【オトナの形を語ろう】(21) 出逢いがあれば別離が来る…それは逃れることができない

先週は、今春亡くなった師であり、友であった人と1年の350日余りを酒場で過ごし、その人の酒の飲み方・酒場での過ごし方を見ながら、自分に欠けていたものがこれほどあったのかと学んだことを話した。――何が欠落していたのか? 何が欠けていたかというと、これは大人の男が生きる上での肝心が欠落していたのである。その頃の私は、今から考えると、「自分だけが良ければいい」と思っていたのだろう。他人から見れば、友や後輩の為に平然と逆う者に向かって行っていたが、どこか心底では「自分が上手く世渡りができればいい」と思っていた気がする。ところが、その人の生き方には、そういう自我が、全ての物事の見方で最優先していなかった。私は10年という歳月の大半をその人と過ごし、「自我だけを押し通す生き方が恥ずかしい生き方なのでは?」と思うようになった。例えば、「他人より裕福になることがそれほど重要なことではない」と思うようになったし、カネのことばかりを考えている人間は、一晩共に飲んでいれば、如何に大人の男として卑しいのかがわかるようになってきた。若し、このことが、どこかで一度だけセミナーか何かを聴講に行き、そこで聴いたものなら、恐らくそれは身には付かなかっただろう。それどころか、大人の男の生き方で何一つ大事なものを学ぶことはできなかっただろうと思う。

今、振り返って思うと、「人間が何事かを学び、体得するということには、やはり時間がかかるものなのだ」とわかる。一昔前まで「酒場は大人の男になる為の学校」等と言ったが、私にとってはそれは真実であった。その人に勧められて小説を書くようになったが、若しかして、書き始めた小説のファーストリーダー(※最初にそれを読む人)は、その人だと思って書いたのではないかと思う。よく、「小説は読者に向かって物語なり、作家の主張を書く」と言われるが、読者などというものは、その姿はおろか、顔・かたちも見えないものである。「そんなあやふやな人に向かって、何がどう書けるのか?」と、今でも私は思っている。古今東西の小説で、名作(こういう言い方もおかしいのだが)と呼ばれる作品が完成し、世に評価されたものをよくよく見てみると、その大半は、その時に共に暮らしていた恋人なり、家族、そうでなかったら友人のことを意識して書かれたものである。そこにファーストリーダーが存在していたのは事実である。そうでなければ、作品を評価し、励ましてくれる人がいなくて、作品は完成に至らない。その人は、私が小品の小説を書き上げる度に、「伊集院はん、えぇな、えぇで、最高やで」と、どんな作品でも誉めてくれた。具体的にどこがどういいのかは一切言ってもらえなかったが、その一言が言ってほしくて、私はせっせと書き続けていたような気がする。

小説に限らず、若い人が何事かを(仕事でもいいが)なそうとする時、そこに必ず応援し、励ましてくれる人がいるものだ。そういう人に逢えたことが私の好運であったし、それが全てであったように思う。その人が亡くなった今、空虚なものが波のようにやって来るのは、それは仕方がないことである。出逢いがあれば必ず別離がやって来るのは、人が生きる上での必至なものである。それは逃れることができないものなのである。どうにかして、その切ない感情を無視して逃げ切ろうとしてみても、これは逃れ切ることはできないのだ。私はよく、後輩から「“喧嘩の作法”を教えてほしい」と言われる。その時、私は「喧嘩など正面からするもんじゃない。避けられるものなら避けるほうがいい。逃げて済むんなら、とことん逃げろ。それが一番いい方法だ」と言う。喧嘩は逃げて、逃げ切って済んだら、それがべストではある。ベストではあるが、逃げ切るという行為の本質が、大半の人にはわかっていない。如何なる理由であれ、喧嘩が起こったということは、そこに理由や訳がある。どっちが悪かったということはどうでもいい。喧嘩が起こる状況になった一端は己にもある。では、何故「逃げろ」と言うのか?それは誰でも、殴られたり、痛い思いをするのは嫌だし、辛いに決まっている。そうされたくないから逃げるのである。しかし、“逃げる”という行為は徹底しないと、必ず相手と再会するし、不安を抱いて生きることになる。逃げるのなら、その土地を捨てるのが基本だ。それができない? 来週は喧嘩作法の話を少ししよう。 【続く】


伊集院静(いじゅういん・しずか) 本名は西山忠来。作家・作詞家・在日コリアン2世。1950年、山口県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒業後、『電通』に入社。CMディレクター等を経て、1981年に作家デビュー。『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』(集英社)・『大人の男の遊び方』(双葉社)・『無頼のススメ』(新潮新書)等著書多数。近著に『旅人よ どの街で死ぬか。 男の美眺』(集英社)。


キャプチャ  2017年4月24日号掲載
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