【“地震予知”という名のニセ科学】(02) 「地震の直前予知は不可能と言って差し支えありません」――島村英紀氏(地震学者)インタビュー

本連載のテーマに、快く取材に応じてくれる地震学者はいなかった。大地震の度に研究予算が焼け太った歴史を見れば、その意味もわかる。「これ以上、国民に誤解を与えてはいけない」――。気鋭の地震学者が語り始めた。 (聞き手・構成/フリージャーナリスト 村上和巳)

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――本書のテーマで取材に応じて頂ける地震学者の方を探すのには、本当に苦労しました。
「今は、地震予知の予算を貰える大学を離れた立場だから、思ったことを話せますが、未だ在籍していたなら、この取材は受けられないでしょう。地震や火山の研究の大半は国の予算で行われる為、地震予知自体を完全に否定するような発言はできません。薬の研究なら製薬会社等のスポンサーが付きます。地震学者は国の予算に頼るしかなく、“御用学者”にならざるを得ません」

――地震予知を否定すること自体がタブーなのでしょうか?
「嘗て北海道大学の研究者として在籍した時、雑誌に『地震予知は不可能だ』とする原稿を書いたことがありました。直ぐに大学本部に呼び出され、恫喝されましたね。文部省(現在の文部科学省)から出向している北大の事務局長を始め、数人に囲まれ、私の発言が掲載された記事のコピーを目の前に置かれ、『どういうつもりでお前はこれを書いたんだ!』って。彼ら官僚にとっては、獲得した予算は“勲章”であり、将来においても決して減らせないもの。研究を否定するような発言はできない」

――そんな中、『“地震予知”はウソだらけ』(講談社文庫)等、地震学者たちを敵に回すような著作を出版する等、現在も精力的に活動を続けています。
「国民の皆さんに、地震学が何を目指しているのか、きちんと伝える必要があります。予知の幻想を振りまくのではなく、できること・できないことを明確にし、地震学者が信頼されなければなりません。その為、『恥を忍んで語る必要がある』と思っているからです。そう考えている学者は私だけではありません。例えば、ご指摘の著書の講演会を行った際、その後の懇親会で地震学者からサインを求められました。『本当に言いたいことを言ってくれた』と。その他、『私も定年したら、島村さんのように言いたいことを言いたい』等と話す地震関係者は少なくありません」

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――語る必要がある“恥”とは?
「元々、日本の地震予知は1962年、当時の地震学者有志が発表した“ブループリント”に始まります。『10年間観測すれば、地震予知実現の可能性がわかる』として計画されたものです。1977年には当時、東京大学理学部助手だった石橋克彦氏(※現在は神戸大学名誉教授)が、凡そ150年周期で発生すると考えられていた東海地震の危険性を問うた“駿河湾地震の可能性”というレポートを発表。『いつ地震が始まってもおかしくない』という切迫した内容を受け、1978年に大規模地震対策特別措置法(大震法)が成立。しかし、あれから半世紀、想定された東海地震は起こらず、一度も予知には成功していない」

――未だ当時は地震予知が信じられていたのでしょうか?
「1966年にソビエト連邦で地震が起こった際、『深井戸から汲み上げた地下水のラドンの含有量が、地震前に大きく増えた』という学説が話題になりました。1975年に中国で起きた海城地震では、前震から住民を避難させ、被害を最小限に食い止める等、地震予知に対する期待はあったと思います」

――「地震には前兆現象がある」と。
「はい。当時の国内での地震予知研究は、そうした“前兆現象”を捉えることに終始していました。しかし、中国では海城地震の翌年、確認される前兆現象もなく、20世紀最悪と言われた唐山地震が起こり、25万人とも言われる死者が出ました。1970年代から1980年代にかけ、地殻・電離層・動物等、あらゆる前兆現象が研究されましたが、統一的な現象を確認するには至らなかった。“東海地震の予知を前提”とした大震法が成立した時、私の感覚では地震予知が本気で可能だと思っていた日本の地震学者は、全体の3割程度だったのではないかと思います」
「しかし、予知が困難とわかっていながらも、大震法が成立し、地震予知の為の予算が潤沢に科学者に配分されるようになります。そして何をするかと言えば、相変わらず前兆現象を探すしかない。例えば、天気予報には大気の運動方程式があり、その方程式に全国1300点余りもあるアメダスや、気象庁のラジオゾンテのデータを入れれば、天気が予測計算できます。ところが、地震予知も火山の噴火予知も、肝心のその方程式が未だ無い。その為、次善の策として、前兆現象の研究しかない」

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――ただ、現実として、我々がその前兆現象を聞かされるのはいつも“震災後”。地震予知の役には立っていません。最初に地震学者への風当たりが強まったのは、阪神淡路大震災かと思います。
「国民の多くも、地震と言えば東海地震という思い込みができていたと思いますし、予知の実現を掲げた以上、『予知されない神戸に地震は来ない』という誤解もあったと思います。当時、地震予知連絡会の会長だった茂木清夫氏(※現在は東京大学名誉教授)の自宅には、『お前のせいでこんなことになった』と真夜中でも批判の電話がかかってきたようです。私自身も、当時の北海道大学内で『あれだけ国から予知研究予算を貰っているのに、あのレベルの地震を予知できないのですね』と、事ある毎に陰口を叩かれました」

――政府に対する風当りも強く、政府の『地震予知推進本部』が廃止され、現在の『地震調査研究推進本部』になりました。
「ただ、これは看板の付け替えに過ぎません。それどころか、新たな本部の下で、この震災で注目された活断層調査に新たな予算が付けられ、謂わば予算の焼け太りの状況になりました。先日の熊本地震を引き起こした活断層は、30年以内の地震発生確率が“ほぼ0~0.9%”。こうした数字を出すことに意味があるのか、疑問に感じます。活断層自体は全国に2000あるとされ、東京のような堆積物の多い場所での活断層の発見は困難。尤も、『熊本では別の活断層が地震を引き起こした』という学説すらあります」

――前兆現象に関する研究も引き続き行われていますが、未だ効果はありません。東日本大震災がいい例です。
「そうですね。東日本大震災の震源の近くでは、実は2日前にM7.3の地震が起きていたのです。当時、地元の河北新報の取材に、東北大学地震噴火予知研究観測センター教授の松澤暢氏が、『この地震でかなりの地震のエネルギーが解放された』とした上で、『大規模な地震に繋がるものではない』と答えてしまいました。結局、想定東海地震を軸に前兆現象の掌握に頼っていた地震予知は、M9クラスの海溝型地震ですら、何が前兆なのかも掴めていないことが、白日の下に曝された訳です」

――これ以上、地震の調査研究を続ける意味はあるのでしょうか?
「先ず、結論から言うと、現状では地震の直前予知は不可能と言って差し支えありません。ただ、4つのプレートが交差する日本は、世界の地震の約20%が発生する世界でも指折りの地震大国。裏を返せば、地震のメカニズム解明の為の研究には最適な場所でもあります。『地殻変動の研究を続けていけば、いつか天気予測のような方程式が見つかるのではないか』と、個人的には希望を捨てたくはありません。ただ、『今までの大地震の前に前兆が見つからなかったのは、未だ地震や地殻変動等の観測点が足りなかったからだ』という考えの下、無限に観測点を拡大し、予算が拡大している現実もある。それも、予算自体が複数の省庁・機関に分かれており、きちんと情報が共有されているとも考え難い。大震法の見直し議論が始まっていますが、これを機に、地震の調査研究に関しても、改めて議論をしていく必要があると考えます」


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