不必要な矯正治療を子供に強いる歯科医たち――食うに困ったトンデモ歯科医たちが施す歯科矯正の呆れた実態

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日本の歯科矯正人口は年々増加傾向にあり、正確な統計調査は実施されていないものの、矯正治療に使う消費材料から推測すると、約25万人(※2013年データ)と言われている。歯科矯正先進国のアメリカでは、約200万~250万人が矯正治療を受けているというが、人口は約3億人。人口比で考えれば、日本でも今後更に数は増え、約80万~85万人が治療対象者となり、現在の4倍以上になるとの予測もある。読者の中にも、治療経験があるという人は少なくないのではないだろうか。歯科治療の中でも、保険診療を行うことができず、自由診療制で高額な治療費がかかる歯科矯正。今、この歯科矯正治療に、様々な被害事例が報告されているのをご存知だろうか。そしてその背景には、日本の“少子化”が大きく影響している。一体、どんな被害報告が上がっているのか、そしてそれは何故起こっているのか。それを明らかにする為に、昨年9月、日本で初めてできた歯科矯正の治療ガイドラインについて、先ずは知って頂きたい。2016年9月、メディアを集めた記者会見が、『日本歯科矯正専門医学会(JSO)』によって千代田区大手町で行われた。テーマは“歯科矯正初のガイドライン説明”。その内容は、「上の前歯が出ている小児(※7歳から11歳)は、早期の矯正治療を行わないことを強く推奨する」というものだった。ここでいう早期とは、永久歯が生え揃う前の乳歯と永久歯が混じり合った混合歯列期にある子供のことである。つまり、この診療ガイドラインでは、「混合歯列期に上の前歯が出ている状態(所謂“出っ歯”)に対して、矯正治療は行うべきではない」ということを示している。

こうした歯科医師向け診療ガイドラインを作らればならないほど、乱脈治療が行われている現状があるのだ。しかも、この診療ガイドラインは、最も信頼度の高い世界基準『GRADE』で作成されている。厚生労働省に委託されて、エビデンスの普及推進を行っている公益財団法人『日本医療機能評価機構(Minds)』EBM医療情報部にきちんと評価選定されてもいる。Mindsの厳格で公平な評価方法は、現在の国内における最高レベルのものと言っていい。医師も含めて、医療系科学者なら知らない者はいない組織だ。つまり、誰も否定できないほどのガイドラインということになる。この診療ガイドライン作成に携わった大野秀徳さん(JSO副会長・『おおの矯正歯科医院』院長)は、こう話す。「永久歯が生え揃う前の子供に対して、『早ければ早いほどいい』『早く始めれば早く終わる』という矯正治療には、科学的根拠が全くありません。寧ろ、早期治療が不必要に多く行われている現状があります。これに歯止めをかけたいと発表したのが、今回のガイドラインです。乳歯と永久歯が混合している時期に出っ歯の治療をしても、永久歯が生え揃ってから再治療をしなくてはならなくなるケースが数多くあります。こうした必要のない治療を行う歯科医師に警告を発すると共に、患者さんにもこのことを知ってほしいと思ったのです」。今、全国でどのような不必要な治療が横行しているか、その一例を写真と共に紹介しよう。上の前歯が出ている11歳の男児に対して、ある小児歯科医は「このままだと窒息する」と親に話し、歯を抜かずに『リンガルアーチ』という裏側矯正装置を装着した。このリンガルアーチという装置は、無理に歯列を拡げるので、とても痛い。子供は親に「頑張りなさい。綺麗になるから」と叱咤激励され、悼みを我慢して行うことが多い。いい子ほど我慢して頑張るのだ。この男児も約1年間頑張った。しかし、「上の前歯が前に出てきて口が閉じ難い。前歯でものが噛み切れない」という状態になった。そのことを母親がこの小児歯科医に訴えると、「では、唇を閉じられるようになるトレーニングをしよう」と、男児に口を閉じるトレーニングをさせたという。当然だが、そんなことをしても一向に改善しなかった。そこで母親は、理由をこの歯科医師に尋ねると、「親の愛情のかけ方が悪い」「もっと顎を前に出して噛めばいい」と逆に怒られた。この段階で装置代約30万円、調整料約4万5000円を支払い済み。しかも、あろうことかこの歯科医師は、「更に2段階目の治療が必要ですね。治療費が更にかかりますよ」と、約40万円プラス調整料を新たに請求。母親は流石に堪忍袋の緒が切れ、子供を連れて別の矯正歯科専門医を訪ねた。百聞は一見に如かず、左下の写真①がその小児歯科医の“治療後”の状態だ。口は閉じず、前歯は出たままである。

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矯正歯科専門医は、最初にこの11歳の男児の状態を診た時、「またか…」と思ったという。そして、男児に必要な検査を行った後、先ずはこのリンガルアーチを外すことを提案した。その後1年間、何も治療せず、ただリンガルアーチを外しただけで、成長と共に前歯は閉じ、引っ込んできた(写真②)。リンガルアーチによる治療など、全く不要だったことがよくわかる。12歳9ヵ月になり、永久歯が生え揃ったところで、本格的な矯正治療を開始。上の歯の両側の第一小臼歯を抜歯して、上下にマルチブラケット(※ワイヤーとブラケットによる通常の矯正装置)を付けた。そして、約2年10ヵ月で治療は終了した(写真③)。この男児は、「矯正治療をしてよかった。お母さんと妹から『綺麗になったね』と言われて嬉しい」と話したという。この男児のケースは、決して稀な例ではない。このような不適切な治療が、今も全国で行われているのだ。筆者は2010年から2016年まで、東北・北陸・信越・関東・中部・四国・九州と全国で14回に亘って、矯正歯科専門医たちと、安心安全な矯正治療の正しい知識について無料の市民公開講座を開き、啓発活動を行ってきた。参加者は全国で約1700人。想像以上に切実で、矯正器具が入った子供を連れて会場に足を運ぶ親の姿が多く見られた。中にはリンガルアーチを入れている“未就学児”の姿さえあり、愕然とした。あくまで私見だが、全国を回って講演を行っている感触では、この7年間で状況は更に悪化しているように思えてならない。「小学校低学年の混合歯列期の子供に対する不適切な治療を減らしたい」と思っていたが、それどころではなく、未就学児にまで不必要な矯正治療が行われている現状が、全国にある。

参加者からの質問には、不適切で不必要な治療を勧められ、戸惑っている様子の言葉が次から次と出てくる。「1歳半の娘が受け口です。『3歳から治療ができるマウスピースがある』と近所の歯医者さんで聞きましたが、その治療はどうなのでしょうか?」「娘の小学校では、“早めに始める”・“骨を拡げる”・“歯を抜かない”・“矯正器具が裏側で見えない”と謳っている歯科医院で矯正をしている子が多く、うちの子もすべきか迷っています。永久歯が生える前に歯が生える場所を作ってあげたら綺麗に歯が揃うそうですが、もう始めたほうがいいのでしょうか?」「7歳の息子は、上の前歯2本と下の前歯4本が永久歯です。通っている歯医者さんから、顎を拡げる矯正を勧められています。顎が狭いらしく、『上の2番目の歯が生えてからでは遅い、早急に拡大しないといけない』と言われました」「9歳の娘です。今通っている歯科医院に、顎を拡げる矯正を勧められました。『永久歯に全て生え変わってしまうと、鼻腔が狭くなったり、体に悪い影響が出るかもしれない』ということです。今、歯並びは悪くなく、不調も無いので、本当に矯正治療が必要なのか不安です」。更に、『日本臨床矯正歯科医会』が行った2014年の調査によると、他院で歯科矯正治療中の患者から、セカンドオピニオンや転院の相談を受けたことがある歯科医院は61%にも上る。その相談の内、不適切な治療の相談は実に56%もあった。つまり、歯科矯正の現場では、患者にとって満足のいく治療が行われていない現状があるのだ。何故、子供たちに対して不必要な治療が増えているのか? その背景にあるのが少子化だ。加えて、歯科医師の過剰も影響している。ご存知の通り、子供の数は減る一方。それに対して、昭和57(1982)年に6万人未満だった歯科医師が、平成26(2014)年には10万人を超えている(※平成26年厚生労働省歯科医師調査の概況より)。歯科医師の増加に反して、国民医療費に占める歯科診療医療費の割合は年々減少し、約7%となっている(※平成24年厚生労働省国民医療費より)。更に追い打ちをかけるように(※歯科医師にとっては、だが)、乳歯期も永久歯期も子供の虫歯の数が減っている。つまり、歯科医師の診療報酬が激減しているのだ。歯科医師になっても、昔のように充分な報酬が受け取れない時代になっている。その為、歯学部で定員割れを起こしている大学もある。この問題は、歯科医師数を人口に合わせてコントロールしてこなかった国の責任もある。少子化に加え、予防歯科の知識の向上により、歯の健康ケアが行き届き、皮肉にも歯科医師の収入は減り、自由診療の矯正治療は、今や歯科医師にとって重要な稼ぎ口となっているのである。その為、矯正歯科の専門知識が無いにも拘わらず、矯正治療に手を出す歯科医師が増えてきているのだ。前述の11歳男児に不適切な治療を行ったのも、矯正歯科専門医ではなく、小児歯科医だ。

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今、日本に歯科医院は約7万軒、コンビニエンスストアより多いと言われる。日本の歯科医師は約10万人。その内、矯正歯科の看板を出している(標傍する)歯科医師は約2万2000人以上。しかし、矯正歯科の専門教育を受けた者は約3000人に留まっている(※平成27年厚生労働省医療施設動態調査、平成26年厚生労働省歯科医師調査の概況より)。ということは、単純に計算すると、専門教育を受けていない約1万9000人の歯科医師が、矯正治療に手を出していることになる。日本の歯科医師法は自由標傍性で、専門知識が無くても、歯科医師であれば矯正歯科の看板を上げられる。しかしながら、「矯正歯科は専門性の高い総合治療で、歯学部の6年では専門知識の習得は終わりません。矯正専門医になるには、卒業後、専門研修を5年以上受け、経験を重ねる必要があります」と、前述の矯正歯科専門医である大野さんは話す。今回のガイドラインは、「せめて、幼い子供に対する不適切・不必要な治療に歯止めをかけたい」と願った矯正歯科専門医の有志による強い正義感からできたものだ。想像に難くないだろうが、被害は勿論、子供だけではない。大人の矯正にも不適切な治療は多く見られる。「抜かないで治せる」「取り外し可能なマウスピースで手軽に治せる」「短期間で費用が安価で治せる」等と耳障りのいい言葉を謳った歯科医院は少なくない。「できれば歯を抜きたくない」「矯正器具を付けたくない」という患者の気持ちにつけ込んだ医療だ。抑々、日本人(東洋人)は顎が小さく、奥行が狭い。8割以上の日本人は、少なくとも上下の左右各1本は抜歯しないと、正しい矯正治療ができない。患者の状態を見もせずに、最初から「抜歯せずに矯正します」と謳う医院は信用できない。抜歯しない矯正治療は、到底入り切る筈がない顎に、無理矢理歯を押し込もうとすることだ。不適切な非抜歯治療を行うと、行き場を失った歯は前に出るしかなく、カッパのように歯が前に出て、口が閉じられなくなる可能性が高い。

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また、短期間での矯正や、マウスピースのみで行う矯正、手軽さを強調する医院にも注意したい。「専門的な知識と経験があれば、短期間矯正やマウスピース矯正を安易に謳える筈がない」と、良識ある専門医は口を揃える。着脱可能なマウスピースは、食事中や外出時等、どうしても自分で取り外してしまう時間が増える。矯正治療は、歯を動かしたい方向へ力をかけることで、歯根膜で起きる破骨細胞や骨芽細胞の作用を利用して行う治療だ。取り外し可能な器具では、歯が移動し辛く、逆に時間がかかってしまう。結局、マウスピース矯正をした後、ワイヤーとブラケットの通常の矯正治療を行うことになったりする。また、昨今、導入する歯科医師が増加傾向にあるインビザラインは、約2週間毎に装着し直す矯正用歯型を、コンピュータと3Dプリンターで作製する最新治療で、知識を持たない歯科医師に人気だが、微妙な噛み合わせが調整し難く、専門医の技術には到底敵わない。結局、矯正治療で最も有効なのは、表側にワイヤーとブラケットを付ける従来の方法なのだ。「治療に何年も通って、歯並びが改善されないばかりか、却って歯が前に出たり、顎関節症や頭痛が起こったり、歯が噛み合わずものが噛めなかったり、高額な費用をかけたのに結局元に戻ってしまったり…そんなケースも多数報告されていて、やり直し治療の為に私たち専門医の下に来る患者さんも少なくありません」と話すのは、JSO会長の池元太郎さん(『池矯正歯科医院』院長)。矯正治療を希望する患者が、最初から専門医の下に辿り着けないのは、一体何故なのか? その理由の1つは、専門医制度改革の遅延にある。矯正歯科を標傍する歯科医師数は約2万2000人以上。その内、矯正歯科の専門教育を受けた者は約3000人のみと前述した。しかしながら、最初に日本矯正歯科学会が技能評価をしないまま“認定医”を出してしまった為、3000人全員が一定の基準以上の臨床能力を持っている訳ではない。この問題を解決する為に設立されたのが専門医制度なのだが、現在、この矯正歯科専門医の認定を受けている者は、全国で約460人に過ぎない。

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しかも現在、矯正歯科専門医制度を運営している機関は統一されておらず、『日本矯正歯科学会』・『日本歯科矯正専門医学会』・『日本成人矯正歯科学会』の3団体が行っている。この状況を流石の厚生労働省も問題と感じたのか、3団体に共通の基準作りを検討するよう指導した。2011年1月に3団体の代表者が懇談会を開き、外部に審査機構を創設する案を作成。しかし、6年経った今でも、一部の団体の利権が絡んでいるからなのか、各理事会の承認が得られず、専門医制度改革は進んでいない。この現状で私たちが安心安全な歯科矯正治療を受けるには、大前提として、一般歯科医ではなく、前出の3団体の歯科矯正専門医を探すことしかない。専門医なら一定以上のスキルがあると考えられる。ただ、現在の法律では、矯正歯科専門医であることを看板や広告には謳えない為、3団体や各歯科医院のホームページ等から確認する他ない。更に治療開始前に、①頭部側面のレントゲン写真(※矯正専用のレントゲン)②顔写真③口腔内写真④歯のレントグン写真(パノラマ)⑤歯列模型――の最低限必要な5つの検査資料を作るかどうかも、安心安全な矯正治療を行える歯科医師かどうかの重要な判断材料になる。また、治療開始前、治療方針と共に治療終了までの総費用と治療期間を最初に提示できるかどうかも、実力を測る指標になる。実力のある専門医なら、余程のことが無い限り追加料金は発生せず、治療期間が大きく延びることもない。何年かかっても治療が終わらず、歯並びが改善しなかった患者が、専門医でセカンドオピニオンを受けたところ、やり直し治療の内容・治療費・治療期間が告げられた。その患者は、それを持って、これまで通っていた歯科医師に返金を求めたところ、治療費が返還されたというケースもある。全てが戻ってくるとは限らないが、納得のいかない治療には返金を求めてみてもよいと思う。治療に数年という時間がかかり、大人なら約70万~150万円という高額な治療費がかかる矯正治療だからこそ、後悔しない治療を行いたい。 (取材・文/医療ジャーナリスト 増田美加)


キャプチャ  2017年4月号掲載




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