【Deep Insight】(05) トランプ氏、移ろう中国観

何故だろう? 就任前、あれほど厳しかったドナルド・トランプ大統領の中国観が、じわりと変わり始めているという。その真相を探ると、アジアに混乱を齎しかねない不安の種がみえてくる。米中要人の往来が加速している。中国外交トップの楊潔篪国務委員(副首相級)が先月末に訪米したのに続き、国務省のレックス・ティラーソン長官が同18~19日に北京入りした。習近平国家主席が来月上旬に訪米する案も検討されている。「中国と建設的で、結果を重視した関係を目指していく。アメリカ国民の利益になり、同盟国との信頼関係にも適う筈だ」。アメリカ政府高官は、こう説明する。だが、アメリカのアジアの同盟各国には不吉な予感が漂っている。「米中が何らかの裏取引を交わし、自分たちが外されてしまうのではないか?」。そんな不安だ。何故なら、トランプ大統領の対中戦略は半ば空洞であり、軸足がブレ易い現実が少しずつ明らかになってきたからである。例えば、事実上、台湾を中国の一部と見做す“1つの中国”政策への対応がそうだ。トランプ大統領は当初、これに従わない可能性を滲ませていた。ところが、トランプ大統領は先月上旬になると、この政策の堅持をあっさり中国に約束し、関係改善に意欲すらみせた。嘗て強く非難した人民元や南シナ海の問題でも、最近は発言を控え気味である。一体、トランプ大統領の中国観はどうなっているのか。手がかりになるのが、先月10日の安倍晋三首相との初会談だ。複数の関係者によると、伏せられたやり取りはこんな感じだったらしい。約40分間の会談の殆どが中国問題に費やされた他、その後の昼食会でも中国が主な話題の1つになった。中国は経済力や軍事力にものを言わせて、東・南シナ海で勢力圏を広げようとしている。“中国主導のアジア”を作り、アメリカの影響力を排除するつもりだ。そうさせないよう、日米同盟を強めなければならない――。会談は安倍首相が主導し、こんな対中認識を共有する流れになった。最側近のスティーブン・バノン大統領首席戦略官上級顧問は会談後、「中国に関する安倍首相の説明は素晴らしい」と日本側に囁いた。ところが、トランプ大統領は時折、日本側が「おやっ」と不安を感じる発言もしていたのだ。「そうはいっても、習主席も中々見どころがある人物だ」「習主席とは初めて電話したが、とても良い話ができた」。トランプ大統領は、安倍首相との共同記者会見でも、米中連携に前向きな姿勢をみせた。

彼は安倍首相と親交を結ぶ一方で、もう片方の手で習主席とも握手を交わそうとしているようなのである。トランプ大統領の心変わりのきっかけは、日米首脳会談の前日に当たる先月9日、習主席と交わされた電話だ。米中関係者らによると、トランプ政権が重視する国内雇用やインフラの整備の為、中国が協力していく姿勢を習主席がみせたらしい。バラク・オバマ前政権が求めていた米中投資協定の締結について、「前向きな意向を示した」との情報がある。トランプ大統領はこの見返りとして、“1つの中国”政策を堅持し、関係の改善に動いたとみるべきだろう。習主席への来月のアメリカ招待も、この延長線上にある。「トランプ大統領には骨太な戦略観が無く、損得に外交が流され易い」という不安が、予て指摘されていた。やはり、そうだったのだ。無論、彼としても、中国の対米貿易黒字や東・南シナ海での強硬な行動に怒ってはいる。だが、それは明確な理念に基づく反応というより、“感情的に腹を立てている”と言ったほうが近いという。中国の外交ブレーンによれば、習主席は「トランプ大統領は取引好きで、御し易い」と見抜いている。トランプ大統領を取り込む為、今後、様々な協力案件を打診するに違いない。経済に加えて、もう1つの有力なカードが北朝鮮問題での協力だ。密かに、米中間で取引が始まっている形跡がある。アメリカは先月17日、ドイツで開かれた初の外務大臣会談で、北朝鮮に“あらゆる手段”を使って圧力を強めるよう、中国側に求めた。すると、その翌日。中国商務省は突然、「北朝鮮からの石炭輸入を今年末まで停止する」と発表した。「偶然とは思えない。何らかのディールが交わされたのだろう」。アジアのベテラン外交官からは、こんな声が漏れる。北朝鮮問題を巡って米中が連携を深めること自体は、世界にとっても朗報だ。問題は、「トランプ大統領がその見返りに、中国側にどんな譲歩をするのか?」である。若し、東・南シナ海での中国の行動を巡り、トランプ政権が甘い態度を取ることになれば、日本やオーストラリア、東南アジアの同盟国の安全保障が脅かされてしまう。では、日本やオーストラリアはどうすればよいのか? 1つの方策は、安全保障に精通し、厳しい対中観を持っているジェームズ・マティス国防長官らと連携し、トランプ大統領が危ない対中取引に走らないよう抑えることだ。この意味で、マイク・ペンス副大統領もカギを握る。それでも、大統領が絶大な権力を握るアメリカでは、副大統領や閣僚の影響力には限界がある。空洞になっているトランプ大統領の中国観がきちんと肉付けされていくよう、同盟国は彼との対話を深めていかなければならない。 (本社コメンテーター 秋田浩之)


⦿日本経済新聞 2017年3月22日付掲載⦿
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