業が横行している。右図のように、2015年1月に『連合』が発表した『労働時間に関する調査』では、正規労働者1693人の内、「賃金不払い残業をせざるを得ないことがある」と答えた人が51.9%に上った。更に、正規労働者の一般社員主任クラス・係長クラスにおける“1ヵ月の平均的な賃金不払い残業時間”の調査では、主任クラスの8.3%が60時間以上のサービス残業をせざるを得ない状況にあることも、同じ連合の調査で浮き彫りとなっている。労働問題を扱うある弁護士は、「政府は労働者の手取り収入を引き上げる為に、企業に賃上げを要求しているが、それよりも企業に未払い残業代を払わせたほうが手っ取り早い」と訴える。このように、残業を巡る労働時間とお金の問題は、切っても切り離せない関係にある。企業側が“働き方改革”・“長時間労働の是正”という言葉を、自分たちの都合のいいように“乱用”してこないか――。労働者側は、心して監視の目を光らせておかなければいけないだろう。


キャプチャ  2016年12月17日号掲載
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