【科学捜査フロントライン】(20) 「科学捜査を生かす為にも“変死体”を見極めよ」――上野正彦氏(元東京都監察医務院長)インタビュー

科学捜査が進歩すればするほど、真実に一歩ずつでも確実に近付いていく。しかし、最初の一歩を踏み外しては、流石の科学捜査も意味をなさない。東京都の元監察医である上野正彦氏は、これまで2万体以上の変死体を検死し、自殺や病死として見過ごされそうな死体を他殺と鑑定し、犯人逮捕に繋げる等、数多の事件において、死者の尊厳を守る為の仕事を続けてきた。監察医の冷静な目が無ければ、科学捜査は出る幕も無い。連載の最後に、監察医退官後も事件と関わり続ける上野氏に、希有な経験を聞いた。 (聞き手・構成/ノンフィクションライター 八木澤高明)

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――最近の事件では、DNA型鑑定が犯人逮捕の決め手になることも多いですが、最新の科学捜査についてどう思われますか?
「DNA型鑑定というのは、素晴らしいことだと思いますよ。それまでは血液型というものに頼らなければならず、間違えることもありましたからね。DNA型に関しては4兆7000億分の1の精度があって、地球上の人口を超えてしまっているから、科学の大勝利ですよね。一卵性双生児を除けば一致しないのだから、神の眼と言ってもいいんじゃないでしょうかね」

――今後、DNA型鑑定等の科学捜査が盛んになっていくことは、犯罪捜査にプラスになることは間違いないですが、あくまでも状況証拠の場合には、容疑者が否認するケースも増えてくるかもしれません。
「練炭で男たちを次から次へと殺した木嶋佳苗(※2009年9月に発覚した首都圈連続不審死事件で死刑判决。現在、最高裁判所に上告中)っているでしょう。あれも証拠が無い訳ですよ。男を部屋や車に残して、彼女が出かけている間に男が死んでいる。状況証拠はあっても、“悪意を持って殺している”という立証にはならない。証拠無き殺人事件だったんだけど、検察が裁判で言ったでしょ、『窓の外には夜空が広がっている。夜が明けると雪化粧になっている。雪がいつ降ったかを見ていなくても、夜中に降ったと認定できる』と。裁判員裁判だから、裁判員たちの心に訴えるテクニックというのも必要になってくるんじゃないでしょうか」

――木嶋佳苗の事件だけではありませんが、警察が犯行当初、被害者を自殺や死因不明と鑑定してしまった為に、次の犯行を抑止できなかったケースもありました。
「変死体を自殺なのか他殺なのか、それとも病死なのか、警察官と一緒に現場に行き、検死するのが監察医ですが、非常に重要な役割を担っています。現場を見ずにただ死体をだけを見てしまうことが、判断ミスの大きな要因になっています。神奈川県川崎市で、老人ホームの職員がべランダから老人を投げて殺した事件がありましたよね。あの事件でも、最初の被害者が出た時にしっかりと検死していれば、その後の事件は防げたのではないでしょうか。ただ死体を検死するだけではなくて、どのような状況で落ちたのか、死体に不自然な点は無かったのか…きちんと観察していれば、単なる転落ではなくて、“何者かに突き落とされた”という証拠を見つけることができたんじゃないのかなと思います。テレビでニュースを見ていて、『自分が行っていればなぁ…』と口惜しい思いをすることもありますよ」

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――実際に幾つもの事件において、上野先生は警察の鑑定と異なる結果を提示されたことも少なくなかったですね。
「茨城県牛久市で、中学3年生の男の子が仲間と喧嘩になり、死亡するという事件がありました。警察から再鑑定を頼まれた大学の教授が、『ストレス性の心筋症が原因で、暴行が死因ではない』という鑑定をしたのです。その教授は死体を大学の解剖の上で見ただけですから、当然、現場の状況はわかりません。死体だけではなく、被害者が着ていた衣服等も含めて鑑定しなければならないのですが、そこまでしていない。私が鑑定を頼まれた際に、被害者がその日に着ていた下着を調べてみると、血尿が付着していたのです。腹部の外圧もあり、暴行によって血尿が出ているのは一目瞭然でした」

――2万体以上検死された経験から、法医学の教科書にも書かれていない事実を突き止めたこともあるそうですね。
「少し前の事件になりますが、栃木県の葛尾というところで、主婦と子供が火事で焼死したのです。『事件の疑いがありそうなので、死体を鑑定してほしい』と警察から頼まれました。解剖された写真を見たのですが、一酸化炭素中毒で死亡した場合や焼死した場合には、生前に呼吸し、気管内に煤が入る筈ですが、気管は綺麗だった。血液にも一酸化炭素が吸い込まれていない。となると、火災が起きた時には既に死んでいたのです。ところが警察は、火災の前に死んでいたことはわかっても、死因がわからなかったから、私のところに来た訳です。頭蓋骨の写真を見て、『殺されているな』とわかりました。頭蓋骨が鬱血していたからです。人は首を絞められると、静脈の血流は止まりますが、それより深いところを流れる動脈の血は流れ続けるのです。そうすると、頭蓋骨には血が流れ続け、鬱血します。脳ばかり見ていてはダメで、入れ物の頭蓋骨もちゃんと見なければわからないことです。この事実は、幾つもの絞殺体を解剖した経験からわかったことで、法医学の教科書に記されていません。つい最近起きた碑文谷公園のバラバラ事件でも、死因は今のところ不明のようですが、若し絞殺されていれば、頭蓋骨を見ればわかると思います。警視庁には電話したんですよ、『私のところに写真送ってきなさい』って。だけど送ってこないですけどね」

――警察側ばかりでなく、弁護側から鑑定を依頼されることもあるそうですね。山口県光市の母子殺害事件では、弁護側からの依頼で、亡くなった母親がどのように首を絞められたかについても鑑定されたそうですね。
「弁護側・警察側、どちらの立場に立つ訳ではなく、亡くなった女性がどのように殺されたのか、死体の状況から鑑定しました。『被告(※当時、現在は死刑囚)の男性は両手で、殺意を持って首を絞めた』と警察は主張していたのですが、首回りの状況を見る限り、両手でやっている形跡は無かった。被告は右手で口を押さえ、左手で被害者の手を押さえていた。そのうち、被害者が抵抗して、首の方に右手がずれ、結果的に首を絞めた…そう鑑定しました。裁判を終えて、取材に来ていた記者から言われたんです。『何で先生は日本一悪い弁護団の肩を持つんだ?』と。私は言ったんです。『それは法医学を知らなさ過ぎる。私は一度たりとも、依頼人に有利になると思って鑑定したことは無いよ。この人はどうやって亡くなったかを明らかにするだけだ。事実をそのまま伝えているだけなんだよ』と。そうしたら、向こうは黙ってしまいました。だけど、記者の気持ちもわかりますよ。妻子を失った旦那さんが、マスコミの前に出て色々と話をしているのを聞いていると可哀想でしたからね」

――監察医の役割は、変死体の状況から事件性の有無を判断しなければならない等、非常に重要であることがよくわかりました。監察医制度が導入されているのは、東京23区・大阪・神戸・名古屋の4都市のみで、その他の地域は地元の医師か大学病院が検死に関わっていると聞いています。
「昨年(2015年)のことですが、発生当初は事故死と判断されたものの、民事裁判になって私が鑑定を依頼されました。死体の写真を見ると、他殺体であることを物語る傷が顔に残っていて、『他殺体である』との意見書を提出しました。すると、民事裁判では殺人であると判断され、保険金の支払いが棄却されたのです。若し、事件発生直後にきちんと法医学の知識がある者が見ていれば、このような事態は生まれなかったでしょう。警察の言いなりになるのではなく、意見できる現場の医師が必要となってくるでしょうね」 =おわり


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