【憲法のトリセツ】(08) 旧憲法が現憲法に継承した自由主義

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君主が制定し、国民に与えられた“欽定憲法”の代表例である大日本帝国憲法(旧憲法)に、どんなイメージを持っていますか? この憲法の下で、日本は第2次世界大戦へと突き進みました。その為、軍国日本を象徴する存在として語られることが多いのですが、前回指摘したように、立法・行政・司法の三権分立がきちんと規定され、基本的人権が明記される等、かなりしっかりした憲法でした。明治8(1875)年2月11日の紀元節に、明治維新の中心人物が大阪で一堂に会しました。薩摩からは大久保利通、長州からは木戸孝允・伊藤博文・井上毅、土佐からは板垣退助の計5人です。王政復古をなし遂げた薩長土肥の藩閥政府は、征韓論や台湾出兵等を巡り内紛続き。薩摩の西郷、長州の木戸、土佐の板垣、肥前の江藤新平らが去り、がたがたでした。大阪で財界活動をしていた井上が、大久保と木戸・板垣の和解を斡旋したのが、この大阪会議です。場所は『日本経済新聞』大阪本社の直ぐ傍。舞台となった料理屋の跡地には、小さな石碑が立っています。この会議で、明治政府のその後を決める決定がなされます。天皇が全権を握る君主制から、憲法に基づいて国政運営する立憲君主制に移行することで合意したのです。2ヵ月後、明治天皇は『漸時立憲政体樹立ノ詔勅』を出しました。帝国憲法の発布は明治22(1889)年ですが、その14年前にレールは敷かれたのです。

安倍政権の支持基盤である保守派には、「現憲法は権利ばかり多くて義務が少ない。戦後日本が堕落したのはそのせいだ」と主張する人が少なくありません。では、帝国憲法に義務の規定は幾つあるのでしょうか? 「20条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ從ヒ兵役ノ義務ヲ有ス」「21条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ從ヒ納税ノ義務ヲ有ス」。この2つだけです。現憲法は勤労・納税・教育を3大義務にしていますから、帝国憲法は寧ろ少ないのです。では、権利のほうはどうでしょうか? こちらは沢山あるので右上表にしました。どれも“日本臣民ハ”で始まるので、省略してあります。“法律で制限できる”との条件付きではありますが、言論の自由も書かれています。勿論、31条で戦時又は国家事変の際には「天皇大権ノ施行ヲ妨クルコトナシ」とある為、天皇の名による専制政治が可能ではあったのですが、“帝国憲法=ファシズム”のように見るのは適切ではないと思います。帝国憲法の執筆には、伊藤・井上に加え、金子堅太郎・伊東巳代治が当たりました。伊東の孫に治正という人がいます。巳代治が残した膨大な資料を保管する一方、昭和11(1936)年に雑誌『自由』を創刊しました。題名通り、日本が戦争へと突き進む時代に自由主義の旗を掲げました。『自由』は特高警察等の圧力で直ぐに廃刊となりますが、続いて昭和16(1941)年に『憲法史研究会』を立ち上げます。帝国憲法の執筆過程に立ち返り、立憲と君主制の均衡等を勉強したそうです。本連載2回目に登場した鈴木安蔵は、この研究会のメンバーで、伊東家文書の整理の担当者でした。現憲法は帝国憲法を改正したものですが、形式的にそうだというだけでなく、思想的にもそれなりの連続性があることに、もっと注目したほうがよいと思います。

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実は、「帝国憲法が現憲法に与えた最も大きな影響は、憲法改正の仕組みではないか?」と言われています。帝国憲法は、改正についてこう規定しました。「73条 将来此ノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アルトキハ勅命ヲ以テ議案ヲ帝国議会ノ議ニ付スヘシ 此ノ場合ニ於テ両議院ハ各々其ノ総員三分ノ二以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開クコトヲ得ス出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニ非サレハ改正ノ議決ヲ為スコトヲ得ス」。現憲法の改正条項と比べてみましょう。「96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない」。現憲法の指す“総議員”が法律上の定数なのか、欠員を除く現在の人数なのか、欠席や棄権を除く投票者数なのかは色々な説がありますが、何れにせよ、帝国憲法に“総員”と書いていなければ、もう少し紛らわしくない表現を用いたのではないでしょうか。自由主義に話を戻すと、帝国憲法の下で、2大政党による政権交代システムが整備されていきました。統帥権干犯や天皇機関説等を巡る憲法論争を経て、大正デモクラシーは最終的に崩壊しますが、帝国憲法の罪というよりも、それを弄んだ軍国主義者たちのせいという感があります。憲法を語る時に、よく「最も民主的なワイマール憲法からヒトラーが生まれた」という言い方をします。どんな憲法でも、民主的に運用すれば民主憲法ですし、専制的に運用すれば専制憲法です。憲法を書き換えるかどうかだけを論じるのではなく、国のあるべき姿をよく考え、その精神を憲法に反映させることが重要ではないでしょうか。現憲法の書きぶりが今のままでも、日本を戦前のような国にすることは十分可能なのですから。


大石格(おおいし・いたる) 日本経済新聞編集委員。1961年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。国際大学国際関係学科修士課程修了後、1985年に『日本経済新聞社』入社。政治部記者・那覇支局長・政治部次長・ワシントン支局長として、様々な歴史的場面に立ち会ってきた。現在の担当は1面コラム“春秋”・2面コラム“風見鶏”・社説等。


⦿日本経済新聞電子版 2017年2月1日付掲載⦿
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