【Deep Insight】(06) 働き方、21世紀型の条件

「アメリカ国内で投資し、雇用を増やせ」――。アメリカのドナルド・トランプ大統領が企業に迫っている。『フォードモーター』・『ゼネラルモーターズ(GM)』・『ウォルマートストアーズ』…。投資を表明した企業を自身のツイッターで褒め称え、成果として国民にアピールする。今月10日に纏まった先月の雇用統計も、製造業を牽引役に好調だった。気分は上々に違いない。しかし、工場をかき集めるような雇用政策は20世紀型で古い。「自動車の組み立てや建設・倉庫管理・レジ係等は自動化が進む」と、人工知能(AI)やロボットの専門家は予測している。これからの雇用の本命にはならない。ならば、どこに注目するか。IT(情報技術)産業だ。AI等を通じ、人の仕事を奪う半面、この業界がイノベーションによって新たな仕事を生み出す力も、また大きい。トランプ大統領は、イスラム圏からの入国を制限する措置でIT企業と対立している。仕事の確保に拘るなら、IT企業が世界から人材を集めてイノベーションを起こすのを促すほうが、実は手堅い。「IT企業は、稼ぐ割に製造業ほどの雇用吸収力はないのでは?」。そんな声が聞こえてきそうだ。確かに、株式時価総額で世界トップ3の『Apple』・『アルファベット』(※『Google』の持ち株会社)・『マイクロソフト』の従業員は、合わせて約30万人。『トヨタ自動車』の連結従業員数を下回る。ここで目を向けたいのは、IT企業が“会社の外”に生み出している仕事だ。例えば、世界に広がるスマートフォン。ニュースや教育、ゲームまで、豊富なアプリの開発者は1200万人に達した。初心者でも、アイデア1つで世界に売れる。Googleの動画共有サイト『YouTube』。自作の動画を世界に発信し、広告等で収入を得るYouTuberは数百万人に上り、年10万ドル以上稼ぐ人も多い。会社側はスタジオを設け、動画の撮影や編集法等を教える。そんな“職業訓練”で腕を上げる。コンテンツ分野だけではない。隙き間時間や、手持ちの資産を有効活用するシェアリングエコノミーも、新たな職を掘り起こす。配車サービスの『ウーバーテクノロジーズ』の運転手は、世界に150万人以上。人だけでなく、食事や荷物を運ぶ仕事も生まれた。自宅の部屋等を人に貸す民泊仲介の『エアビーアンドビー』は、貸し手にとって食費や教育費を賄う副収入を得る手段になっている。自動車産業は、部品や素材等裾野まで含めれば、雇用吸収力は巨大だ。だが、AIやロボットの進化が加速したらどうだろう。強みが逆に弱みに変わりかねない。足元の事情に目を奪われ、20世紀型の雇用政策や働き方の発想を引きずっていないだろうか。

旧来の職の概念を揺さぶる要因は他にもある。長寿社会の到来だ。「50年に及ぶ職業人生活は、1種類の仕事をするには長すぎる」。経営学者のピーター・ドラッカーは、今から15年前の著書『ネクスト・ソサエティ』で予言した。「30年以上存続する企業はほとんどなくなることを覚悟しなければならない」。医療の進歩で、私たちが健康に過ごす時間は延び、70歳を過ぎても働くのが当たり前になる。一方、経営環境の変化は激しく、会社が輝き続ける期間は短くなる。日本では昨年、8446社が倒産し、会社の平均寿命は約24年だった(※『東京商工リサーチ』調べ)。人の寿命と会社の寿命の間に広がるギャップ。特定の会社や仕事に頼り過ぎれば、リスクになる。アメリカでは、そんな時代に対応した働き方も急速に広がっている。ある会社の調べでは、アメリカ国内で独立した個人として働くフリーランサーは、2016年で5500万人。労働人口の3人に1人を占め、年1兆ドルを稼ぐ一大勢力になっている。コンサルティング等の専門職に加え、幅広い産業で個人事業主が増える。自らスキルを磨きつつ、インターネットを通じて仕事を探す人は多い。会社勤めだけでなく、フリーランサーや起業家等、人生の場面毎に働き方を切り替える。時には複数の仕事を掛け持ちする。AIやロボットを味方に、自らの能力を生かし切る――。そんなマルチでフレキシブルな働き方が光を放つのが21世紀だ。では、AIやロボットの進化と、人の長寿化の2つが同時に加速する日本の状況はどうか。「企業の残業時間の上限規制は、繁忙期も月100時間未満とすることで政労使が合意」――。官民を挙げて働き方改革の議論が進むが、長時間労働の是正や同一労働同一賃金等に偏る。女性やシニア等、誰もが生き生きと働ける社会に向けて避けて通れない重要なテーマではあるが、新時代の働き方を実現する為に考えるべきことは多い。「これからは自営的な働き方が増える。変化に適応できる基礎能力を身に付ける教育が大事だ」。神戸大学の大内伸哉教授は、「ITを使いこなす情報リテラシー、契約書が読み書きできる法務リテラシー、資金集めの金融リテラシー等を若いうちに学べる環境を」と訴える。職業訓練の専門機関だけでなく、企業が担う手もあるだろう。状況変化に合わせて多様な働き方ができるよう、解雇規制の見直し等、人材の流動化を促す手立ても欠かせない。世界が内向きに傾き、グローバル化が後退するかに見える間にも、職を巡る環境の変化は止まらない。個人の力を如何に引き出すか。その巧拙が、21世紀の国の成長を左右する。 (本社コメンテーター 村山恵一)


⦿日本経済新聞 2017年3月24日付掲載⦿
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