【部活動が危ない!】番外編(05) 「住民の参加、企業と連携も」――長沼豊氏(『日本部活動学会』初代会長)インタビュー
『日本部活動学会』初代会長の長沼豊氏(58)は、“自主・自発”を重視した部活動への転換を訴えてきた。「持続可能性がある部活にする為には“まちづくり”の発想が必要だ」と指摘。中学校の教員として顧問を務めた経験を踏まえ、“辞書的意味の顧問”の大切さも訴える。 (聞き手/社会部とうきょう支局 千脇康平)

――「部活が嫌いな研究者だ」と誤解されることがあるそうですね。
「『部活には改革が必要だ』とは繰り返し発言してきました。元々、部活は大好きなんです。学習院中等科の教員時代はバスケットボールや水泳、ボランティア等の部活で顧問や副顧問を務めました。毎日、ワクワクしながら指導していました。部活には教育的な意義があり、仲間と目標に向かって力を合わせるという点で協調性も学べます。だからこそ、持続可能なものにする為、学校から地域に開いていく発想が必要なんです」
――文部科学省は来年度から、運動部、文化部共に休日の部活を段階的に地域の民間クラブ等に委ねる方針です。長沼さんは、国が使う“地域移行”という言葉ではなく、敢えて“地域展開”と表現しています。
「“地域移行”だと、部活が学校から地域へ、そっくりそのまま移されると誤解されてしまう恐れがあるからです。地域展開が始まったら、民間クラブは中学生だけではなく、高齢者まで地域住民が一緒に汗を流す場所であっていい。クラブの経営面を考えても、その方が持続可能性があるのではないでしょうか。今後も少子化が進み、各競技で指導者や参加者の奪い合いも起きるでしょう。企業と上手に連携し、民間のクラブが良い指導者を迎えながらも、月謝を安く抑える仕組みを整える等すれば、競技人口の減少に歯止めをかけられる筈です。行政も含めた“まちぐるみ”・“まちづくり”の発想で頑張ってほしいですね」
――“地域展開”の方向性をどう見ていますか?
「国の部活ガイドラインは、活動時間の上限を平日2時間、休日3時間としています。ただ、部活の指導の他に授業の準備等をすれば、教員の時間外勤務の上限である月45時間を超えてしまうのが現実です。“部活改革なくして働き方改革なし”。現在のように学校だけで抱え続ければ、部活は持ちません」
――中学教員時代に顧問を務めた経験から、教員にとっての部活の良さをどう考えていますか?
「生徒の成長を間近で見られることです。水泳はタイムを1秒縮めるのも大変ですが、生徒が努力した結果、記録が急に伸びることがあります。『先生! 自己ベストが出ました!』。そんな瞬間に見せてくれた子供の満面の笑みは、今も忘れられません。この喜びは魅力であり、魔力でもあります。部活が好きで指導している先生達の気持ちは、よくわかります」
――今の部活の良い部分は、引き継ぐべきだと。
「高みを目指し、大会で少しでも上位を目指したいという生徒にも配慮しなければなりません。楽しみながら汗を流したい層とはモチベーションが違うので、目的別にカテゴリーを分ける等、工夫する必要があります」
――学習指導要領における部活の位置付けについてはどう考えますか? 指導要領では、教育課程外で「生徒の自主的、自発的な参加により行なわれる」と明記されています。
「指導要領はその一方で、部活を“学校教育の一環”としても位置付け、教育課程との連携を図るとしています。曖昧さは否めません。ただ、指導要領に書かれていることによって、学校で活動する場合は、学校教育の範囲内で責任を持ってやりなさいという“縛り”がかかります。何も書かれていなかったら、今よりも過酷な時間数で練習する等、部活の肥大化を招く恐れもあります。悩ましい問題です。地域展開を踏まえ、次期改定の指導要領で部活動をどう表記するかは、注視すべきポイントになります」
――部活の課題として、学習指導要領に明記された“自主・自発”が失われている点も挙げていますね。
「私は、①生徒の部活への参加は任意である②教員が部活顧問に就任するか否かは選択できる③顧問は“辞書的意味”の顧問である――という“部活3原則”を提唱してきました。生徒全員に部活加入を求め、教員全員に顧問就任を求めることはあってはなりません。部活をやりたい教員や生徒は部活ができて、そうではない教員や生徒はしなくてもいい環境を作ることが大事です」
――“辞書的意味”とは?
「技術的な指導はしなくていい、という意味です。全員顧問制であるが故に、その競技を経験したことがなく、ルールも知らない教員が顧問を任されるケースは多い。只でさえ学校教員は多忙なのに、更に負担をかけているのです。部活の中で起きるトラブルへの対応や金銭の管理といった業務は、顧問として必要です。でも、技術的な指導は運動部なら外部からコーチに来てもらえばいい。費用面は行政が仕組みを作ればいい」
――保護者の意識も変わっていく必要があるのでしょうか?
「中学校の部活は“中学生版の託児所”になっている面もあり、こうした仕組みに皆で甘えてきた面は否めません。先生の頑張りや“ただ働き”に依存してきたことに、しっかりと目を向けなければなりません」
――ただ、部活の運営を地域に委ねた場合、保護者の金銭的な負担が増えることが懸念されています。
「経済的な支援が必要な家庭には、行政による補助の仕組みが必要です。それ以外は、ある程度の受益者負担は仕方がないと考えるべきでしょう。教員のただ働きに依存してきた今までが異常な状態だったのです。部活指導が好きな先生達には、地域展開が始まったら、各競技団体や民間のクラブで活躍してほしい。指導力があって、皆で頑張ろうという空気を作ることに長けた人が多いからです。教員との兼業・兼職で“お手本”としても頑張ってもらうことで、指導者不足への対応策にもなります」
2022年5月18日付掲載

――「部活が嫌いな研究者だ」と誤解されることがあるそうですね。
「『部活には改革が必要だ』とは繰り返し発言してきました。元々、部活は大好きなんです。学習院中等科の教員時代はバスケットボールや水泳、ボランティア等の部活で顧問や副顧問を務めました。毎日、ワクワクしながら指導していました。部活には教育的な意義があり、仲間と目標に向かって力を合わせるという点で協調性も学べます。だからこそ、持続可能なものにする為、学校から地域に開いていく発想が必要なんです」
――文部科学省は来年度から、運動部、文化部共に休日の部活を段階的に地域の民間クラブ等に委ねる方針です。長沼さんは、国が使う“地域移行”という言葉ではなく、敢えて“地域展開”と表現しています。
「“地域移行”だと、部活が学校から地域へ、そっくりそのまま移されると誤解されてしまう恐れがあるからです。地域展開が始まったら、民間クラブは中学生だけではなく、高齢者まで地域住民が一緒に汗を流す場所であっていい。クラブの経営面を考えても、その方が持続可能性があるのではないでしょうか。今後も少子化が進み、各競技で指導者や参加者の奪い合いも起きるでしょう。企業と上手に連携し、民間のクラブが良い指導者を迎えながらも、月謝を安く抑える仕組みを整える等すれば、競技人口の減少に歯止めをかけられる筈です。行政も含めた“まちぐるみ”・“まちづくり”の発想で頑張ってほしいですね」
――“地域展開”の方向性をどう見ていますか?
「国の部活ガイドラインは、活動時間の上限を平日2時間、休日3時間としています。ただ、部活の指導の他に授業の準備等をすれば、教員の時間外勤務の上限である月45時間を超えてしまうのが現実です。“部活改革なくして働き方改革なし”。現在のように学校だけで抱え続ければ、部活は持ちません」
――中学教員時代に顧問を務めた経験から、教員にとっての部活の良さをどう考えていますか?
「生徒の成長を間近で見られることです。水泳はタイムを1秒縮めるのも大変ですが、生徒が努力した結果、記録が急に伸びることがあります。『先生! 自己ベストが出ました!』。そんな瞬間に見せてくれた子供の満面の笑みは、今も忘れられません。この喜びは魅力であり、魔力でもあります。部活が好きで指導している先生達の気持ちは、よくわかります」
――今の部活の良い部分は、引き継ぐべきだと。
「高みを目指し、大会で少しでも上位を目指したいという生徒にも配慮しなければなりません。楽しみながら汗を流したい層とはモチベーションが違うので、目的別にカテゴリーを分ける等、工夫する必要があります」
――学習指導要領における部活の位置付けについてはどう考えますか? 指導要領では、教育課程外で「生徒の自主的、自発的な参加により行なわれる」と明記されています。
「指導要領はその一方で、部活を“学校教育の一環”としても位置付け、教育課程との連携を図るとしています。曖昧さは否めません。ただ、指導要領に書かれていることによって、学校で活動する場合は、学校教育の範囲内で責任を持ってやりなさいという“縛り”がかかります。何も書かれていなかったら、今よりも過酷な時間数で練習する等、部活の肥大化を招く恐れもあります。悩ましい問題です。地域展開を踏まえ、次期改定の指導要領で部活動をどう表記するかは、注視すべきポイントになります」
――部活の課題として、学習指導要領に明記された“自主・自発”が失われている点も挙げていますね。
「私は、①生徒の部活への参加は任意である②教員が部活顧問に就任するか否かは選択できる③顧問は“辞書的意味”の顧問である――という“部活3原則”を提唱してきました。生徒全員に部活加入を求め、教員全員に顧問就任を求めることはあってはなりません。部活をやりたい教員や生徒は部活ができて、そうではない教員や生徒はしなくてもいい環境を作ることが大事です」
――“辞書的意味”とは?
「技術的な指導はしなくていい、という意味です。全員顧問制であるが故に、その競技を経験したことがなく、ルールも知らない教員が顧問を任されるケースは多い。只でさえ学校教員は多忙なのに、更に負担をかけているのです。部活の中で起きるトラブルへの対応や金銭の管理といった業務は、顧問として必要です。でも、技術的な指導は運動部なら外部からコーチに来てもらえばいい。費用面は行政が仕組みを作ればいい」
――保護者の意識も変わっていく必要があるのでしょうか?
「中学校の部活は“中学生版の託児所”になっている面もあり、こうした仕組みに皆で甘えてきた面は否めません。先生の頑張りや“ただ働き”に依存してきたことに、しっかりと目を向けなければなりません」
――ただ、部活の運営を地域に委ねた場合、保護者の金銭的な負担が増えることが懸念されています。
「経済的な支援が必要な家庭には、行政による補助の仕組みが必要です。それ以外は、ある程度の受益者負担は仕方がないと考えるべきでしょう。教員のただ働きに依存してきた今までが異常な状態だったのです。部活指導が好きな先生達には、地域展開が始まったら、各競技団体や民間のクラブで活躍してほしい。指導力があって、皆で頑張ろうという空気を作ることに長けた人が多いからです。教員との兼業・兼職で“お手本”としても頑張ってもらうことで、指導者不足への対応策にもなります」

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