【管見妄語】 沖縄の光と影

例年通り、3月の1週間を沖縄で過ごした。スギ花粉を避けつつ、沖縄の陽光と青い海に縮こまった体と心を解き放ち、当地の素晴らしい仲間たちと再会する為である。那覇空港でレンタカーを借り、開け放った窓から花粉の無い心地よい風を受け、南国の強い光や濃い影に何故か郷愁に似たものを感じながら、国道58号線を北上した。「別の女性と来てもよかった」と例年思いつつ、誰一人ついて来てくれないので、今年も愚妻と一緒だ。ところが、このルンルン気分が空港を出て十数㎞も行かないうちに冷やされる。道路の右側にアメリカ軍の普天間基地が現れるのだ。張り巡らされた金網の最上部50㎝ほどは有刺鉄線で、道側に迫り出している。20年余り前に、初めてこの迫り出しを見た時は、悔しくて涙が出た。今も頭に血がかけ上る。「戦後70年以上も経っているのに未だ占領中ではないか」「何故、自衛隊ではないんだ」。普天間を過ぎても、キャンプフォスター、成田や関空と並ぶ日本最大級の嘉手納基地、嘉手納弾薬庫と、アメリカ軍の施設が50㎞近くも続く。それが終って暫くするとキャンプハンセンだ。沖縄で一番美しい58号線に沿って、一番よい場所にアメリカ軍は基地を作ったのである。「国辱とはこのこと」と憤ったり、沖縄の光と影に心を沈ませつつ、言葉少なに運転する。中北部でアメリカ軍基地が海岸から離れると、やっと平常心を取り戻し、沖縄の海の碧さに心打たれる。ホテルの部屋のべランダに出ると、目の前に広がる海のきらめきと長閑な潮騒が満控に染み渡り、「来たぞー沖縄」と叫びたくなる。夕食は無論、ゴーヤチャンプルー・グルクン揚げ・ジーマミ豆腐・モズク・アーサ等、美味で健康に良い沖縄料理に舌鼓を打つ。この幸せも翌朝破られる。部屋に配られる地元紙だ。『沖縄タイムス』か『琉球新報』なのだが、偏向ぶりが酷い。

友人のHさんに尋ねた。「多くの県民が、この2紙を読んでいるんですか?」「沖縄では、新聞と言ったらこの2紙です。アメリカ軍基地反対と反政府の記事が載らない日はありません。一方で、中国公船の領海侵犯は先ず載りません」。アメリカ軍基地に対する沖縄県民の怒りは当然であり、完全に支持する。戦後の沖縄の問題は、平均年収が47都道府県中の47位という貧困を含め、殆どが島を蹂躙するアメリカ軍基地に帰因するからだ。交通整備や産業開発がままならず、発展の軛となっている。歴代政府は70年余りもの間、対米屈従に甘んじ、この大問題の根本解決を怠り、経済振興という名のバラマキで県民の目を晦ましてきた。その意気地無さと狡猾。それが、戦時中から形容し舞い辛酸を舐めてきた県民への接し方なのか。しかしながら、中国が南シナ海や東シナ海で狼籍を働き、北朝鮮が核ミサイルを配備した今、アメリカ軍基地は我が国の国防の要となった。最早、沖縄固有の問題ではなくなっている。県民が不平不満を大声で叫び続けても何の効果もない。知事の訪問に対する日米政府の冷淡を見れば明らかである。アメリカに守ってもらっている限り、我が国は属国であり、アメリカ軍基地も無くならない。この屈従状態から脱け出し、自立するには自主防衛しかない。どうしたらそれが実現できるかだけが本質なのだ。反米とか反政府を闇雲に煽るのは的外れであり、“県民の目を本質から逸らす”という点で反沖縄的行為でもある。Hさんは続けた。「あの2紙が沖縄の世論を作っているから、それに合った主張をする人しか選挙で勝てません。翁長雄志知事だって、元は自民県連の幹事長として辺野古移転の旗振りをしていた人。知事になりたくて変身したんです」「2紙とは異なる意見の人もいるのでは?」「知事はいつも『我々沖縄県民は…』と言いますが、中は賛否半々です。世論と違うことを言うと批判されるから、誰も本音でものを言えないのです」。Hさんは暗い表情をかき消そうとしてか、泡盛を一飲みにした。


藤原正彦(ふじわら・まさひこ) 数学者・お茶の水女子大学名誉教授。1943年、満州国生まれ。東京大学理学部数学科卒。同大学院理学系研究科修士課程数学専攻修了。ミシガン大学研究員・コロラド大学ボルダー校助教授等を経て現職。著書に『藤原正彦の人生案内』(中央公論新社)・『この国のけじめ』(文藝春秋)等。


キャプチャ  2017年4月6日号掲載
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テーマ : 沖縄米軍基地問題
ジャンル : 政治・経済

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