【崩壊する物流業界】(07) 異次元の会員サービス…『Amazon.com』は止まらない

20170417 08
ポチッとボタンを押すだけで注文が完了し、直ぐに商品が届く――。国内でインターネット通販(EC)の競争が益々激化する中、世界でトップを行く『Amazon.com』は、“異次元”の会員向けサービスを生み出している。同社が昨年末に日本での販売を開始した『アマゾンダッシュボタン』は、約40ブランド(約700種類)の食品や日用品を対象にした手の平大の注文専用ボタンだ。各商品のロゴが印字され、壁やタイルに張り付けたり、フックに引っ掛けたりできる。「“必要な時に生活必需品が無かった”という嫌な経験は、誰にでもある筈。ダッシュボタンは、このようなことを無くす為に生まれた」。Amazonで同事業を統括する担当ディレクターのダニエル・ラウシュ氏は、サービスの狙いをそう語る。ボタンは無線LANに接続して使用する。Amazonのショッピングアプリからボタンの注文内容を設定し、あとは備蓄が少なくなった時に押すだけ。スマートフォンやPCでサイトにアクセスしなくても買い物でき、早ければその日のうちに商品が届く。シャンプー・洗剤・紙おむつ・飲料水等、消耗品の購入に重宝されているようだ。ボタンは1つ500円で販売されているが、ボタンを使った初回購入時に500円相当の値引きを受けられる為、実質無料で手に入る。重複発注を防いだり、一定時間内の注文を取り消したりする機能も付く。Amazonが長年、成長戦略の中核に据えてきたのは、年会費3900円の会員制プログラム『アマゾンプライム』のサービス拡充だ。冒頭のダッシュボタンも、やはりプライム会員向けの施策の1つ。同社は詳細な数を発表していないが、アメリカの調査会社によれば、Amazonの主戦場であるアメリカのプライム会員数は、昨年9月に6500万に到達した。日本の会員数も年々増加しており、ここ数年間維持している2桁増収(右図)を下支えしている。

プライム会員向けのサービスは実に幅広い。今や、これが各国で競合との差を広げる為の、Amazonの最大の武器になっている。先ず、販売サイト上でプライムのマークがついている商品なら、当日・翌日の配送、日時指定配送を無料且つ無制限で利用できる。また、食品や日用品を好きな組み合わせで1箱に纏めて配送してくれる『パントリー』(※日本では2015年9月開始)、最短1時間以内に配送してくれる『プライムナウ』(※同2015年11月開始)等、生活スタイルに合わせて選べる色々な配送形態がある。更には音楽聴き放題・動画見放題・写真データ保存し放題等、ECとは直接関係ないサービスまで近年急速に拡充してきた(左下表)。配送関連のサービスだけを取っても、『楽天』が展開する即時配送サービス『楽びん!』等、部分的に競合するものはあるものの、会員サービスとしてここまでの種類を誇るEC業者は無い。プライム会員向けサービスを急速に拡充できた要因の1つは、Amazon独特の物流技術にある。只でさえ流通総額が膨らんでいるのに加え、これだけ注文・配送方法が多様になれば、物流拠点にかかる負担は大きい。そこでAmazonは、倉庫内作業を効率化する技術開発に世界規模で投資を行っている。神奈川県にある『川崎フルフィルメントセンター』内で昨年8月に運用が始まったのが、可動式の棚を使った『アマゾンロボティクス』だ。欧米では既に導入され、棚入れ・品出し作業の効率化に一役買っている。従来の倉庫では、注文のあった商品を指定の棚まで取りに行く為に、従業員がピッキング作業用のカートを押し、フロアを往来していた。川崎FCのロボティクスが導入されたフロアでは、従業員は1つのブース内に留まり、“ポット”と呼ばれる棚が従業員の元へやって来る。各ブースにはモニターが設置されており、到着したポットのどの部分から商品を取り出せばいいか、画像付きで表示される。従業員はそのガイドに従い、ピッキングすればいい。そして、注文された商品が揃うと、次は梱包の工程へとベルトコンベャーで自動的に搬送される。FCに運ばれてきた在庫を棚入れする作業も、これと同様、従業員が動き回らずに行えるようになった。ポットを動かすのは、“ドライブ”と呼ばれる1台約145㎏の機械だ。これが最大で約340㎏になるポットを下から持ち上げる。進む速さは秒速1.7mと、人間の早歩き程度。床にあるバーコードを頼りに、自らの位置を肥握し、他のポットとぶつからないように目的地まで最短距離ですいすい動いていく。ロボティクスの導入により、限られた人員でも効率的に作業できるようになったのは勿論、「歩いて作業しなくて済むので、女性や年齢層の高い従業員でも作業し易い職場環境になった」(Amazon担当者)。国内の他の拠点への導入についてAmazonはコメントしていないが、物流業界全体が人手不足に苦しんでおり、使われる可能性は十分ある。勘違いされがちだが、Amazonは巨大倉庫への投資だけで多様な配送スタイルを実現している訳ではない。顧客の要望に応じて素早く届ける為、都市部にも配送拠点を持つ。Amazonが提供するプライム会員向けサービスの中で、配送にかかる時間を極限まで縮めたのがプライムナウだ。所要時間が1時間以内の“1時間便”(※1回当たり980円)と、2時間単位で配送枠を指定できる“2時間便”(※無料)から選べ、会員サービスの目玉となっている。

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同社はナウのサービス専用のセンターとして、東京・神奈川・大阪に全部で5つの拠点を構える。東京都豊島区にある『アーバンFC豊島』もその1つだ。『東京メトロ』有楽町線の要町駅から徒歩5分程度、駅前から続く大通りを一歩住宅街に入った場所にある。2階建ての事業所の大きさは明かされていないが、通常の倉庫より遥かに小さい。倉庫に適した安くて広い拠点を都市部で確保するのは難しいからだ。では、どう運営しているのか? 「コンパクトな拠点だからこそ、経験をフルに生かして厳密な需要予測を立て、メリハリをつけた品揃えをしている」(『アマゾンジャパン』プライムナウ事業部の永妻玲子部長)。色やサイズ等が豊富な商品は、思い切って売れ筋に寄せてストックする。ピッキングを行うフロアには、食品・飲料・日用雑貨・文房具等が所狭しと並んでいるが、よく見ると同じ商品が1つの棚に固まっておらず、彼方此方に分けて配置されている。売れ筋商品の棚に複数の従業員が同時に向かうことで、作業がもたついたり、渋滞を起こしたりするのを防ぐ為の工夫だ。Amazonが長年の運営で培ってきたノウハウが、ナウの狭い拠点で生きている。準備ができた荷物を配達するのは、Amazonが委託した業者だ。ナウの直近の対象商品数は6万5000点と、開始当初の3.5倍に増えている。現在は5拠点でカバーできるエリアの配達に限られているが、アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は「早期の全国展開を目指す」と語る。ナウの拡大が、国内で“Amazon経済圏”をより強固なものにするカギを握るのは間違いないだろう。また今年中には、生鮮食品を配達する『アマゾンフレッシュ』が始まるとみられる。本拠地のアメリカでは様々な業態を開発しており(※詳細は次回)、日本のサービスも益々多様化するのは間違いない。利便性が上がってAmazonを利用する消費者が増えることは、翻って『ヤマト運輸』を始めとした宅配業者の負担が更に増すことを意味する。配達員にとっては、背筋が寒くなる話だろう。

■昼食タイムを変える『UberEATS』の吸引力
「最早、無くてはならない存在です」――。東京都内のIT企業に勤める30代男性は、『UberEATS』についてそう話す。男性が働くオフィスには昼食時間帯、黒い箱を背負う配達員がほぼ毎日出入りする。ウーバーイーツは、配車アプリの巨人こと『ウーバーテクノロジーズ』が手掛ける“出前”のサービスだ。ユーザーは、専用アプリ内のリストにある店の料理を注文すると、凡そ30分~1時間後に指定の場所で受け取れる。料金は店頭価格と基本的に同じで、事前登録したクレジットカードから引き落とされる。ウーバーイーツの特筆すべき点は、届ける人が注文した店の従業員ではなく、ウーバーから仕事を請け負った“配達パートナー”であることだ。配達パートナーには、ウーバーの研修・審査を受けるだけでなれる。働く時間や曜日を事前に決める必要はなく、働ける時間帯にスマートフォンの専用アプリをオンにすると、ウーバーがGPSで場所を把握し、近くの配達案件を割り振る。それから指定された店に料理を取りに行き、注文した人まで届けるのが仕事の流れだ。給料は1回の配達につき、走行距離や繁忙期・繁忙時間帯のインセンティブを考慮して算定される。簡単に登録・就業できる形式だが、品質管理には拘る。ユーザーは商品を受け取った後に、アプリで配達員の評価を付ける。この評価が高いほど、優先的に仕事を割り振られる仕組みになっている。効率的に稼ぎたければ、顧客対応に気を配らなければならない。日本でのサービスは昨年9月に始まり、現在は東京都渋谷区・港区・新宿区・世田谷区・千代田区等で展開する。注文数は、会社側の類定を上回る勢いで増加しているという。12月からは即時配達に加え、日時指定配達(※1時間後から1週間後まで30分間隔で指定)も開始した。手の空いた時に注文できる点や、直ぐに売り切れる有名店の料理を事前に注文できる点が好評で、ユーザーの獲得に弾みがつきそうだ。 (取材・文/本誌 長瀧菜摘)


キャプチャ  2017年3月4日号掲載




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