【ヘンな食べ物】(31) インドカレーは悲劇の料理

謎の怪魚を探しにインドへ行った時の話の続き。シーラカンスに匹敵する世紀の大発見を夢見た私は、現地・オリッサ州の公用語であるオリヤー語を習ったり、魚を見つけた際に鑑定してもらうよう日本の著名な古生物学者に協力をお願いしたりして、万全の準備を整えてインドへ向かった。ところが、そこには又しても想像を絶する悪夢が待っていた。降り立ったコルコタ国際空港のイミグレーションで入国を拒否され、そのまま身柄を拘束されてしまったのだ。実は前回、インドに(※止むを得ずなのだが)密入国してしまい、強制送還されていた。その時の記録がちゃんと残っていたのだ。世紀の大発見どころか、世紀の茶番劇である。意気消沈している上に、引いていた風邪が悪化して熱まで出ていた。食欲など皆無な私のところへ、アルミパックに入った(※恐らく空港職員用の)弁当が運ばれてきた。カレーの匂いがする。「こんなもん食えるか!」と思った。今、この世で一番食べたくないものだった。でも、「折角持ってきてくれたんだし…」と形ばかりスプーンで掬って、口に入れたら驚いた。無茶苦茶美味い! 辛さは程々で、スパイスは複雑且つ円やか、柔らかく胃に収まっていく。米もパサパサというより、“軽い食味”で、本当に食べ易い。どうやら、今まで旅行中に食べていたのは、単に安食堂のもので、同じカレーも中級以上になれば別物らしい。弱って干からびた心身がみるみるうちに緩み、解けていく感じがしたほどだ。「インドカレー凄い!」と開眼したのだが、時既に遅し。その後、強制送還された私は、未だにブラックリストに絶賛掲載中で、インドに入国できない。本場のインドカレーは、私にとって文字通り、“悲劇の料理”なのである。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年3月30日号掲載
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