【東京情報】 施しへの抵抗

【東京発】生活保護を受給しながら、過度な飲酒をしたり、パチンコに通ったりする人々が批判されている。発覚した場合は、給付を打ち切るべきなのだろうか? だが、カネの使い道を詳しく調べるのは難しい。何かモヤモヤしたものが残るが、その正体は何なのか? フランス人記者が鼻を鳴らす。「千葉県の四街道市が生活保護受給者に対し、過度な飲酒やパチンコを慎むよう促す文書を、約2年間、担当課の窓口に掲示していたそうだ。指導に従わなければ生活保護を停止する場合があると。しかし、市にはそんな規定は無く、文書は撤去された。報道によると、『受給者がパチンコをしている』と市民から苦情が寄せられ、掲示を始めたらしい」。アメリカ人記者が長い金髪を掻き上げる。「要するに妬みね。『働いていない人間が遊んでいるのはけしからん』と。生活保護法には飲酒やギャンブルを禁じる規定は無く、保護費は本人の裁量で使えることになっているのに、世間がそれを許さない」。兵庫県小野市は2013年4月、生活保護費や児童扶養手当をギャンブルで浪費することを禁止し、市民に情報提供を求める条例を施行した。また、九州・沖縄各県の一部市町村では、生活保護受給者がギャンブルで浪費しないように、自治体職員らがパチンコ店やボートレース場等の見回りを行っている。これらは明らかにやり過ぎだ。今年は熊が人を襲う事故が多発しているが、先日のラジオ番組で、人を襲った熊がいる山によく入るおばあさんのコメントが紹介されていた。曰く、「家にいても一銭にもならない。山に入ってタケノコを採って売ればお金になる」と。年金暮らしでは生活にハリが無いのだろう。だから、危険な山でタケノコを採る。女房に捨てられ、一時期パチンコにハマったフランス人記者が言う。「生活保護の受給者も生活にハリが無い。だからパチンコに通う。あれは座禅のようなものだ。無我の境地に達し、日々の悩みや不安を忘れてしまう」。アメリカ人記者が首を振る。「単なる逃げよ。ギャンブルと酒は人生を狂わせるわ。尤も、人生の空虚さを埋める友だちでもあるけどね」。

日本人は、昔から人の手を煩わせたり、情けを掛けられることを忌み嫌った。“武士は食わねど高楊枝”という言葉があるが、武士は「人から施しを受けるくらいなら死んだほうがマシ」と考える。ベルギー人記者が頷く。「聖書の一節に、『金持ちが天国に行くのは、ラクダが針の穴を通ることより難しい』とあります。“持てる者”は、天国に行く為に施しをする。つまり、宗教的実践です。一方、日本人は施しを受けるのもするのも苦手のようです。『施しを受けるのはみっともないことであり、施しをするのは相手に失礼である』と」。劇作家の宇野信夫が書き、6代目三遊亭圓生が演じた『小判一両』という新作落語がある。とある長屋に浪人侍と子供が住んでいた。子供が外で遊んでいると、凧屋が通りかかり、凧を落としていった。その凧を子供が拾ったが、気付いた凧屋は「凧を返せ」と詰め寄った。子供も「拾ったものだから俺のだ」と言い、押し問答になってしまう。そこへ、笊屋の安七が通りかかる。凧屋の大人気ない態度を見て、「凧の1つくらいやればいいじゃないか」と提案する。しかし凧屋も、「それじゃあ商売が成り立たない」と譲らない。日本オタクのベルギー人記者が身を乗り出す。「それ、僕が大好きな噺です。笊屋は、いつも持ち歩いていた父親の形見である1両小判を凧屋に突き付け、『子供に凧を渡してやれ』と啖呵を切るんですよね。結局、凧屋は『1両では釣り銭が無い』と言い、喧嘩の末に凧を置いて帰ってしまう。そこに、子供の父親である浪人侍がやってくる。事の次第を聞いた浪人侍は恐縮して、笊屋に頭を下げる。笊屋は、『早く凧揚げがしたい』とせがむ子供に先程の1両小判を握らせたが、浪人侍は辞退する。その時、鳥居の脇から身なりの良い侍が出てきたので、浪人侍は小判を受け取ったまま、顔を伏せるようにして引き下がる」。

続きは私が纏めよう。この経緯を鳥居の陰から見ていた身なりの良い侍は、笊屋の安七の行いを褒め、酒肴を御馳走し、金子を渡そうとする。最初は気持ちよく酒を飲んでいた笊屋の安七だが、突然、身なりの良い侍に反発する。「俺に御馳走するカネがあるなら、どうして浪人に渡してやらないのか」と。身なりの良い侍は「侍同士、情けを掛けぬのが情けだ」と弁解するが、笊屋の安七は納得しない。怒った安七は先程の長屋へ行き、侍が後を追った。長屋の戸を開けると、浪人侍は仏壇の前に小判と遺書を置いて割腹していた。遺書には、「子供1人養えず、行きずりの他人から恵みの金子を戴き、我が身の不甲斐無さを見た」と記されていた。傍らでは、先程の子供が泣いている。狼狽する安七に、身なりの良い侍がこう説教した。「よく聞け。凡そ生ける者は自負を持っている。橋の上の乞食、道端の物乞いでも、他人が見るほどさもしいとも哀れだとも思っていない。この浪人侍は自負も望みも持っていたが、今日、我が子の行い、見ず知らずの者に恵みを貰い、我が身を振り返った。その姿を己で見てしまった。もう生きていても用の無い自分を悟ったのだ」。そこで安七は、「情けを掛けぬのが情けだ」という身なりの良い侍の言葉が漸くわかった。フランス人記者が顎鬚を撫でる。「日本人は、こういう話が好きなのだろう。世間様の恵みを受けて生きることに抵抗がある」。アメリカ人記者が言う。「日本の社会保障政策の多くは、ドイツからの輸入品なのよ。1871年に統一国家を作ったビスマルクは、社会主義者鎮圧法を制定して労働運動を徹底的に抑えつける一方、労働者の保護政策や社会保障政策を推し進めた。その二面性が“アメとムチ”。ドイツには生活保護に対する暗いイメージは少ないけど、最近は移民が生活保護を申請するので、反発の声が大きくなっているわ」。アベノミクスにより株価は上昇したものの、各種データを見る限り、日本の景気は悪化している。日々の生活が苦しくなってきた人々が、鬱憤を生活保護の受給者にぶつけるという構図は、万国共通なのかもしれない。 (『S・P・I』特派員 ヤン・デンマン)


キャプチャ  2016年6月30日号掲載

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