【Global Economy】(32) “アメリカ第一”、原油も増産…パイプラインで低コスト

アメリカのドナルド・トランプ政権が、原油の生産拡大に向けて攻勢を強めている。中東の産油国は、原油価格の下落やアメリカへの輸出減を警戒し、火花が飛び交い始めている。 (本紙経済部デスク 小谷野太郎・ニューヨーク支局 吉池亮・有光裕)

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カナダとの国境に近いノースダコタ州キャノンボール近郊。一面に広がる丘陵地で、原油を運ぶ『ダコタアクセスパイプライン』の建設工事が行われていた。雰囲気は物々しい。有刺鉄線が張り巡らされ、警備車両も目を光らせる。電光掲示板には“CAMP CLOSED(キャンプ閉鎖)”と表示されている。建設に反対する地元の先住民が、抗議活動でテントを張らないように呼び掛けているのだ。先住民にとり、近くのミズーリ川は、生活用水や魚の採取等に利用する“命の水”。万が一の事故で原油が漏れて川が汚染されれば、生活が脅かされる。全長約1880㎞に亘るパイプラインの建設は、ほぼ完了している。だが、バラク・オバマ前大統領は先住民の反発を考慮し、ミズーリ川に近いこの一部区間の工事を認めなかった。トランプ大統領は、オバマ時代の方針を転換した。就任直後の1月24日、ダコタアクセスを含む2本のパイプラインの建設を推進する大統領令に署名。エネルギー産業の規制緩和を進め、アメリカの原油生産を拡大する考えだ。同州はダコタアクセスの起点だ。約10年前にシェールオイルの採掘に成功し、州の原油生産量は約4.3億バレル(2015年)と、テキサス州に次ぐ全米2位だ。 しかし、主要都市まで遠い。鉄道で原油1バレル当たり約10ドルかけて運んでおり、価格競争では不利だった。ダコタアクセスは来月にも操業を始める。大消費地の東部等に原油を1バレル当たり3ドル以下で届けられるようになる。州石油評議会のロン・ネス議長(51)は、「パイプラインを使えば、低コストで安全に運べる」と稼働を待ち侘びる。ノースダコタ州にとり、販売する原油が増えれば、石油会社の収益増で法人税や石油税等の増加も期待できる。州は、パイプライン効果で年1億ドル(約110億円)規模の歳入増を見込む。州政府で税務を担当するライアン・ローシェンバーガーさん(34)は、「この2年は原油安で大変だったが、今年は歳出力ットを緩められそうだよ」と笑顔を見せた。

値下がりしたノースダコタ産原油の利用がアメリカ国内で増えれば、その分、中東等から輸入する原油が減る可能性がある。トランプ大統領は先月、「アメリカのエネルギー価格を下げ、海外依存も減らす。数千の雇用も生み出す」と述べ、「パイプライン建設が原油の中東依存からの脱却に繋がる」と強調した。トランプ大統領がゴーサインを出したもう1本は『キーストーンXLパイプライン』(※全長約2700㎞)。ここも、オバマ前大統領が環境への影響を理由に建設を認めていなかった。カナダ南西部の“オイルサンド”から取れる原油を、メキシコ湾岸のテキサス州ヒューストンまで運ぶ。直径90㎝のパイプラインで、日量83万バレルの輸送能力を持つ。オイルサンドから取れる原油は、粘り気や硫黄分の多い重質油で、大型ボイラーの燃料やアスファルト等になる。ただ、重質油は高度な精製設備が必要だ。アメリカ国内でこうした設備は、メキシコ湾岸に集中する。キーストーンが完成すれば、カナダ産原油がアメリカ国内で広く利用されるとみられる。現在、アメリカは原油を国内で日量約900万バレル生産し、約800万バレルを輸入する。一方で、約70万バレルを輸出している。輸入の大半は重質油だ。うち約200万バレルは、サウジアラビア等の中東産。中東から船で輸入するよりも、カナダからパイプラインで運ぶほうが運送コストは安い。カナダからの重質油の輸入が増えれば、こちらも「サウジアラビア等からの輸入が減るとみられる」(『経済産業研究所』の藤和彦氏)。トランプ大統領は就任初日の1月20日、『アメリカファーストエネルギー計画』を公表した。“気候変動対策のような有害で不必要な政策の中止”や“アメリカ石炭産業の再興”と共に、“推計50兆ドル(約5500兆円)分の未開発のシェールオイルや天然ガスの活用”を掲げた。大統領選でトランプ氏を支持したのは、東部から中西部に広がる“ラストべルト(錆び付いた工業地帯)”に暮らす白人の中間層だ。この地域はシェールオイルや石炭の巨大産地。シェールオイルの生産がより活発になれば、地元の雇用や税収も増え、彼らの生活の向上に直結する。トランプ大統領にとり、シェールオイルの活用や石炭産業の再生は、支持を繋ぐ為の格好のテーマでもある。アメリカのエネルギー関連企業は、投資を加速している。『エクソンモービル』は先月、「メキシコ湾岸に製油所等を整備する計画に、約200億ドル(約2兆2000億円)を投じる」と発表した。『シェブロン』も、南西部でシェールオイルの増産に向けた投資を始めた。アメリカが原油の“自給”を増やし、パイプラインによる低コストの輸送網も広がることは、アメリカを原油の主要な輸出先とする中東諸国にとって脅威だ。トランプ大統領のエネルギー政策は、世界の原油生産の勢力図を塗り替える可能性がある。

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■中東諸国は警戒
トランプ政権のエネルギー生産拡大の方針に、中東諸国は身構えている。先月上旬にヒューストンで行われたエネルギー業界の国際会議で、アメリカと『石油輸出国機構(OPEC)』諸国の関係者が、トランプ政権誕生後、初めて対面した。この中で、5日にはOPEC関係者とアメリカのシェール企業の幹部が、異例の会合を開いた。表向き「原油市場の均衡が望ましい」ことで一致したものの、腹の探り合いがなされた模様だ。7日には、サウジアラビアのエネルギー産業鉱物資源担当大臣であるハリド・ファリハ氏が、アメリカ側に「(OPEC等の減産合意の効果への)ただ乗りは許されない」とクギを刺した。OPEC等の産油国は昨年11月、8年ぶりの減産で合意した。その後、価格は持ち直し、1バレル=50ドル前後で推移している。減産で原油価格が保たれても、アメリカがシェールオイルを増産すれば、世界の原油供給量が増えて原油価格が下がり易い。「減産効果が打ち消される“負のサイクル”が延々と続く」(『SMBC日興証券』の丸山義正氏)ことになる。OPECの減産合意は6月末が期限。今後、延長の是非を協議するが、多くの加盟国は延長を支持する見通しだ。アメリカにとって、原油の中東依存度の低下は、政治的な“中東離れ”に繋がる可能性がある。一方で、アメリカによるシリア攻撃もあり、トランプ政権と中東諸国は微妙な関係が続きそうだ。


⦿読売新聞 2017年4月14日付掲載⦿




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