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【WORLD VIEW】(27) 韓国の出生率0.81、日本は何を学ぶ?

韓国の未来は、社会的にも経済的にも、ぐんと厳しいものになりそうだ。0.81という数字に至った背景をきちんと理解することは、日本の未来に役立つヒントとなるかもしれない。0.81とは、韓国が2021年に過去最低を更新した、1人の女性が生涯に産む子供の数に相当する合計特殊出生率のことだ。『経済協力開発機構(OECD)』の加盟38ヵ国中で唯一、1に届かず、世界最低水準となっている。13年連続で人口が減っている日本の1.30をも大きく下回っている。最初に書いたような気持ちが強くなったきっかけは、先月1日、韓国国防省の申範澈次官(51)とのインタビューでのやりとりだった。朝鮮戦争(※1950~1953年)は休戦状態にあり、韓国では兵役は18歳以上の男性国民の義務になっている。だから、「少子化が進めば兵員確保が難しくなるのではないですか?」と尋ねてみた。国防省ナンバー2である申氏の答えは、「核心的な悩みだ」とこちらの予想以上だった。申氏は、「2030年代以降、兵力資源の急速な減少は避けられない。だから、それに先んじて、AI技術を駆使する軍隊に変貌させる。兵器の自動化や無人化も実施する」と言葉を継いだ。兎に角、若者が少なくなるという深刻さがひしひしと伝わってきた。それにしても、地理的にも文化的にも近い韓国で、何故ここまで急速な少子化が進んでしまったのか? ソウル大学人口政策研究センター長を務める曺永台教授(50)の研究室を、先月20日に訪れた。韓国を代表する人口学者として知られる人物だ。「特別な理由があるのです」。笑顔で迎えてくれた曺さんは、こう切り出した。「韓国政府は少子化対策として、主にフランスやスウェーデンの政策を参考にしながら、子育て環境の改善に多くの予算を投じました。10年前に比べて遥かに良くなった。それでも出生率は下がり続けた。何故なのか?」。ぐいぐいと引き込まれるような語り口に、思わず身を乗り出す。曺さんは、「根本的な原因は人口密度です。若者の人口が、最も大きな都市に集中している比率が高ければ高いほど、その国の出生率は落ちてしまうのですよ」と明かした。つまり、ソウルを中心とした首都圏への一極集中こそが、世界最低水準の出生率を齎したというのだ。確かに、韓国では全人口約5200万人の半分にあたる約2600万人が首都圏に住んでいる。釜山や大邱、光州といった地方の拠点都市との差は開く一方だ。

「しかも今は、SNSや交通網が発展している。地方で育った学生は、ソウルと自分たちの町の発展ぶりがあまりにもかけ離れているのを知り、ソウルにある大学を目指すようになった。地方の大学は今、運営が大変ですよ」。若者が押し寄せるソウルでは、当然、就職競争は激しくなる。人口集中による不動産高騰も深刻だ。3LDKタイプで1億円を超える物件はザラ。とても手が届かない。自分が生きていくのに精一杯なのに、更に結婚して、子供を育てるという選択自体ができなくなっている。韓国政府は子育て支援に力点を置いたが、それ以前の問題なのだというのが曺さんの分析だった。耳を傾けながら、昨年12月に取材したソウル市在住の予備校講師、兪民海さん(33)の話を思い出していた。結婚前に夫と探したマンションの値段は、日本の3LDKに近いタイプで、最低でも約8億ウォン(※約8200万円)。購入を見送らざるを得なかった。兪さんが「住宅を買えば、子供を産み育てる経済的余裕が残るかどうかもわからない。韓国の若い世代は本当にしんどいですよ」と溜め息交じりに語っていたのが印象的だった。日本は、韓国の現状から何を学ぶべきか。曺さんは、「日本には大阪や名古屋、札幌等、若者達がずっと残ることができる都市圏があるではないですか。東京で勉強しても、自分の出身地域に就職で戻る人たちもいる」と言い切った。兎に角、東京への一極集中を防ぐことが大事だとのアドバイスと受け止めた。「へぇー」と思ったのは、曺さんが日本の若者気質にも注目していたことだ。「韓国では、これぐらいまで到達しないと結婚できないという水準が日本よりも遥かに高い。一方、日本の若者達はあまり挑戦的でないように見える。外国にも行かず、遊びにも行かない。この違いは興味深い」。韓国では若者の向上心が仇となって少子化が進んでいるけれど、“若者の草食化”が指摘される日本は未だ余裕があると言われているようで面白かった。曺さんは、「韓国の少子化対策に残された時間は、あと4~5年でしょう。上手くいかなければ、夫婦の間で子供を産まないという選択が当たり前になる」と危機感を隠さなかった。「地方で生まれても、地方だけで一生暮らすのではない。今はソウルで暮らしていたとしても、ソウルに一生住まなくてもいい。人生の選択肢をもっと作らないといけない。其々の地域に合った発展計画が必要だ」とも語っていた。日本でも、東京への一極集中が指摘されるようになって久しい。兎に角、地方の拠点都市が“若者が集う街”であり続けることに全力を挙げる。地道に積み重ねていけば、韓国に先んじて、本格的な少子高齢社会となっている日本が良い方向へと進むチャンスは見つかる筈だ。黄昏時の帰路。ソウル大学の学生達で満員のバスの中で、曺さんの話を味わい直した。私が東京に次ぐ大都市である大阪と神戸の間の阪神間で育ったからだろう。 (ソウル支局長 坂口裕彦)


キャプチャ  2022年10月2日付掲載
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テーマ : 韓国について
ジャンル : 政治・経済

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