【中外時評】 統合の絵、描き直す欧州

イギリスが『ヨーロッパ連合(EU)』に“離縁状”を突きつけ、近く大統領選挙を迎えるフランスでは、排外主義的な政治家が“まさか”の当選を狙う。ヨーロッパの迷走はいつまで続くのか、先が読み難い。そんな中で先月、ヨーロッパ27ヵ国の首脳らがローマに集まり、EUの原点となる1957年の『ローマ条約』締結60周年を祝った。派手なニュースではなかったが、この場で採択された宣言は、ヨーロッパ統合の行方を読む有力な手掛かりになる。ポイントは、第2次世界大戦後続けてきたヨーロッパ統合について、「今後は必要に応じて、異なるペースや強度で進める」としたことだ。つまり、「ドイツやフランスのような中核国が先行して統合を進め、やる気や能力に欠ける国は置いていくことも考えよう」という意味である。不戦の願いから西ドイツ(当時)とフランス等6ヵ国でスタートしたヨーロッパ統合は、東西冷戦の終結を経て、28ヵ国・5億人余りを擁するEUに育った。ヒト・モノ・資本等の自由移動を基礎とする単一市場や通貨統合も実現した。だが、巨大化し、統合が進むにつれ、超国家的な部分も目立つようになった。市民には遠くから権力を振るう存在に見え、加盟国の多様化で内部の軋みも隠せない。排外的な主張を掲げる新興政党等は、移民・難民や経済の問題の責任をEUに問おうとする。フランス大統領選では、極右候補のマリーヌ・ル・ペン氏がEUやユーロからの離脱を唱え、台風の目になっている。ヨーロッパ統合が直面する状況を考える上で、興味深い説がある。ハーバード大学のダニ・ロドリック教授が説く“世界経済の政治的トリレンマ”だ。「グローバル化の深化・民主主義・国家主権の3つを同時に追求することはできず、どれかを諦めなければならない」とする。慶應義塾大学の庄司克宏教授は、これをヨーロッパ統合・民主主義・国家主権の3つに読み替えた“ヨーロッパ統合の三角形モデル”を提唱している。

これらに基づくと、こんな姿が浮かぶ。EUが民主主義を維持しつつ経済統合を進めるのなら、加盟国は主権をEUに渡していく必要がある。若し国家主権と民主主義を優先したいのなら、統合はほどほどにしなければならない。3つ全てを満たすことはできないからだ。イギリスは、EUにいても自国の主権への拘りが強かった。そこで、統合へのほどほどの参加で折り合いをつけようとしてきたが、上手くいかず、遂にEU離脱を選んだ。庄司教授はトリレンマ説について、「予測を可能とする精緻な理論というよりは、現状の世界をわかり易く説明する為に便利なツールだ」とみる。ヨーロッパ統合が進むと国単位の枠組みとの軋轢が生じがちなのは、この説に従えば自然なこととなる。では、EUはどうするのか。ロドリック教授にヨーロッパ統合の行方を尋ねた。「今のヨーロッパの状況では、財政や政治分野で本格的な統合を進めることは、ポピュリストの反発で不可能になった」とした上で、「現時点ではマルチスピード式(多速度式)しかなさそうだ」と指摘する。“マルチスピード式”は、ローマでEU首脳が打ち出した進め方だ。統合を深めたい加盟国は、主権を部分的にEUに譲り渡しながら先に進む。「先行組に入れない」と考える国からは「2軍扱いするのか?」との反発もあり、実現にはハードルもある。加盟国に広くドアを開けておく他、スイス等の非加盟国やEUを離脱するイギリス等も含め、周辺国と多様な関係を構築する発想も必要だろう。イギリスの週刊紙『エコノミスト』は、ヨーロッパ統合の存続に向け、「カギを握るのは柔軟性だ」と論じる。グローバル化やヨーロッパ統合は逆回転を始めた訳でなく、其々の国にあった速度や方式を探る局面に入ったということだろう。格差拡大等の歪みを解消することや、教育や職業訓練等を通じて、「グローバル化から取り残された」と感じる人が出ないようにする努力も大切だ。ヨーロッパは、ここを踊り場と受け止め、統合の絵を描き直そうとしている。グローバル化をどう賢く進化させていくかは、先進国に共通の課題だ。 (上級論説委員 刀祢館久雄)


⦿日本経済新聞 2017年4月6日付掲載⦿
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テーマ : 国際政治
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