【刑務所のリアル】(12) 「私が見た刑務所内部の全記録を話そう」――斎藤充功氏(ノンフィクション作家)インタビュー

全国の刑務所をルポし続けると同時に、死刑囚との文通や、将又懲役を終えたばかりの出所者に直撃インタビューを敢行する等、刑務所取材の第一人者である斎藤充功氏。斎藤氏は、今は取材不可能となっている府中刑務所・網走刑務所の内部撮影を許された稀有な体験を持つノンフィクション作家である。斎藤氏が出会ってきた刑務所・懲役囚・職員たちの“実像”とは――。 (聞き手・構成/フリージャーナリスト 小林俊之)

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下山事件や、陸軍中野学校の“その後”の追跡、またダグラス・マッカーサーの日本占領下に蠢いた闇勢力の調査等、幅広いテーマで取材活動を展開してきたノンフィクション作家の斎藤充功氏は、日本列島を南北に走破して、全国の刑務所事情を雑誌や書籍で発表してきた刑務所研究家でもある。法務省相手に「内部取材をしたい」と粘り強く交渉し、堀の中でのスクープ取材を何度も実現させてきた。まさに刑務所“内部”取材のパイオニアなのである。「1977年に刑務所取材を始めたので、もう40年近くなります。きっかけは、月刊宝石(光文社)の刑務所ルポだったと思います。実際に私が工場を見たり、受刑者や刑務官にインタビューをしたり、中に入らないとできない取材をしたのは12ヵ所ですね。北から網走刑務所・釧路刑務所・函館少年刑務所。下って宮城刑務所・市原刑務所(交通刑務所)ね。それと府中刑務所。府中刑務所は、フランスのテレビ局の取材クルーと一緒に入りました。岡崎医療刑務所も行きました。それから大阪刑務所・広島刑務所・岩国刑務所。九州では、女性専用の刑務所である麓刑務所にも行きました。四国では松山刑務所。開放的な処遇をしている日本で唯一の施設なんですけど、そこは造船所でもある訳ですね。受刑者にもね、造船の作業員と同じように作業をさせていましたね」。その後、2005年8月から隔週刊誌『特冊新鮮組タイムス』(竹書房)で刑務所事情をルポする連載をスタート。その集大成を、『日本の刑務所』(竹書房)や『ルポ 出所者の現実』(平凡社)といった書籍で発表した。「刑務所の取材を始めた当時は、法務省矯正局の局長がとても開放的というか、マスコミに理解があったし、向こうも私を利用して刑務所を広く広報してやろうという目的もあったと思います。局長が『中で自由に取材していい』と言ってくれたのですが、懲役囚から見たら取材者は“招かざる客”ですからね。刑務所に出向いて、その実情を連載していったのは、日本では私が初めてだったと思います。刑務所の組織っていうのは、取材の窓口は法務省矯正局のトップですから、その人の命令だと、現場の所長さんたちは安心すると同時に、私を拒否できない訳です。取材の度に条件を矯正局と詰めて、協定書を交わすのです。刑務作業ですとか懲役の人のコメント等、『聞いた事実はそのまま書くから信用してほしい』と説得しましたね。また、『事前に原稿を見せろ』とよく言われました。ですけど、これは事前検閲になりますから、基本的には要求されても断りました。『ご存知の通り、検閲制度はないでしょう』と。先方は何を書かれるか不安でしょうがないでしょうけど」。

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中に入っている懲役囚は、刑務官の見ている前で、堀の中での暮らしや作業について斎藤氏に答える。刑務官を前にした受刑者は、「変なことを口走れば刑期に影響してしまう」というプレッシャーを感じていただろう。また斎藤氏も、刑期が関わってくる為、受刑者が語る刑務所への不平不満は書き難い。インタビュアーと取材対象の“ギリギリの鬩ぎ合い”が、そこにあった筈だ。「刑務所に対しての恨みつらみというよりも、作業の苦しさや家族と会えない辛さ等、そういうことは書きましたね。どの作業が辛いとか。取材相手をどう見つけるか? 工場で仕事している時に、『暇そうだなっ』と声かける時もあります(笑)。或いは、何人かの懲役囚をチョイスしてもらって、会議室に集めてもらったりもします。その場その場によって取材の仕方は違いますけどね。高松刑務所の取材をしている時の話ですが、あそこは高級な墓石の材料になる庵治石が採れるのです。石を加工する作業を、高松刑務所の受刑者はやっています。作業の最中に『何を研磨しているんですか?』と聞いて、それをきっかけに私と受刑者が話し出すと、刑務官が『そろそろ宜しいですか?』って(笑)。刑務所サイドは、あまり話を聞いてほしくないのでしょう」。刑務所から出てきたばかりの人に、堀の中の様子や暮らしぶりについて聞く月刊誌『実話ナックルズ』(ミリオン出版)の人気連載『犯罪者ビフォーアフター』は、2016年6月売りで149回目を迎えた。同誌の中で最も長い連載となっている。出所してきたばかりの人に「どんな罪を犯したのか」を聞き出し、堀の中という過去とこれからについてインタビューするという企画なのだが、取材はどのように行っているのか。

「刑務所サイドに実話系の雑誌の取材として申し込んでも対応してくれる訳がないので、刑務所の周辺で出所してくる人を待ち伏せしてインタビューしています。裏社会の人に『紹介しますよ』とよく言われるのですが、ヤクザも通さない。我々が取材しているのは、あくまでも素人です。中には多少、話を盛る人もいたでしょうけど、私は体験者の話を忠実に、生の言葉を記事にしています。出所してきた人に接触するに当たって、“第一声”が一番難しい。こちらが声をかけたら、反射的に怒鳴ってくる場合もある。刑を全うして出てきたら、ほっとする訳ですよ。瞬間的にでも、中のことを忘れたい訳です。そういう心情で出てくる相手に、ストレートに『中での生活はどうでしたか?』と聞いたら、そりゃ怒りますよ。取材経験を長く重ねると、出所してきた人間の服・態度・様子で、『一般市民じゃないな』ってわかるのです(笑)。観察しながら、『門からどのくらいの距離を置いて接触したらいいか』という間合いがわかる訳です。取材ではいつもワンボックスカーを用意しますが、相手にとって私は見ず知らずの人間じゃないですか。編集者と2人が対応するから、車の中っていうのはどうしても警戒しますし、片側のドアは開けておきます」。刑務所の門から隠れるようにして出てきた元受刑者たちは、その場から少しでも早く立ち去ろうとするのが人情だろう。そこを敢えて足止めさせて、刑務所にいた時の心情をレポートする。斎藤氏ならではの熟練したアプローチがあってこそできるのだろう。「刑務所周辺で待っていても、空振りに終わる場合もあります。ただ、最近は出所する曜日がわかるようになってきました。彼方此方の刑務所に行くけど、統計を取ってみれば、ここ5年くらいは毎週水曜日に出所しています。時間帯は満期と仮釈で違います。仮釈放の場合は、出る時間が満期より遅い。仮釈っていうのは、期間が短くても長くても、仮釈証書を総務部長が受刑者に渡す訳です。そういう行事があるから、どうしても時間がかかる。満期なら、時間が来れば出しちゃう訳ですから、凡そ午前8時前後です。それから1時間くらい遅れて、仮釈の人が漸く出て来るという流れです。女子刑務所は難しいです。栃木刑務所は2連敗でした。ここでも満期も仮釈放もいるのですが、殆どの場合、家族が車やタクシーで迎えに来る為、声をかける時間が無いんです」。

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斎藤氏は、堀の中にいる有名事件の犯人たちと手紙のやり取りをしている。その1人が、2002年に起きた『マブチモーター社長宅殺人放火事件』の犯人で、死刑が確定した小田島鐵男である。東京拘置所にも何度も出向く等、膨大なやり取りを重ねており、書籍に纏める予定だという。「刑務所取材の延長でしたが、この事件には深く興味があり、たった1人の死刑囚を10年くらい追って、面会にも行きました。未決だと取材はいくらでもできるのですが、確定囚になっちゃうと極端に制限がつきます。小田島は、死刑が確定して今年で9年目ですね。確定したのが2007年11月ですから。小田島がマブチモーター社長宅に侵入して家を焼いた為、妻と娘さんが焼け死にました。守田克実っていう共同正犯がいます。守田が最高裁に上告し、却下されたのですが、また上告している訳です。原則として、1つの事件で裁判所から共同正犯に認定され、判決が出た場合には、同時執行となるんですよ。仮に小田島が執行されると、同時に守田も執行されなければならないのですが、ここ20年位は、2人同時執行という例は無いのです」。マブチモーター事件の場合は、誰が犯人かミステリー小説的に話題となったが、斎藤氏が興味を持ったのは、「凡そ殺人とは縁遠い人柄の小田島が何故犯行に及んだか?」という点でのヒューマンインタレストだ。「今、小田島は『もういつでも死刑執行してくれ』と覚悟していますが、しっかりしています。元から頭はいいですし、字は綺麗、文章も上手い。東京拘置所で面会し始めてから、付き合いは(2016年の)9月でもう10年になります」。

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「よく喧嘩しました。30分ぐらい面会させてくれたのですけど、こっちもしつこいから(笑)。『手紙に書いてあることと言っていることが違う』と逆ネジを食らわすこともありました。いくら死刑確定囚とはいえ、こちらから死刑の話をするということで緊張感がありました。今度の本では、小田島が報道とはまるで違う人物像であることや、どうしてマブチ事件を起こしてしまったかという本質部分、そして、マブチ事件以降、どうやって逃走・事件を重ねてきたか――ということを書きました」。また斎藤氏は、「刑務所は軈て民間が経営するようになる」と予見する。コストのことを考えると、確かに民間委託のほうが安い。今の刑務所の運営について、どう考えているのか。「2005年辺りから、『刑務所運営はコストがかかり過ぎるから民間運営にすべきだ』という議論が出てきました。その結果、新しくできた未来型施設として話題を呼んだのが社会復帰促進センター。美祢社会復帰促進センターと喜連川社会復帰促進センターはセコムが受注し、播磨社会復帰促進センターと島根あさひ社会復帰促進センターは大林組と綜合警備保障が受注して、人員を派遣しています。今は、門の警備等は民間の警備会社が受託しています。託されているのは各地方の警備会社です。派遣されてくる警備員の中には、10人に3人くらいは元刑務官がいます。何れにしても、刑務所がどのような形態に変わろうと、懲役囚が辛いと思うのは、作業よりも“人間関係”のようです。辛い・楽しいって個人差が凄くある筈で、原則として昔も今も刑務所は初犯と累犯の処遇は違いますから。規則で縛るのは累犯刑務所です。累犯の場合には、刑務官を知っている懲役因も沢山いますから。刑務官も、『コイツらにいくら言ったところで意味が無い』と認識しています。となれば、『事故無く出所すればいい』と馴れ合う原因となります。その辺りが時たま、刑務官と懲役囚が癒着する原因となっているのではないですかね」。 =おわり


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