【Global Economy】(29) EUの新拠点化へ各国誘致合戦…企業のイギリス脱出、手薬煉

ヨーロッパの主要都市が、イギリスに拠点を置く企業の争奪戦を始めた。イギリスの『ヨーロッパ連合(EU)』離脱を睨み、多くの企業がイギリスから出ようとしている為だ。 (本紙べルリン支局 井口馨・欧州総局 五十棲忠史・パリ支局 三好益史)

20170327 15
「他の都市と競うまでもない。ヨーロッパ最大の経済国であるドイツの優位性は明らかだ」――。ドイツの金融都市・フランクフルト。銀行や自治体が出資する金融機関支援団体『フランクフルトマインファイナンス』のフーベルトュス・フェートュ代表(57)は、余裕の表情を見せた。毎週月曜日、同団体は市内の様々な組織と電話会議を行う。イギリスから金融機関を誘致する方策を話し合う為だ。世界中から集まる銀行員を受け入れるのに必要な課題を洗い出す。ある日の電話会議では、「社員の子供の教育環境もとても重要だ」との意見が出た。担当組織は直ぐに学校関係者に働きかけた。現在、フランクフルト市内で英語やフランス語で授業を行うインターナショナルスクール計13校の定員を、1.5倍に増やす方向で調整している。ドイツ連邦金融サービス監督庁も1月末、アメリカの金融大手『モルガンスタンレー』や『ゴールドマンサックス』等20以上の金融機関から幹部約50人を招いて、説明会を開いた。金融機関の担当者にアピールしたのは、ドイツ語圏だが英語でビジネスができ、既に国外から約150の金融機関が進出している点だ。ユーロ圏(19ヵ国)の金融政策を担う『ヨーロッパ中央銀行(ECB)』もある。周辺地域を含めると、約2万人の留学生を含む約16万人の学生がおり、「優秀な人材も供給できる」(フェートュ代表)。一方で家賃は安い。不動産サービス会社『コリアーズ』によると、フランクフルトのオフィスの平均賃貸価格は1㎡当たり18.7ユーロ(約2200円)。ロンドン(61.3ユーロ)や、企業誘致のライバルであるパリ(52.5ユーロ)よりも、圧倒的に事務所を借り易い。イギリスに進出している企業は、国際的な有力企業が多い。金融街『シティー』を抱えるロンドンには、EUのシングルパスポートルールを活用し、約80ヵ国から約1400の金融関連企業が集まり、約16万人が働いているとされる。こうした企業が来てくれれば、雇用や税収の増加を始め、地元経済の活性化に直結する。

コリアーズで調査研究を担当するローラ・ミュラー氏は、「ロンドンの金融機能は巨大だ。その一部が移っただけでも、フランクフルトにとっては大きな変化になる」と指摘する。今年の年明けまで、イギリスは離脱後のEUとの関係に関する考え方を明確にしてこなかった。この為、イギリスに拠点を置く企業は、イギリス国外への移転について様々なケースを検討していた。1月17日にテリーザ・メイ首相が、「“ハードブレグジット”を選択する」と表明。これを受け、企業は本格的な移転を考え始め、ヨーロッパの主要都市も誘致に本腰を入れた。EU諸国の中で最もイギリスに近い存在のアイルランドも懸命だ。「イギリスからの移転を考えてアイルランド政府に接触してきた企業は、金融業だけで70社。うち1社は既に、オフィスの引っ越し手続きに入った」。首都のダブリンで、産業開発庁のキーラン・ドノヒュー副長官が現状を説明してくれた。アイルランドは公用語が英語で、法体系もイギリスに似ている。法人税率が12.5%と、イギリスの20%(※4月から19%)より遥かに低いこともアピールする。アイルランドは、EUの金融庁にあたる『ヨーロッパ銀行監督機構(EBA)』のロンドンからの誘致にも乗り出した。「EBAを獲得できれば、金融業界におけるダブリンの地位は飛躍的に高まる」という算段だ。ドノヒュー副長官は、「監督当局がダブリンに来れば有益だ。魅力的な提案を準備している」と力を込める。地元の不動産大手『サビルス』のアンドリュー・カニンガム氏も、「(イギリスとの繋がりが強い)アイルランドにとって、ブレグジットはショックな決定だったが、不動産業界にはプラスだ」と嬉しそうだ。そんなダブリンの泣き所は、イギリス以外のEU諸国と国境を接していないという地理的な条件の悪さだ。都市の規模も小さい。ある日系金融機関のヨーロッパ部門トップは、「イギリスから業務を円滑にし易いのはダブリンだが、従業員には人気が無い」と指摘した。「イギリスのEU離脱は、パリにとって大チャンス」。パリを中心としたイルド・フランス地域圏議会のオットマン・ナスル副議長も、鼻息が荒い。同地域圏は昨年11月、フランス政府やパリ市等と共同で、外国企業を本格的に誘致する専門の支援窓口『パリ地域を選んで』を開設した。金融機関が最大のターゲットだ。パリには既に、イギリスの金融大手『HSBC』が約1000人をロンドンから異動させる計画を表明した。ナスル氏によると、中国系の銀行が最近、ヨーロッパ本部を新設する都市をロンドンからパリに変更したという。ただ、フランスへの移転には慎重な企業も少なくない。フランスは法人税率が約33%と高く、労働法制が厳しい為に従業員を解雇し難い等、企業活動の制約が多いからだ。だがナスル氏は、「パリは文化や余暇を楽しめて、生活環境も充実している。都市全体の魅力をPRする」と誘致に期待する。

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■調査で“4割移転”、イギリスに危機感
メイ首相がEUからきっぱりと離脱するハードブレグジットの考えを表明したことで、イギリス経済には将来への危機感が広がっている。イギリスとEUが新たな自由貿易協定等を結ぶことができなければ、一定の関税や通関手続き等が復活し、イギリスの企業が対外的なビジネスで不利になるからだ。スイスの金融大手『UBS』は今月17日、ドイツやフランス等ユーロ圏の企業600社を対象に行った調査を発表した。それによると、イギリスの拠点について、10%が「完全に撤退する」、31%が「大部分を移転させる」と答えた。調査対象の内、4割もの企業が移転しようとしている訳だ。具体的な移転先の選定に入った金融機関も多い。拠点をパリに移す計画を打ち出したHSBCの他にも、『ブルームバーグ』によると、アメリカの『JPモルガンチェース』はダブリンとフランクフルトで新たなオフィスを探している。日本勢では、『三菱東京UFJ銀行』がアムステルダムの拠点を強化している。ベルギーの調査研究機関『ブリューゲル』は、「ロンドンの約3万人の雇用がEU各国に流出する」と予想する。イギリスの企業関係者の間では、メイ首相のハードブレグジット路線への不満も高まっている。シティーのトップであるアンドリュー・パームリー市長は、「イギリスもEUも、これまで通りに取引できることを望んでいる。EUとの間で“特注”の解決策を探してほしい」と訴える。


⦿読売新聞 2017年3月24日付掲載⦿




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