“共謀罪”騒動にみる政官の無能――与野党共にポピュリズムの醜態、テロ対策を放置する平和ボケ国家ニッポン

20170405 12
1人の暴走を許さず、妥協点を探る建設的な面があるのが“三つ巴”なら、保身目的の相互牽制で身動きが取れない不毛の状況が“三竦み”だ。前者はアメリカでのドナルド・トランプ大統領と司法や議会との対峙を、後者は日本での“テロ等準備罪”に改称された“共謀罪”導入を巡る今年の通常国会の議論を連想させる。重要課題を20年近く放置して恥じない与野党のポピュリズムと霞が関の省益本位体質による三竦みは、トランプ大統領を生んだアメリカ政治の劣化以上に深刻だ。2009年に3度目の廃案となって以来、7年半ぶりに脚光を浴びた共謀罪創設の為の組織犯罪処罰法改正案は、提出前から野党が激しく批判し、法務大臣の金田勝年の答弁は迷走した。南スーダンでの陸上自衛隊の日報問題で能力不足を露呈した防衛大臣の稲田朋美と共に、「金田大臣を更迭すべきだ」と周囲に助言された首相の安倍晋三は、「稲田はいいが金田には失望した」とぼやいたという。稲田に抱くような愛着を持てないとしても、あまりにも対照的な反応には、官僚出身の金田に期待した答弁能力を見誤った苛立ちに加え、厭戦気分も表れている。共謀罪導入に真剣なら、法務大臣任せでなく、総理大臣官邸主導で局面打開を図るのが“安倍1強”のスタイルの筈だ。ところが、「2020年東京オリンピックのテロ対策に不可欠」と言いながら、官邸は金田に責任を押し付け、距離を置く。「オリンピック後ではモチベーションが失われる」と見て、不人気案件にしぶしぶ手を出した訳だが、年内とも言われる衆議院解散・総選挙に不利になるくらいなら、金田を切ってでも先送りする選択肢が、安倍や官房長官の菅義偉の念頭にはある。

2012年の政権復帰以来、安倍官邸を支配するポピュリズムの典型的な発想だ。過去にも、2015年1月にフランスの週刊紙『シャルリーエブド』を襲撃するテロ事件が発生した直後、共謀罪導入を急ぐ考えを問われた菅は、重要案件の山積を理由に消極姿勢を示したことがある。結局、同年の通常国会は安全保障法制一色で、翌2016年に日本での『主要国首脳会議(G7サミット)』を控えていたにも拘わらず、組織犯罪処罰法改正案の提出は検討の俎上にさえ載らなかった。「安保法制と共謀罪という不人気案件を2つも処理すれば、同年夏の参議院議員選挙に悪影響がある」と考えた為だが、欧米をテロの波が襲った2015年なら、未だ国民の理解を得易かったろう。共に“国民の安全”を大義名分にしながら、一方は“歴史に名を残す”動機で強硬に進め、他方は“選挙に不利”を理由に軽視する。共謀罪のハードルをここまで高くしたのは、安倍官邸自身だ。最大野党の民進党も、ポピュリズムという点では同根だ。「共謀罪導入が加盟条件だ」と政府が説明する国際連合の国際組織犯罪防止条約(2000年採択)に、前身の民主党は賛成している。条約は、加盟国による情報共有等で、麻薬犯罪やマネーロンダリング(資金洗浄)といった国際犯罪を未然に防ぐ狙いがあり、2001年9月11日にアメリカで同時多発テロが発生して以降、テロ対策としての性格も強調されるようになった。民主党は当時、国際連携の重要性は認めつつ、「捜査当局の権限強化は(その頃相次いだ)警察や検察の不祥事に怒りを募らせる世論を刺激する」と見て、共謀罪には反対する二重基準の対応を取った。それでも2006年には、対象となる犯罪数を政府案の約600から約300に半減し、取り締まりも“組織的犯罪集団”に限定する修正案を提出。責任政党の矜持を示しもした。自民党も歩み寄り、麻生太郎内閣では同法改正案成立の機運も高まったが、麻生が2009年に衆議院を解散し、廃案となった。その後、政権を担った民主党は、世論を気にして修正案をお蔵入りさせ、野党転落時まで放置した。民進党に衣替えした後は、「安倍政権に対する攻撃材料になる」と見て、「共謀罪は条約加盟に不要」と主張の軸足を変えた反対論を展開するようになった。この立場は、2003年の条約発効当時から『日本弁護士連合会』等が唱えていたもので、新しい見解ではない。日弁連に同調するなら、民主党政権で方向転換しておけばよかった筈だ。それを今頃持ち出して、現代とは社会状況や情報技術が異なる治安維持法の時代と並べ、未だ見ぬ“共謀罪の恐怖”を過剰に煽る。これもポピュリズムの産物だ。

20170405 13
霞が関の省益本位の姿勢や実力不足も、問題を複雑にした。法務省や警察庁にとっては、共謀罪があったほうが捜査の幅が広がる。一方で、殊にテロ対策に関しては、島国という地理条件や人種の画一性等、取り締まりには有利な要素がある為、条約未加盟による不利益が少ない。未加盟の11ヵ国中、日本を含む6ヵ国が島国だ。条約採択から17年目の今も、日本で国際テロ事件は起きていない。だからこそ、「“共謀罪無しで加盟可能”という主張に与するより、加盟を遅らせてでも共謀罪を導入するほうが得策だ」と考える。外務省は、条約を杓子定規に解釈し、「懲役・禁錮4年以上の罪は全て共謀段階での取り締まりを可能にする必要がある」と言い続けた。安倍もそれを信じ、「容易でない」と判断してきたが、公明党の要求で再検討した結果、「対象犯罪を半減しても加盟できる」との見方が大勢となり、外務省不信を一層強めた。2016年には、日本と並ぶ希少な存在だった北朝鮮が条約に加盟した。元首の悪口で処刑される独裁体制に共謀罪も何もあったものではないが、国連が北朝鮮の国内法を子細に検証して加盟を認めた訳ではない。「条約加盟に当たり、国連は国内法を厳しくチェックしない。各国が『条件を満たしている』と宣言すれば済む」(政府筋)ともいう。抑々、条文にも「自国の国内法の基本原則に沿って必要な措置を取る」とあり、「寧ろ日弁連の主張に理がある」との声は、政府内にも燻る。尤も、外務省が国際法の実務に弱いことは、捕鯨問題等での“連敗”を見ても明らかで、それを承知の安倍が「また外務省か!」と怒ってみせるのは、条約加盟が頓挫した場合のスケープゴートに仕立てる意図からだろう。条約のテロ抑止効果が高かろうと低かろうと、一定規模の人口と経済を持つ未加盟国が日本とイランだけの現状で、テロリストがそこに国際包囲網の“穴”があると考えても不思議はない。過去17年の無事が、未来の安全を保障する訳ではない。これまでの無作為で、日本はソフトターゲット化している。この危機感を与野党と官僚が共有できずに三竦みが続くようなら、多くの国民が“共謀罪の恐怖”以上の脅威に曝されることになる。 《敬称略》


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