アサヒを襲うスーパードライ“成功の呪縛”――30年前は斬新な商品として登場、原材料変更の可能性も

20170328 07
バブル期に登場し、メガブランドに育った商品・サービスが、今年、相次いで発売30周年を迎えた。代表例が、『アサヒビール』の『スーパードライ』だ。圧倒的なトップシェアだが、競争力には陰りも見える。「今は価値をどう訴求するか。革新性は出た当時に作り出すもので、今、スーパードライに革新性を持たせたら、消費者は離反する」――。アサヒビールを傘下に持つ『アサヒグループホールディングス』の小路明善社長は強調する。これがスーパードライの現在の立ち位置だ。発売30年を経て、すっかり保守的なブランドになった。そんなスーパードライでできることは何か。ここ数年、アサヒが取り組むのが、派生商品の“連打”だ。今月14日、新商品『アサヒスーパードライエクストラハード』を発売した。強い炭酸と高めのアルコール度数が売り。東京・大阪等、全国各地のスーパーマーケットでは売り場の目立つ位置に並び、買い物客が次々と手に取っていった。アサヒはエクストラハードを含め、これまでに4種類の派生商品を投入した。そこには2つの理由がある。先ずは、スーパードライの販売の落ち込みに歯止めをかけるた為だ。派生商品を出せば、スーパー等で多くの棚を確保し易い。「派生商品を機に、従来のスーパードライにも手を伸ばしてもらおう」という思惑もある。スーパードライは1987年の発売後、僅か2年で販売数量が1億ケース(※1ケースは大瓶20本換算)を突破。ピーク時の2000年には1億9170万ケースを売り上げた。だが、その後は減少傾向。昨年の販売数量は1億ケースと、ピーク時からほぼ半減した。日本のビール市場の縮小と連動しているとはいえ、その落ち込みは劇的だ。“1億ケースの死守”。アサヒ社内で、これを必達目標と感じる社員は多い。業界2位の『キリンビール』の『一番搾り』(※同3500万ケース)とは桁違いの圧倒的トップという自負心が、1億ケースへの拘りを生んでいる。だが、誰もが知る銀色の缶のスーパードライだけでみると、既に1億ケースは下回っている。派生商品を合わせて、漸く大台に乗っている格好だ。

但し、派生商品込みであっても、年間の販売数量は前年割れが続いている状況。ここまで、派生商品は起死回生策にはなっていないのだ。今年は年間1億ケースの維持すら危ぶまれる。派生商品を投入するもう1つの理由は、「スーパードライ本体を刷新するリスクが大きい」と考えているからだ。「キリンの二の舞いにはなるな」。これもアサヒ社内で繰り返し語られる。スーパードライの発売後、危機感を持ったキリンは1996年、主力のビール『ラガー』の製法を、熱処理をしない“生ビール”にした。生ビールであるスーパードライの土俵に乗った結果、ファンが離反し、大打撃となった。アサヒは、これを反面教師にしてきたのだ。過去30年、スーパードライは酵母の管理や仕込み技術を進化させ、味が変化し難いようにしてきたが、大幅なリニューアルは一切していない。原料や缶の基本デザインは殆ど変えていないのだ。売り上げの落ち込みが顕著なだけに、大刷新に踏み切ってもよさそうなものだが、アサヒは頑ななまでに変化を避けてきたのだ。発売30周年の今年、パッケージは微修正した。但し、それは「缶の銀色で新しい色味を開発し、棚に置いた際に輝き易くした」という微細なものだ。スーパードライは、現在も年間5000億円規模の看板商品で、アサヒビールの売上高の5割強を稼ぐ。「スーパードライに大きな異変があれば会社が揺らぐ」と言っても過言ではない。いつしか、変えるのが「非常にリスキー」(小路社長)になってしまった。スーパードライの発売前、アサヒビールのシェアは10%を切り、大手4社中3位。“夕日ビール”と陰口を叩かれるほど、経営は悪化していた。「あのままだったら会社は潰れていた。これで失敗したら二度と立ち上がれない覚悟で、兎に角必死だった」と、アサヒGHDの前会長兼CEO(最高経営責任者)である荻田伍相談役は振り返る。スーパードライの開発では、消費者調査で、口に含んだ時の美味さや爽快感への需要を突き止め、従来とは異質の革新的な製品を作った。テレビCMもタレントは使わず、ジャーナリストの落合信彦さんを起用する等、斬新な手を打った。発売時、「会社が生まれ変わる意識を社員が共有していた」(アサヒGHDの泉谷直木会長兼CEO)と言う。だが現状、発売当初のチャレンジ精神が薄れている印象は強い。一例がテレビCM。アサヒは2010年、人気ミュージシャンの福山雅治さんをスーパードライの新キャラクターに起用した。ビール業界では、『サントリービール』がその数年前、主力ビール『ザプレミアムモルツ』で矢沢永吉さんを起用していた。「カリスマ性のあるミュージシャンの起用という点では、サントリーに追随した印象。スーパードライのCMは、タレントに頼らないメッセージ性が強みだった筈」。大手広告代理店の関係者は首を傾げる。ただ、「『好感度の高い福山さんを使っておけば、大きな失点は無い』との考えだろう」(同)。福山さんのCM起用は今年で8年目を迎えるが、小路社長は「僕は1回契約したタレントは変えない主義」と福山氏の続投を明言する。スーパードライの製品に留まらず、広告宣伝も斬新な手は打ち難い。そこで始めたのが、派生商品の展開だ。「派生商品は、一時的にでも市場を騒がせる力がある。騒がせて、顧客を取り戻すことを繰り返す」。アサヒビールマーケティング第1部の松葉晴彦次長は話す。同社の平野伸一社長は、「スーパードライ本体に手を伸ばす若者が増えた」と語る。但し、「成果は必ずしも上がっていない」。複数のアナリストがこう見る。

20170328 08
今月中旬、東京都内のあるスーパー。大々的に売られるエクストラハードの傍らで、同じ派生商品の『ドライプレミアム豊醸』が隅にひっそりと置かれていた。元々『ドライプレミアム』として、2013年にギフト限定で発売。ギフト用の人気の高まりを受け、翌2014年に小売店や飲食店でも販売を始めた。スーパードライのブランド力を生かし、サントリー『プレモル』やサッポロビール『ヱビス』が凌ぎを削る高価格帯ビールの市場も席巻しようと投入した。だが、「キレやすっきりした味わいというスーパードライの特徴と、コクや高級感がある高価格帯ビールのイメージは馴染み難い」(証券アナリスト)。人気は長くは続かなかった。一般販売に乗り出した2014年こそ約500万ケースを販売したが、翌年は一気に落ち込んだ。年間1700万ケースを売るプレモルや、1000万弱のヱビスと互角の勝負ができなかった。アサヒは昨年、“豊醸”という文字を付けてリニューアル。再起を図るが、販路はギフト用が中心で、小売店や飲食店での存在感は薄い。アサヒは毎年のように派生商品を発売。今年は更に2種類の限定商品の発売を計画する。だが、本誌が実施した消費者アンケートによると、6割近くがスーパードライの派生商品を知らなかった。派生商品の頻繁な登場を冷ややかに見る小売店もある。九州のあるスーパーの幹部は、「派生商品はお付き合い上、止むを得ず店頭には置く。でも、売れ行きは必ずしも良くはないので、目玉商品としてチラシには入れない」と明かす。圧倒的な強さを誇っていたスーパードライ本体も盤石ではない。ビールカテゴリーのシェアを見ると、アサヒは昨年に49%と圧倒的に高いが、ここ2年で1.5ポイント下がった。ビール大手4社の中で唯一、2年連続の低下。業務用が苦戦し、追い上げを受けている。「お客の好み、店のコンセプトを考えて替えよう」。都内の高級住宅地にある居酒屋『てっぺん自由が丘本店』の薄田典靖代表は決断した。替えたのは生ビールの銘柄。昨年7月、スーパードライからサッポロ『黒ラベル』にした。「“丸くなるな、星になれ。”という黒ラベルのキャッチコピーにも惹かれた」(薄田氏)。和食中心に提供する同店では、焼酎アドバイザーやソムリエの資格を持つ従業員がいる。料理に合う銘柄としての意見も踏まえて選んだ。

消費者アンケートでは、アサヒがコアなファンと位置付けるシニア層を中心に、スーパードライ離れの兆しがあることも浮き彫りになった。“変えない”ことを重視するあまり、アサヒが中高年層の好みの変化に置き去りにされつつあるのではないだろうか。泉谷会長も現状について、「成功の復讐、或いはイノベーションのジレンマがあることは否めない」と認める。企業等が過去の大成功に縛られ、新たな挑戦をし難くなる傾向のことだ。アサヒビールの社員約3100人の内、スーパードライ発売前に入社したのは現在5%以下。大半の社員は、大ヒットのバネになった“夕日ビール”時代の屈辱を知らない。アサヒが業界トップに君臨してからの入社なのだ。その為、組織全体に“守り”の姿勢が広がりつつある可能性がある。キリンは、一番搾りで全都道府県別の味を出した。「2位メーカーならではの吹っ切れ方」(アナリスト)があり、アサヒの姿勢とは対照的だろう。「今のままでいいとは思わない。商品は何もしなければ売れなくなるもの。活力ある企業にしていくのが課題」。荻田相談役の言葉には、現状への危機感が強く滲んでいる。「ちょっと言うのは申し訳ないけれど、今は『どうしてこんな商品を出したんだろう?』と思うこともありますね」。アサヒビールの薄葉久名誉顧問(元副会長)は、こう苦笑する。スーパードライの開発に最初期から携わり、社内では“ドライを生んだ男”の1人として知られる大物OBだ。現役時代は商品開発や工場の第一線で活躍してきた薄葉氏にとって、今も後輩たちの新商品を店頭等で真っ先にチェックするのが大きな楽しみ。だが、近年は「次から次に新しい商品を出すけど、頭で考えたものが多い印象。理屈が先行しているのでは?」と感じる。「全く新しい価値を持ったビールを作る」。キリンラガーが圧倒的なシェアを持っていた当時、薄葉氏らが世に問うたのは、こうした発想や思いを体したスーパードライだった。「画期的な商品を生み出す力が衰えている」と感じるOBの声は無視できないだろう。ここにきて、アサヒはタブー視されていたスーパードライの原材料を見直すことも模索し始めた。アサヒビールの平野社長は、「スーパードライの切れ味や辛口を進化させる為には、発売時と同じ原料を使い続けることが果たして良いのか? 希少性のある新たなホップ等も出ている」と説明。「『スーパードライ本体の進化は何か?』と考えると、やはり原料をもう一度見直さないといけない。今までは聖域が設けられて変えられなかったが、これからは聖域無き改革を進める」と述べた。派生商品で試していく方針だが、本体の改良まで実現すれば、初の大胆な戦略転換となる。スーパードライについて、アサヒ首脳陣からは繰り返し、“キャッシュカウ(お金を産む牛)”という説明がなされる。海外の企業買収等の為に資金を作る役割を期待されている訳だが、だからといって守りの姿勢ばかりではキャッシュカウが弱くなる恐れがある。嘗て海外買収を続けていたキリンも、国内の一番搾りをキャッシュカウと呼んでいたが、攻めを忘れて販売不振に陥った。組織の馬力や突破力に定評があるアサヒにとって、大企業病は最も嫌ってきたものの筈だ。30年前の反骨精神を取り戻せば、スーパードライの再飛躍は不可能ではない。 (取材・文/本誌 須永太一朗・河野祥平)


キャプチャ  2017年3月27日号掲載




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