EVインフラの肝、充電器――世界標準狙う日本の“秘策”、中国取り込み“もう一押し”

20170411 11
先月27日、中国の『EV(電気自動車)普及協会』幹部と中国共産党の関係者が、『トヨタ自動車』の東京本社をひっそりと訪れた。一行は翌28日、『NEC』の本社にも足を運んだ。議題は何れもEV充電器の規格だった。「日本発のEVの充電器規格に関して、中国の政府と業界の関係者が強い興味を持っている」。関係者は、こう証言する。中国の関係者を招いたのは、日本の自動車メーカー等が作る『チャデモ(CHAdeMO)協議会』。EVの普及団体で、独自の充電器規格を推進し、世界標準にすることを狙っている。チャデモは同30日、新型の充電器を報道陣に公開した。最大出力は150kWと現状の3倍に引き上げ、急速充電も可能にした。一般的なEVなら、僅か10分程度で充電が完了する。従来は30分程度かかっていた時間を一気に短縮できる世界最高水準の技術になる。その発表の場に中国の関係者を招待したのだ。「それでは始めます」。発表会場で2台並んだ『日産自動車』のEV『リーフ』。1台は従来の充電器で、もう1台は新型で充電するデモが行われた。新型が短時間で充電を終えると、中国の関係者から数多くの質問が飛んだ。「コネクターが90度の高温になっても変形しないのは何故か?」「この短時間で電池容量の何%が充電できたのか?」。中国側の関心の高さが目立った。中国の関係者を新型充電器の発表会に態々招いた背景には何があるのか。現在、EV充電器の規格は世界で大まかに4つある。日本のチャデモ、ヨーロッパの『コンボ(COMBO)』、アメリカの『テスラ』が推進する独自規格、そして中国の『GB/T』だ。これらが主導権争いを繰り広げている。各勢力が躍起になっているのは、この規格が充電器だけのものでなく、車本体の設計にも関わるからだ。規格は、車に接続するコネクターの形状の違いだけを指す訳ではない。最も大きな違いは、車と充電器が情報をやり取りする通信方法にある。これが自動車開発を大きく変える。チャデモ仕様の車、コンボ仕様の車…といった形で、規格に応じて車の内部設計も変わるからだ。例えば、日本規格と世界規格が異なれば、同じ車種でも販売地域によって異なる仕様の車を生産せざるを得なくなる。

EVに注力する『三菱自動車』の幹部が言う。「メーカーとしては、チャデモに世界統一してほしい。異なる規格で中身の違う車を作るだけでもコストアップになる。数万円ではとても済まないだろう。加えて、『世界のどの工場でどの車種を作るのか?』という生産戦略にも影響が出る」。つまり、充電器の規格が、日系メーカーのEVの競争力を左右する可能性も出てきている。現状では、チャデモがグローバルな充電規格別のEV・PHV(プラグインハイブリッド車)販売台数で断トツ。更に、今年2月末時点で充電器の数は約1万4000で、ヨーロッパでも約4000を設置済み。コンボ勢もチャデモを無視できず、ヨーロッパの充電ステーションでは、1つの充電器でチャデモとコンボの両規格に対応できるよう、2本のケーブルが設けられている。但し、状況が変わる可能性は十分にある。「コンボはヨーロッパメーカーの囲い込みに入った。チャデモに対して、『会費が高い』等のネガティブキャンペーンを張っているようだ」(チャデモ幹部)。ヨーロッパメーカーは、昨秋頃からEVシフトを加速している。『フォルクスワーゲン』は2025年までに30モデル以上のEV投入を宣言し、年間200万台の販売目標を掲げる。『ダイムラー』も同年までに、総販売台数の25%をEVとPHVにすることを明言。これらのメーカーを囲い込むことで、一気にコンボ規格の充電器が普及する可能性がある。そこでチャデモが狙うのは、中国勢との互換性の獲得だ。大気汚染が深刻な社会問題になっている中国は、国を挙げてEVを普及させようとしている。EV市場が世界最大の中国を取り込めば、日本は主導権争いで極めて有利な立場を手にできる。その為に、今回発表した高出力の新型充電器に加え、ある秘策がある。それが“オープンプラットフォーム戦略”だ。知的財産権を他国に開放する他、地域毎の“現地仕様”も認める。規格の核である通信方法や安全性だけを検定制度によって守り、コネクターの形状等については地域独自の仕様を許容する。充電器等のインフラビジネスを自国産業として育成したい新興国にとって、チャデモのこの姿勢は魅力的に映るようだ。タイはチャデモ規格を採用済み。チャデモ事務局の吉田誠局長は、「オープン化は、日本発の規格をガラパゴス化しない為の戦略。インドでもチャデモを国家規格として採用する動きがあり、インド国内で現地仕様を議論している」と明かす。中国のGB/Tとチャデモは通信方法が似ており、チャデモが重視する安全性も確保できる。「今回の訪日で、チャデモと中国の関係者で引き続き互換性の議論をすることが決まった。もう一押しだ」(同)。チャデモが中国勢の取り込みに成功すると、中国市場におけるシェアが高いヨーロッパの自動車メーカーにとっては打撃になる。コンボ仕様だけを採用するEVの開発・生産が難しくなるからだ。EVを巡るもう1つの主導権争い。現状では日本勢が一歩先んじるが、勝負はこれからが本番だ。(取材・文/本誌 島津翔)


キャプチャ  2017年4月10日号掲載
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