【「佳く生きる」為の処方箋】(46) 陛下に学んだ公平の原則

2012年の天皇陛下の冠動脈バイパス手術をさせて頂いた折、とりわけ心に深く残ったのが、陛下が目の前のご公務を分け隔てなく粛々と遂行しておられたお姿です。その年のお誕生日に、陛下ご自身が“公平の原則”について話されているのを伺い、私もこの言葉を胸に刻んできました。患者さんの命に向き合う外科医もまた、公平であることがとても重要です。しかし、過去の自分を振り返ると、必ずしもそれを守れていたとは言えない時期もありました。手術のやり易い軽症患者や知り合いからの紹介患者を先に手術するようなこともあったのです。陛下のお言葉は、そんな自分を戒め、公平の原則を常に意識させる契機となりました。では、外科医にとって公平の原則とは何か。私は大きく3つあると考えています。1つ目は、目の前に現れた患者さんを等しく診ること。患者さんが誰で、どんな背景を持っていようと、手術に向かう姿勢は全く同じ。絶対に手抜きはしません。2つ目は、手術時期における公平の原則です。手術は早過ぎても遅過ぎてもダメで、「今、ここで行うと最もよい結果を出せる」という絶妙のタイミングがあります。卑近な例ですが、メロンにも丁度よい食べ頃があるように、手術にも“受け時”があるのです。どのタイミングで手術をするかは、多くの場合、診療ガイドライン等から比較的容易に決められるのですが、重症の場合は別です。他の持病があったり、再手術だったりすると、心臓だけでなく、全身の状態にも細心の注意を払う必要があります。このような場合は、入院をして先ずは全身を管理し、手術を安全且つ効果的に行える状態になってから執刀します。

軽症の患者さんなら月単位の幅で手術時期を選べますが、重症の患者さんは「今しかない」という、殆どピンポイントのタイミングで手術時期を決めることになります。先日手術をした患者さんもそうで、私の予定と照らし合わせ、日曜日に行いました。難しい手術でしたが、仕上がりは極上。一番よい時に手術をすることで、公平の原則を貫き、且つ最もよい結果を得られた訳です。3つ目は、入院費用についての公平の原則です。病室には、一般病室と個室等の特別室(差額ベッド)があります。差額ベッドの場合は、病室が広かったり、食事内容がよかったりしますから、その分の費用が余計にかかります。一見公平ではないようですが、実はこれも公平の原則に則っているというのが私の考えです。一般病室でも差額ベッドでも、肝心の医療は健康保険を使いますから差はありません。入院時の過ごし方に違いはあっても、受ける治療自体は同じなのです。また、病院が設備投資に回せる資金は、差額べッド代も大きな財源です。つまり、それによって病院の設備がよくなり、最新の医療機器を導入できます。そして、この恩恵は全ての患者さんに等しく還元されるのです。ここでも公平の原則が働く訳です。私がこのように考えるきっかけとなったのは、インドのナラヤナヘルス病院を視察したことでした。そこでは、約20%の富裕層が高額な医療費を支払うことで、高水準の医療レベルを保ち、その同じ医療を約80%の低所得者層がほぼ無料で受けられるというシステムを作り上げていました。国民皆保険制度の日本とは事情が違いますが、「そのような仕組みを差額ベッドに置き換える等して応用することもできるのではないか?」と思ったのです。公平の原則を守りながら、病院全体が上手く循環するように工夫する。4月から病院長として2期目に入りますが、そのような思いも胸に改めて、職責の重さを痛感しているところです。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2017年4月6日号掲載
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