【笑う北朝鮮・崩壊論の嘘】(02) 市場公認で計画経済やり繰り

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北朝鮮の『社会科学院経済研究所』の李基成教授によれば、同国の1人当たり国内総生産(GDP)は、2013年に1013ドル(約12万8000KPW)、2014年に1053ドル(約13万3000KPW)だったという。国連は2014年に700ドル(約8万8000KPW)、韓国の民間シンクタンク『韓国現代経済研究院』は2015年に1013ドルだったと推定する。何れも極めて低い水準だ。『国際通貨基金(IMF)』が昨年10月に発表した世界188ヵ国の1人当たりGDPランキングで、北朝鮮が約1000ドルの場合、156位のジンバブエ(1002ドル)、157位のタンザニア(957ドル)と同程度に過ぎない。26位の日本(3万2478ドル)、30位の韓国(2万7221ドル)を遥かに下回る。北朝鮮は、1990年代に“苦難の行軍”と呼ばれる厳しい食糧難に見舞われ、大量の餓死者も出した。そんな低水準の経済にも拘わらず、今でも社会主義体制を維持していられるのは何故だろう? 北朝鮮は原則、社会主義の計画経済の一環で、国が定めた“国定価格”で、生活に必要な食品や生活物資を供給している。国定価格によって物価水準は低く抑えられ、コメは1㎏当たり44KPW(※公式貿易レート1KPW=0.12305円換算で約5円40銭)程度だ。公務員・朝鮮労働党幹部・軍人等の配給対象者や、一部国有企業(企業所)の労働員等の賃金は平均月4000KPW(同約492円)前後である為、生活も成り立つ。しかし、計画経済体制の下では、どうしても不都合が生じる。予め立てた計画通りに生産するのは勿論、需給の変化に柔軟に対応できない為だ。そこで、政府は2003年、主要都市を中心に、全国数百ヵ所を“総合市場”として公認した。その結果、今では計画経済の非効率な部分を市場が補完するようになっている。為替レートも、政府が財政等で公式的に用いる公式貿易レートと、市場の実勢レートの2つある。

北朝鮮では元々、農家が余ったり不足したりした農作物を取引する“農民市場”が、建国当時から認められていた。これに加え、食糧難や物資不足に陥った1980~1990年代にかけてヤミ市場が発生。農民市場でも農作物だけでなく、日常生活に必要な消費財も取引されるようになった。市場の拡大と共に、中国から雑貨・食品・機械類等の商品も入ってくるようになり、農民市場以外の市場の規模も年々大きくなったことから、政府も市場の存在を公認せざるを得なくなった。コメの市場価格は1㎏当たり5000KPW(約615円)前後と、国定価格の100倍以上だ。消費財や貿易品等、市場価格で取引される商品を扱い、給料も市場価格に合わせた水準で支払っている企業所の従業員や特権層等は、この価格で取引している。こうした市場全体の規模を把握するのは難しいが、「金正日総書記時代には既に、北朝鮮のGDPの2~3割程度を占めるようになった」と言われた。「現在は4割程度に膨らんだ」との見方がある。今でも生産設備や財を国の所有物と見做し、工場や企業所を政府の管理下に置く基本的な枠組みに変わりはない。だが、そういった組織に対し、資材調達や生産計画の決定等に関する裁量や独立採算制を拡充・強化したり、消費財や余剰農産物等、“食・衣・住”についての市場化を進めたりした結果、計画経済を何とか維持している。危機に対して脆かった硬直的な計画経済が、市場経済の要素を組み込むことで、弾力性のある経済に変わりつつあると言えよう。市場経済の仕組みを利用して社会主義経済を維持するという逆説的なものだが、改革開放によって経済成長を遂げた中国やベトナム等の先例もある。北朝鮮も今、こうした国と似たような変化を経験していると言える。加えて、最近の食糧生産の増加が、体制を下支えしている。『国連食糧農業機関(FAO)』によると、コメ、トウモロコシ、マメ等の穀物生産量(精穀ベース)は、2014年に594万トン、2015年に542万トンだった。1995年に405万トンだった穀物生産量は、2001年には257万トンまで低下したが、最近は500万トンを超えている。2015年は2010年以来で初めて前年比減少したとは言え、数量ベースでは必ずしも十分とは言えないものの、総人口2500万人の最低限の需要量を満たすレベルに達していると見られる。海外からの輸入や食糧支援等も加えれば、依然厳しいながらも、多数の餓死者を出した1990年代後半のような飢餓状態や食糧難を招くような状況にはなく、一定程度の改善が進んだと言えよう。従来に比べ食糧生産量を高めることができたのは、農家の生産意欲を高める制度を取り入れたのが一因だ。2013年に“圃田担当責任制”と呼ぶ仕組みを導入。農民8人前後で組織する最小生産単位“分組”の下に、2~3人と従来よりも少人数のグループに田圃や畑の管理責任を任せる体制に変え、生産や経営に対する農家の裁量を高めた。同時に、穀物の買い上げ・配分制度も見直した。政府は、農家(協同農場)が生産した穀物について、農場・資材・用具・肥料等、国家の所有物の使用代に相当する約3割分を除き、安価な国定価格による強制買い上げを中止した。

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その結果、協同農場は残りの最大7割の穀物を、農家が自家消費等に充てる現物分配分や、工場や商業等に従事する都市労働者への契約供給、市場での販売等に充てることができるようになった。農家も現金収入手段が広がり、市場を通じて生活に必要な商品や物資を手に入れる余裕ができた。最近では住宅部門でも市場の役割が高まりつつある。大まかに言うと、新築住宅の内、政府が建設・配分する既存の社会主義経済システムによる供給分と、市場を通じて資金を調達し建設・取引する供給分の割合は、7対3程度になっている。新築住宅の市場価格は、首都・平壌市の高級マンション(3LDK)が2000年代初頭の5000~7000ドルから、2016年の10万~20万ドルに高騰している。市場ではKPWは使われず、ドルや人民元等の外貨で取引される。市場取引を資金面で支えているのが、約1万ドル以上の資産を持つ新興富裕層“トンジュ(金主)”だ。数万人以上に上るとされ、中でも数十万ドルの資産を保有するトンジュは、商業・不動産・非正規の高利貸し等の担い手になっている。トンジュの出現は、格差の拡大を示すものだ。それでも、社会主義経済の建前を離持できている理由の1つとして、“権力型トンジュ”の存在が挙げられる。朝鮮労働党や朝鮮人民軍幹部ら一部の権力層は、市場経済の恩恵を受けている。例えば、実質的には私人間の取引であっても、権力層のお目こぼしによって、形式的に国有企業(企業所)による取引の形態に見せかけるケースがある。本来、取り締まり側にある筈の権力型トンジュの存在によって、取引を円滑・安全に進めることができるし、社会主義経済の建前も維持できる。実質的に市場の役割が高まったとは言っても、北朝鮮が社会主義経済の看板を降ろすことはないだろう。北朝鮮にとって、市場経済はあくまで社会主義経済体制を守る調整弁に過ぎない。政府も、「政治が経済をコントロールする」との認識を持っている。特にアメリカを始め、国際社会との緊張が高まれば、これに対峙する為、住民や資産の動員が必要になる。政治的にも、社会主義経済体制を堅持する理由があるのだ。北朝鮮経済が体制転換を意味する“市場経済化”と呼ぶ水準に到達するまでには、未だ高い壁がある。 (『日本経済研究センター』特任研究員 李燦雨)


キャプチャ  2017年4月11日号掲載
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