【オトナの形を語ろう】(18) 友情を抱く人間の心理・感情とはどういうものなのか

友情ということに関して、この何回か私が語った話は、少し極端に聞こえたかもしれないが、たとえ5~6歳の子供であっても、自分を一度でも助けてくれたり、勇気付けてくれた同級生なり、友だちが何かの事情で窮地に追い込まれていたら、ガキのような年齢で、ひ弱な子供であっても、その友の為に果敢な行動をすることは十分あり得るし、「男児というものはそういうものだ」と私は思っている。だから、子供が誰かに酷い怪我をさせた場合も、簡単に「何てことをするんだ」と叱るだけが大人の取る行動ではない。実際、私がガキの頃にもそういうことはよくあった。そういう行動をする子供に限って、相手を傷付けた理由を口にしようとしない。「話して簡単にわかるものか」くらいは平然と思っているものだ。前にも話したが、高杉晋作・伊藤博文・山懸有朋等を教え育てた長州(山口県)の男児・吉田松陰は、友と旅へ行く約束をし、その頃は藩士が他の場所へ旅する時は、藩の許可が必要で、その許可証の申請許可が中々下りなかったので、「友との約束が大切」として、松陰は脱藩して、約束の日、友の待つ場所へ向かう。この行動を、大半の歴史家は“あまりに直情的な行動”として扱うが、私はそうは思わない。

松陰はその時、22歳と若かったが、彼には既に、友に対する男児としての行動の仕方がわかっていたのである。何故、歴史家の大半がそう考えるかと言うと、私たちもそうだが、過去の史実を現存の自分たちの考え方で見てしまうからである。歴史から何かを学ぶ時、現代人が犯し易い誤ちの1つだ。どんなことでもそうだが、最初に物事を始める人間の取る行動は、周囲の人たちから理解し辛い側面を常に持っている。“コロンブスの卵”という表現をするが、あれは事実を語っているのだ。では、友情を抱く人間の心理・感情はどういうものなのだろうか。ある人に言わせれば、それはある種の恋愛感情に似ているという。男と男の恋愛? 確かに、それも感情の一部にあるかもしれないが、私はそれだけで“友情”は成立しないと思っている。恋愛なら、冷めてしまえばそれで終わってしまうのか? 友情は、そういう薄っぺらなものではない。代価を求めないものであるし、それを他人に語るものではないし、況してや行動する折に一々頭の中で考えるものでもない。極自然に、「友情というものは人に行動させるものだ」と私は信じている。友情に似ているものに、ヤクザ社会の“兄弟の契り”というものがあるが、あれも最後まできちんとその契りを全うすれば、称賛されるものであると私は思っている。それは生きている世界が違うだけのことで、私たちの生き方とかけ離れているということはあり得ないのである。

この世に男児として生まれてきて、友情というものに触れたり、手に入れることができた人は、やはり幸せだと思う。友情ほど、人と自分というものを考える機会を与えてくれるものはない。先日、私は1人の友を亡くした。30年の付き合いの友で、私はその人と出逢ったことで多くのことを学んだ。出逢ったのは酒場、それも銀座の酒場であった。その人は、毎晩の如く酒を飲んでいた。仕事はグラフィックデザイナーで、一見すると、その辺りの気のいいオッサンにしか見えなくもなかったが、この人のことを周囲で悪く言う人が1人もいなかったのに、先ず驚いた。次に、一旦飲み始めると、相手が「帰ろう」と言い出さない限り、深夜の3時・5時になろうと付き合う人だった。学生時代はラグビー選手で、国体まで出て活躍した人であった。次に驚いたのが、この人が怒ったり、声を荒らげたのを見た人が誰もいないということだった。遊び場の主戦場は酒場である。その酒場で、一度も感情的にならないということはあり得ない。その上、人を引き寄せる奇妙な力があった。「一体、この人はどうなっているんだ?」という興味もあり、その人と飲み始めたのだが、1年、2年、3年と2人で酒場へ出かけ、時間を過ごしているうちに、私は1つのことに気付いた。それは、「この人は、自分を二の次に置いているのではないか?」ということだった。この続きは来週書く。 【続く】


伊集院静(いじゅういん・しずか) 本名は西山忠来。作家・作詞家・在日コリアン2世。1950年、山口県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒業後、『電通』に入社。CMディレクター等を経て、1981年に作家デビュー。『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』(集英社)・『大人の男の遊び方』(双葉社)・『無頼のススメ』(新潮新書)等著書多数。近著に『東京クルージング』(KADOKAWA)。


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